MOTアニュアル2023 

シナジー、創造と生成のあいだ

東京都現代美術館

2024年1月4日(木)



東京都現代美術館が「創造」と「生成」をテーマに国内の若手作家の作品を集めた企画展。

 

  • 「創造」とは人間がつくるもの。

  • 「生成」とは人間以外、AIなどのテクノロジーや何らかの仕組みでつくるもの。


そんな感じでほぼ間違いないだろう。

  

文化庁メディア芸術祭も終わってしまったことだし、「生成」系の作品には期待したい。


 

荒井美波 太宰治「人間失格」

 


 

一瞬、目が悪くなったなどはないかと錯覚するこれは、太宰治の「人間失格」の手書きの原稿の文字を針金でなぞって立体的に作った作品。

 

文学作品がテキストデータとして保存もコピーも可能になった現在、作品のオリジナルはデータということになる。しかし、まだテクノロジーの発達していなかった時代は作者の手稿こそオリジナルだった。実物には、筆跡はもちろん推敲や校正の書き込みもあり、テキストデータにすればアナログな情報が欠落してしまう。


アナログとデジタルの狭間で、オリジナルという実はフワフワした概念が、ビジュアライズされた作品。

 

 

 

後藤映則 Energy #01

 

映画技術が確立する以前、動きを再現するために様々な方法が発明されました。後藤映則の作品はレトロな雰囲気もある特殊な装置でアニメーションを再生します。

  

実際の人の動きを撮影してそれを一コマずつ針金で形にして並べたオブジェを制作。暗闇の中でスリット状の光を当てることで動きを再現します。スクリーンのない暗闇の中で突然人が現れて動き出すのは驚きがあります。

 

8Kとか、3Dとか、ヘッドマウントディスプレイとか、次々に登場する最先端の映像技術は確かに素晴らしいですが、スピーカーと楽器の魅力は別であるように、アニメーション表現の魅力もさまざまです。



(euglena)    watage

アーティスト名が (euglena) 。

作品名が watage 。

綿毛を用いたオブジェ作品です。



 

展示ケースに入っていて無風状態なのに、動いたりする繊細な作品。見ていて思わず息をとめてしまう。


動力はなく、テクノロジーも用いていなくとも人間の動きに反応するインタラクティブな作品でもあります。



やんツー

TEFCO  vol.2  〜アンダーコントロール〜 


建築や土木工事の現場のようなこの作品は、水力発電で実用化されている揚水発電の仕組みを用いたサスティナブルな発電装置。重力発電ともいいます。作品タイトルには毒がありますね。

 

屋外に設置している太陽光パネルが発電する電力を用いて重り(ここでは中古のバイク)を持ち上げ、位置エネルギーにして保存。重りを落下させることで発電機を回して発電という仕組みです。

 

 

発電した電気も作品で、この電気をスマホや携帯電話に充電することができます。私のスマホにも作品を充電しました。

 


花形慎 行為の変性 : STILL HUMAN IN MOTION 


花形慎は身体のあり方をテクノロジーを用いて自身の身体で問いかける作品を作っています。


ヘッドマウントディスプレイをつけて視野を小型カメラからの映像のみしか見えない状態します。映像を送り出す小型カメラは、背中や足、尻など、目とは異なる部位につけて、長時間行動するとどうなるか、という試みです。



移動するために視野を確保しようとすると、人間的でないおかしなポーズで身体を動かすようになります。お尻から前進したり片足を高く上げて歩いたり、やがて、それが自分にとって自然な感覚になり、身体の認識、ひいては常識まで変容をきたす様子を記録した作品です。


我々が思っているほど、人間の心、感覚、身体の関係は固定したものではなく、可塑性があり、可能性と危うさを秘めているものなのです。




Zombie Zoo Keeper

 


Zombie Zoo Keeper は2021年に話題になったNFTアート作品です。


NFTとは、ノン・ファンジブル・トークン(非代替性トークン)の略語で画像や音楽に唯一の無二であること示す、つまりオリジナル作品であることを示す証明書として使われています。このテクノロジーにより、世界中のアーティストがNFTアートを販売し利益を得ることが可能になりました。中には人気アーティストが解像度の低いチープな感じのドット絵を大量に制作して荒稼ぎするということもおきています。そのような状況を冷やかに見ている人、積極的に売買に参加する人がいるのが現在の状況です。


ここにアーティスト草野絵美の息子さんが夏休みの課題で描いていたゾンビのドット絵を、NFTアートとして販売したところ、思わぬ高値で売れ、海外のアーティストの評価も受けたので話題となり、グッズの制作、東映によるアニメ化、ゲームとの提携、などをいくつものプロジェクトが進行しています。


私のNFTアートについての見立ては、オリジナルであることの証明に意味はなくて、あくまでも作品としてどうかということにつきます。


北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」は、オリジナルが無数に存在しますが、絵画そのものが優れていることが価値の根源であって、それ以外は派生して生じる二次的なものです。


Zombie Zoo Keeper は、どれほどの価値があるでしょうか。


 

菅野創+加藤明洋+綿貫岳海

野良ロボ戦隊 クレンジャー


元々AIなど、最先端のメディアアート作品を作っていたアーティストが少し最先端に飽きて一歩引いてつくった映像作品。

5体の中古ロボット掃除機が活躍する戦隊シリーズ風、ヒューマンドラマな作品です。

 

 

石川将也+nomena+中路景暁

四角がいく

 

 

文化庁メディア祭で見たことがあります。

 

台の上に置かれた積み木のような直方体に壁が迫ってきます。壁には直方体の平面と同じ大きさの穴が開けられており、直方体は自ら動いて穴を上手にくぐり抜けていきます。


迫ってくる壁には、仮想のものと現実のものがあります。何もない台の上で仮想世界で迫ってくる壁の穴に合わせて直方体が動く様はなかなか深い暗喩に富んでいます。

 

近年盛り上がっているバーチャルな世界だけではなく、法律、社会通念、など、人間社会を人間社会足らしめているものには、目には見えない枠組みが多い。このひとりでパタパタ動く四角は人間そのものです。ずっと観ていても飽きません。


   



さて、今回のMOTアニュアルも面白かったです。アートの最前線では新しい表現方法が模索されています。


新しい潮流となる何かの「創造」、あるいは「生成」に立ち会えることを次回も期待しています。



 

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