倉俣士郎のデザイン 記憶の中の小宇宙

世田谷美術館

2024年1月4日(木)



椅子は椅子でも座れない椅子は椅子だろうか?


ファッションショーの服が普段着に向かないように

デザインを突き詰めたインテリアは家具としては使いにくい。


それでも、とてもチャーミングであったりする。


そのようなインテリアをデザインした人が

倉俣士郎だ。


桑沢デザイン研究所、三愛を経て、クラマタデザイン事務所を設立。以降、商業デザイナーとして一線を走り続ける傍ら、独創的なインテリアのデザインを続ける。最新の素材や技術を目ざとく取り入れ、新しいデザインを世に送り続けた。


創作活動の根底にあるものは抽象的だ。


「重力から解放されて自由になりたい。」

「浮遊したい。」


わかるような気もするが、具体性に欠ける気もする。


「夢も記憶のうち」とも述べていて、想像力を自由に働かせることを意識して創作に取り組んでいたようだ。



01チェア(ダブル)

01テーブル



名前からして、初めに数字の0、1をモチーフにしたらおもしろいのではないか、と決めて作ったのでしょう。ほとんどパイプのみで構成したミニマルなデザインでありながら、貧相に見えないところが、不思議です。




コンクリートにガラスの破片を流し込ん作った板を用いて制作したテーブル。重量感、存在感が半端ない。少し動かすにも手こずりそうです。



スターピース



カラフルなガラスを混ぜた人工大理石を用いたテーブル。デザインしたのはテーブルというより建材そのもの。写真は照明の関係で黄色く見えますが実物は白い大理石で印象はポップで軽やか。同じ素材を用いた壁面の建材もあり、これを用いたと室内と合わせて使うととても華やかな雰囲気になります。



ハウ ハイ ザ ムーン



建築素材のエキスパンドメタルを用いた椅子。素材選択の斬新さ、造形的な美しさ、背景が透けて見え、見る角度によって印象が大きく変わる面白さ。 

実際の座り心地はというと、うーん、やっぱり金属です。



S字の引き出し

倉俣士郎の家具にはこのS字に波うたせた引き出しの他にも、スペースの効率性、機能性を無視して造形的な美しさを追求した家具が数多くある。縦長の三角形の引き出し、市松模様のように組み合わせられた引き出しなど。こういうデザインを見ていると機能性という枠組みは造形にとって制約となっていることがよくわかる。しかし、使いやすさに拘らず過剰に取り付けられた引き出しは、逆に家具の機能を誇張して、見る道具として面白い。


ガラスの椅子

新しいガラスの接着剤を手に入れたとき、これで椅子を作りたいと思ったそうです。純粋に四角い平面の板ガラスだけを組み合わせてできているので、座って大丈夫なのだろうかと不安になります。シンデレラのガラスの靴のように実用品なのか装飾品なのかわからない不思議な印象です。展示品は座れないので、座り心地は分かりません。


ガラスのバーカウンター

天板がヒビを入れたガラスになっているバーカウンターです。ヒビといってもかなり粉々な感じになっていて、言葉通り衝撃的なビジュアルに仕上がっています。割れると壊れるという素材の特性が持つ印象をデザインに取り込んでいます。

確か割れたガラスには過去が封じ込められているというようなことを言っていたような記憶があるのですが、とにかく素材の見立て方に独自の解釈があってそれが物語めいたニュアンスのあるデザインの秘密だと思います。



椅子の椅子

四角い箱のような形の椅子の上に、薄い板できた椅子が載っているようなデザイン。椅子が椅子に座っているように見え、名前にユーモアが感じられます。椅子も疲れるから時には座りたくもなるよね。こういう面白さを入れるのもクラマタ流。



オバQ

今時の若者はオバQを知らないでしょう。何か丸いものが、布を被ったような形。加工しやすいプラスチックならでは造形。オバQは藤子不二雄の漫画「オバケのQ太郎」にでてくるお化け。白い布をかぶっていて本体は絶対見せない設定になっています。必ずしもオバQに似ていませんが、当時の人は間違いなく、オバQみたいと言ったでしょう。どうせ言われるなら名前もそうしてしまえという潔さ。

ヤマギワの照明器具で、今も販売しています。



ミス・ブランチ

倉俣士郎の代表作。透明アクリルに薔薇の花を浮かべるというアイデアが斬新。だがそのアイデアに寄りかかったデザインではない。

カマボコ型の分厚い手すりの存在感、紫色の光沢のあるパイプ状の脚、背もたれには薔薇が配しておらず透明なアクリルになっています。

倉俣士郎の他の椅子に比べると凝ったデザインをしています。



アクリルスツール

透明な四角形アクリルの中に羽根が浮かぶ。もっとたくさん羽を散らした方がファンシーでウケが良いと思うのですが、そうしないところにこだわりを感じます。表現したいのは前述しました「浮遊感」だと思います。角が尖っているので足をぶつけると痛そうだし平たい座面の座り心地は硬そうです。きっとそういうことはどうでもいいんでしょう。



面白いデザインのプロダクトは今日も生まれ続けています。その中で時代をこえて愛され続けるものはわずかです。亡くなってからもう30年経ちますが、現代的に見える際立つ斬新さ。これからも愛され続けるデザイナーとして語り継がれるでしよう。


 

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