映画:春画先生
監督:塩田明彦
映画館:新宿ピカデリー
面白かった。春画をネタにした恋愛コメディというか、大人のエロいユーモア映画というか。演技がオーバーなところが、舞台演劇的な感じがしました。
春画の勉強になるかといえば「少しは」という位。
詳しい人なら、誰でも知っている話や作品が出てきます。
<ここから、ネタバレ全開です。>
喫茶店で働く春名弓子(北香那)はある日、店内で春画を見ている客に出会う。性器丸出しの絵に釘付けになってしまった弓子に、その客は関心があるならうちに来なさいと名刺を渡した。
客の名は春画研究者、芳賀一郎(内野聖陽)。店員の間では「春画先生」と呼ばれる変人だった。
もともと美術に興味があった弓子は衝動を抑え切れず、芳賀の自宅を訪ねてしまう。
そこで春画を見せられた弓子は、気がつけば芳賀と意気投合、週1回学びに来なさいと勧められ、家事を手伝うことを条件に芳賀の自宅に通うようになる。
こうして春画を嗜むようになってから、しばらくして弓子はワインと春画の夕べという鑑賞会に誘われる。芳賀は亡き妻「いと」のドレスを弓子のために用意し、2人して鑑賞会に出席する。その席で弓子は、芳賀の過去の女性とのエピソードを聞かされることになってしまう。
芳賀は学生の時に付き合っていた女性と初めて結ばれた夜、行為の真っ最中に論文のアイデアが浮かび、快楽と理性の狭間で抱いている相手のことをそっちのけでメモをとってしまう。このことがキッカケで女性とは別れることとなったという。しかし、その時の論文によって春画研究者への一歩を踏み出して現在に至った。
歌麿は行為をして春画を描いた、北斎は行為する間も惜しんで春画を描いた。芳賀は歌麿タイプでした。
親しくなってきたものの、二人の関係は一向に進展しない。そんなある日、芳賀の家にやけに馴れ馴れしい若い男が訪れる。男は美術の出版社の編集者にして、芳賀の教え子でもある辻村俊介(柄本佑)。芳賀に執筆を依頼した「春画大全」の進捗を見に来たのだ。筆が止まっていた芳賀は弓子と出会ってから、執筆を再開したという。
大学を出禁になっている変人の芳賀の代わって春画の資料を受け取りに、辻村と大学を訪ねた弓子は、帰りに夜のバーで芳賀の過去を聞くことに。それは以前聞いた話の続きだった。
逃げた女性を諦め切れない芳賀は、女性の家を訪ねるが、いつも門前払い。ところがなんと門前払いに出てくる別の女性に惚れてしまった。その人は付き合っていた女性の妹「いと」だった。お互い惹かれ合うものを感じながら、姉の手前、本心を打ち明けることができない。やがて芳賀は海外に転勤となり別れることとなってしまった。ところが七年後、とある寺で奇跡的に再会、二人はその場で結ばれ情欲に火がついて七日間もの間、まぐわい続けた。それを後に伝説の「七日間の御籠もり」と呼ぶようになった。
そんな一郎の話に、気持ちが高まってしまった弓子はお酒の酔いも手伝い辻村と一夜を過ごしてしまう。翌朝、我に返って怒りと自己嫌悪に陥っている弓子にさらなる事実が明かされる。
芳賀は辻村に二人が関係を持つことを公認するばかりか、行為中の弓子の声をスマホで聞いていたというのだ。弓子に惹かれているものの、亡き妻いとを忘れられない悩める心が歪んだ愛の形になってしまったという。
怒った弓子は芳賀の元を離れ、喫茶店のバイトに戻ってしまった。暫くして喫茶店にやつれきった芳賀一郎が訪ねてくる。君が必要だと。
二人は亡き妻いとの命日に墓参りいく。そこで芳賀はまだいとのことを忘れられないこと、しかし少しずつ気持ちに変化があって弓子の気持ちに応えることができると思っていることを打ち明ける。芳賀の気持ちを理解した弓子は、この関係を受け入れる決心をする。
ここからの弓子のはっちゃけぶりは、清々しいくらいです。
芳賀、弓子、辻村、3人で春画を研究のため、日本各地を訪ねる旅にしばしば行くようになる。昼間は真面目な春画研究、夜はスマホで芳賀に生中継をしながら、弓子と辻村が床を共にするという奇妙な三角関係の旅。弓子は春画を学ぶことで性に奔放な江戸時代の価値観を実践するようになっていた。
そんな旅先の春画の鑑賞会で三人はいとと瓜二つの女性に出会う。彼女はいとの双子の姉にして芳賀のかつての恋人、藤村一葉(安達祐実)だった。
北斎の「蛸と海女」の載っている艶本「喜能会之故真通(きのえのこまつ)」を講釈士が読みあげ、皆で観るという鑑賞会。江戸時代もこういうイベントはあったのでしょうか。
鑑賞会の夜、芳賀は一葉に誘われどこかへ去ってしまい、そのまま音沙汰がなくなってしまった。自宅を訪れても留守のまま。辻村が聞いたところでは、春画の貴重な出物があり独りで行動しているという。芳賀と一葉がよりを戻したのではと気が気でない弓子に、やっと芳賀から会いたいと電話が入る。待ち合わせ場所はなぜかラブホテルだった。
すっかりその気で会いに来た弓子に、芳賀は言いにくそうに頼み事を切り出す。とある人物が、貴重な春画を持っているが譲ってくれない。春画を譲る代わりに弓子を一晩差し出せと言っているという。相手は芳賀に私怨があり、そのような要求を出しているらしい。
弓子は無茶な頼みを承諾するのと引き換えに、今からこの場で、七日間の御籠もりをさせて下さいと申し出る。
芳賀はサイテーのクズ男ですが、弓子はとうに自由な女になっていてました。
芳賀との七日間の御籠もりを成就した弓子は、謎の依頼人の元に連れて行かれる。どこか遠い場所にある妖しい洋館の部屋に待っていたのは、一葉だった。妹亡き後、弓子に心変わりをした芳賀を許せないという。弓子を辱めようとする一葉に、弓子は一歩も引かず立ち向かう。思わぬ反抗に驚きを隠せない一葉は、何を思ったかベットの下に向かって声をかける。するとベットの下から、一人の男が這い出てきた。それは芳賀だった。隠れて2人の行為を盗み聞きしていたのだ。
混乱する弓子に一葉は今この場で芳賀を抱きなさいと命令する。そのとき、弓子はようやく芳賀という男の愛し方を理解した。芳賀の上に馬乗りになって侮蔑の言葉を浴びせる弓子。恍惚とした表情の芳賀。そこで二人は改めて深く結ばれていった。
この映画、私にとっては笑って見る映画でした。江戸時代、春画は「笑い絵」と呼ばれていました。美術、小説、映画では美しく描かれる性の営みは、実際には人それぞれ、本人は夢中でも他人の目には滑稽に見えるものです。この映画自体が笑い絵の体裁をとっています。
物語としては、ドMの芳賀が弓子をドSに育てあげる話とも言えます。かつていとに毎回門前払いをくらって惚れてしまったのもその性癖のせいでしょう。弓子を芳賀の理想の女性に育て上げるのに一葉も一役買ったことは確か。一体どこからが共犯になったのでしょうか。
映画の終わりに、七日間の御籠もりにチャレンジした時の様子が語られます。弓子と芳賀は「春画大全」全7巻の内容を順にそって愛し合ったそうです。最初の体位は後背位。日本史における最初のセックスは古事記にあるイザナギとイザナミ。二人はやり方が分からず、セキレイの交尾の姿を見て、見よう見まねで行ったと記されているので後背位だったと考えられています。こんな古今東西のあらゆる性愛のスタイルをすべて踏襲していったら七日間でも全く足りないでしょう。
春画の雰囲気を映像で再現した大人のファンタジー映画でした。
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