パリ ポンピドゥーセンター
キュビスム展 — 美の革命
ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ
国立西洋美術館
2023年10月9日(火)
キュビズムを扱った展覧会は年中行われていますが、これはまさに決定版。フランスのパリにあるポンピドゥーセンターから、初来日のコレクションが数多く来ています。ピカソ、ブラックに偏ることなく始まる前から終わった後まで、その全貌をたどる展覧会です。
コーナータイトルを見るだけで、頭が整理される感じです。
- キュビズム以前ーその源泉
- 「プリミティヴィズム」
- キュビズムの誕生 ー セザンヌに導かれて
- ブラックとピカソ ー ザイルで結ばれた二人(1909-1914)
- フェルナン・レジェとフアン・グリス
- サロンにおけるキュビズム
- 同時主義とオルフィスム ー ロベルト・ドローネーとソニア・ドローネー
- デュシャン兄弟とピュトー・グループ
- メゾン・キュビスト
- 芸術家アトリエ「ラ・リュッシュ」
- 東欧から来たパリの芸術家たち
- 立体未来主義
- キュビズムと第一次世界大戦
- キュビズム以降
ポンピドゥーセンター所蔵の作品は撮影OK。知っている作品も多く、ここぞとばかりに撮りまくってしまいました。
12 パブロ・ピカソ 女性の胸像
アフリカ美術の影響が色濃く見られる女性像。どう見ても仮面のようです。絵の上手い人にとって見たままに描くと、見たままにしかならずつまらない。それが表現に飛躍を求めるモチベーションになる訳ですが、この女性の顔の描き方の思い切りの良さと力強さはピカソならではです。
16 マリー・ローランサン アポリネールとその友人たち(第2ヴァージョン)
マリー・ローランサンは、ガチでキュビズムをやっていました。ただ、これは違った意味で貴重な作品。中央にいるのが、詩人にして批評家でキュビズムの発展に貢献のあったギョーム・アポリネール、右にいるのがピカソ、右の手前にいるのがローランサン(多分)という記念写真的な一点です。タイトルの通り第1ヴァージョンもあってキュビズムのアーティストの親密さが伺える作品です。
17 ジョルジュ・ブラック レスタックの高架橋
セザンヌにハマったブラックが南仏のレスタックに何度も訪れセザンヌの風景画を研究し、キュビズムに到達した一枚。家がキューブ(箱、立方体)です。色彩の選択、筆使いはセザンヌっぽい。
23 パブロ・ピカソ 肘掛け椅子に座る女性
見たものを立方体などの基本的な立体に分解して描く。この斬新なアイデアに取り憑かれたピカソとブラックは身の回りのモチーフを対象に絵を描いていきます。
といっても、人間はLEGOブロックではありませんから、そう簡単にはいきません。この時期の作品は分解が目的で主題の表現が重視されていません。その分、対象と作品の関係が単純で、ある意味見やすい。
31 ジョルジュ・ブラック 円卓
キュビズムは視点や形態の問題として始まったので、色彩はあえて使いません。いわば数学の数式のように、無駄な情報が削ぎ落とされています。その分、対象から表現に至る描き手の意図を想像しやすく、ピカソとブラックのこの時期の作品がキュビズムの代名詞となっているのは納得がいきます。
34 ジョルジュ・ブラック ギターを持つ女性
単なる分解から一歩進んだ感じです。木の年輪、雑誌か新聞の文字、唇や指と元の形を残しています。分解しすぎるとギターを持つ女性という対象がわかりません。LEGOブロックで作った人形をバラバラに分解してしまえば、人形ではなく只のLEGOブロックです。分解したパーツで何かを表現する方向に向かい始めています。
51 ロベール・ドローネー パリ市
キュビズムを使って何かを描く。これに取り組んだのはピカソやブラックではなく、サロン・キュビストたちでした。これは古典的主題の三美神に、最先端の建築のエッフェル塔、革新的絵画表現のキュビズムでパリを描いてみた。という作品です。
46 アルベール・グレーズ 収穫物の脱穀
これもキュビズムを使って古典的な画題を描いた作品です。農作物の収穫というとバルビゾン派が思い起こされます。色彩は、元の風景からそのまま持ち込まれています。こうしてキュビズムで何かを描くというのが、広まっていきます。ですが、表現したいコンセプトに対して何故キュビズムで描く必要があるのかが不明確なので、画家たちはさらに新しい表現に向かっていくことになります。
53 ロベール・ドローネー 円形、太陽 no.2
ドローネーは、キュビズムから前へ進んで抽象表現まで手がけます。分解しすぎて何かわからないところまで行った時、もはや対象は意味がなくなるのは当然かもしれません。このような作品を前述したアポリネールは「オルフィスム」と呼びました。「キュビズム」ほど有名ではありませんが、抽象表現の先駆として重要な作品です。
77 アマデオ・モディリアーニ 女性の頭部
モディリアーニはキュビストと共に作品を展示していました。但し、絵画ではなく彫刻です。私は昔から、みんな同じに見えるモディリアーニの絵画の妙に単純化された人物像が不思議でしょうがありませんでした。どうして飽きもせずこの形に落ち着くのだろうかと。この作品を見てイメージの元に立体があったからだと得心しました。シンプルでも立体は平面より存在感があります。モディリアーニは病弱で体力のいる彫刻を諦めざるをえなかったそうです。彫刻家として大成したモディリアーニの作品を見てみたかったです。
90 ミハイル・ラリオーノフ 散歩:大通りのヴィーナス
イタリアを中心に興った未来派の表現はロシアへはキュビズムと同時に入って来ました。ロシアのアーティストはかなり自由にそれらの表現を使いこなしています。この作品は未来派とキュビズムの合わせ技となっています。動きがあり、色彩がある。ここまで来ると、形態の問題は、部分的な課題に過ぎずより表現したいことの方が重視されています。
110 ル・コルビュジエ 静物
国立西洋美術館の建築家としても知られるル・コルビジェが、終わりに出てくるのも何かの縁でしょう。キュビズムという考え方が広まっていく中で、絵画とは何でもありということになっていくのが、現代美術の流れですが、そんなことはないというのがこの時期のコルビジェの作品です。キュビズムの発展系として「ピュリズム」を提唱しています。建築家らしく定規とコンパスで、元々幾何学的なものを描いています。
この頃には、キュビズムの作品展示も以前のような反響は呼ばなくなり、西洋美術を席巻したキュビズムはひとつの区切りを迎えます。絵画の領域に留まらない大きなムーブメントは、1907年〜1925年の18年間くらいの出来事でした。長いのか短いのか、判断の難しいところですが、美術史の流れをいい感じで追体験できた展覧会でした。
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