野又穫 Continum  想像の語彙

東京オペラシティアートギャラリー

2023年8月29日(日)



チラシやポスターより、実物の方が断然良い。

野又穫はそういう画家です。


実物を見るまでは、地味な作品という印象を抱いていましたが、落ち着いた色調と細密な描写で、建築物の絵画にも関わらず見ていて飽きることがありません。



27  Forthcoming Places-10  

      来るべき場所 10


この建築物にどこまで建築学的根拠があるのかわかりませんが、説明もなく自分の世界観を完成させてしまっている。ダビンチの手稿のような画力から生じる説得力があります。



13  Sublime-23

      崇高なる空 23


野又穫は広告の仕事をする傍ら、このような作品を描いていました。


やがて東京オペラシティの共同事業者であり、コレクターである寺田小太郎の目に止まります。寺田小太郎は野又穫の作品を気に入り購入を続け、やがて寺田コレクションとして、東京オペラシティアートギャラリーの収蔵品となります。


その後、イギリスのギャラリーで取りあげられて、海外で知られるアーティストとなりました。



19  Nowhere-1

      世界の外に立つ世界 1


そもそも何を描いているのか謎です。昔のハヤカワSF文庫の挿絵のような、古典的なタッチの油彩で写実的に描いた遠い宇宙の未知の文明の建築物とでもいう感じです。



57 Alternative Sights-2


人間は登場しません。(植物や魚はたまに登場します。)絶滅してしまったのか、たまたまいないのか、人間の世界では無いのか。



34  Eastbound-23

      東方へ23


56  Alternative Sights-1


何かの機能を併せ持っている建築のようです。風車、気球 帆などが取り付けられ機能的であるかのように見えて、実用性があるのか怪しげです。単なる妄想なのでしょうか。何かの物語の重要なものなのでしょうか。


46  Babel 2005

      都市の肖像


世界で最も有名な建築物の絵画といえば、ピーテル・ブリューゲル「バベルの塔」。これは間違いなく引用ですが、他の作品は何に影響されているのかはよくわかりません。


48  Skyglow-V3


そんな野又穫の作品が変わったのは2011年。東日本大震災で絵を描けなくなってしまったそうです。


78  Listen to the tales

  交差点で待つ間に


バベルの塔に象徴されるように、建築は人間、文明の業そのものです。自然界に存在しない巨大な構造物の極みである原子力発電所が崩壊して災害をもたらしたというのは、夢の建築物を描く野又にはキツイ出来事だったと想像できます。


そのブランクを越えて、その想像はさらに飛躍し始めています。


84  Continuum-1


83  Imagine-2


描くものも少しずつ幅を広げているようにも見えます。


82  Imagine-2


見ているうちにだんだんニヤニヤしてきてしまいました。自らが面白いというアイデアをひたすら形にしている。




環境問題や行き過ぎた文明の進歩に対してのメッセージなど、もう少し意味や文脈に着地させても良さそうなのなのに、そういう方向には進まず、マイペースに未知の世界の建築を描いています。


彼の描くものが現実の世界に近づいていくのか、更なる妄想の世界、いや理想の世界を突き進むのか、興味はつきません。


 

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