「あ、共感とかじゃなくて。」
東京都現代美術館
2023年8月11日(金)
今年いちばん面白い美術展ではないだろうか。
安易に理解できる作品を否定し、作る側と見る側の共感はなく距離のあるままでも、伝わるものはあるというコンセプトで作品を集めています。
1 有川滋男
この展覧会の企画に沿った、そして一番賑わっていた謎作品。
聞いたことのない名前の企業の展示ブースが4つ。企業紹介の映像が流され、関連するアイテムの展示がされています。
しかし映像を見ても何をしている企業なのか皆目見当もつかない。
ある者にとって日常の当たり前のことでも、他の者にとってはそれが何をしているのか全くわからない。
どこにでも存在する理解の壁を端的に提示する作品。
それにしても、これ何の会社なの?
凄い気になる。
2 山本麻紀子
他人の妄想ほど理解不能なものはありません。展示スペースの中央に巨大な歯が置かれています。
作者が想像する巨人の歯です。落としていった歯を作者が拾ったという設定のようです。川をどんぶらこ、どんぶらこと流れている映像もあります。
この他に地方に伝わる伝説、歴史などを取材して、制作した作品があります。ただ絵を描くとかではなく、現地の植物から染料をとり、布を織ってという手順を踏む作品です。
3 渡辺篤(アイアムヒア プロジェクト)
この作品、昨年「あいち2022」で見ました。当時は展示作品が多くコラムに書くことができなかったので、再会できて嬉しい限りです。
しかも展示のスケールはこちらの方がより大きくなっていました。
渡辺篤は引きこもりの経験のあるアーティストで、引きこもりの方の支援活動もしています。
コロナが流行り、人々のリアルな接触が不自由になって世界中が強制的に引きこもり状態になってしまった時に、同じ月を見て写真を撮るというプロジェクトを始めます。
それぞれの自分の家から撮影した月の写真を送付してもらい、ひとつのアート作品にするというものです。
一枚一枚の写真を撮影する人の気持ちが伝わるSNSを活用した美しい作品だと思います。
展示室の中央はカーペットが敷いてあり、クッションや、スタンドが置いてあります。靴を脱いであがると、自宅の部屋にこもって夜空を見上げている時のように円いスクリーンに映された月の映像を寝そべって見たり、スタンドの元に置かれた本を見ることができます。
コロナで外出できなかった部屋から、
引きこもっている部屋から、
忙しい日常が終わり独りになった部屋から、
夜、空を見上げて月を見る。
月は一人であることを許してくれる優しい存在。
だと思います。
あの時も今も変わらず静かに私たちを見守っている月を見てみませんか。
4 武田力
使わなくなった昔の教科書を収集して貸し出す移動図書館です。
この企画展に合わせて教科書の募集も行ったそうです。会場ではトラックの本棚から好きな教科書を取り出して読むことができます。
手にとった教科書の内容はにあなた学んだものと同じものでしょうか。
教科書は恐ろしいくらいに世代を分けます。小中学生の時に覚えたことは一生忘れません。同世代なら知っている話も年上や年下は全く知らない、よくある共感できない話です。
5 中島伽耶子
中島伽倻子の作品は瀬戸内国際芸術祭で見たことがあります。古民家全体にアクリルの細い部材を通して外の光を持ち込むインスタレーションです。
この建物をぶち抜くように建てられた黄色い壁にも
たくさんの小さな穴がありアクリル棒を通しています。
壁に見えるグリッド状の点がそれで、反対側の光が通り輝いて見えます。一方の壁の中央にあるボタンで反対の側の照明を点けることができます。
壁に隔てられ見ることはできなくとも、何かが届き伝わります。
伝わるのが当たり前と思っていると、もどかしさを感じますが、勝手に伝わっていると勘違いしていただけかもしれません。
わからなくとも面白みはあり、何かのキッカケたり得ることを体験できれば、見に来た価値は十分ある、そういう展覧会です。
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