闇に帰る
こちらは砂曼荼羅にガラスを被せて火薬で吹き飛ばした作品。砂曼荼羅はチベット仏教で僧が描く砂の曼荼羅で、精緻で色彩豊かなものですが、完成したら必ず壊してしまいます。同じ壊すにしても火薬で吹き飛ばすことで、原型を全く留めていなくても、存在した砂曼荼羅の記憶の残像を永遠に定着しています。
1990年代から世界中で実現している花火のプロジェクトは、記録映像で展示されています。その土地の歴史に風水のような中国の思想を合わせたサイトスペシフィックな作品です。街や公園、建築物、史跡などさまざまな場所で、ロープ状に繋がる火薬を張り巡らせ火をつけて、宙を舞う龍のように花火を爆音とともに走らせます。何と言っても花火ですから、大勢の人を集めてのイベントととして客受けは良いでしょう。
万里の長城を10,000メートル延伸するプロジェクト:外星人のためのプロジェクトNo.10
このシリーズは母国中国でも実現させています。万里の長城を花火を使って10km延伸するという壮大な作品です。蔡國強はこのような大スケールのプロジェクトは外星人、地球外生命体に観てもらうためのプロジェクトと位置付けています。万里の長城は人工衛星から見える人工建造物ともいわれますから、宇宙から見れば、万里の長城の線が光の線となって伸びてゆく様が見えたでしょう。
この人気シリーズの一方で、1999年の世紀末最後の瞬間に地球上のすべての電気を消すというプロジェクトを提案しています。当時、ミレニアムを記念する作品として花火をという依頼が複数あったにも関わらず、全て断ったそうです。次の1000年を生きる人類に地球を託す時、ひたすら前へ進み拡大を続ける文明に、ひとときの安らぎをもたらすべきであると。
このアイデアを火薬で描き作品にもしています。
このように蔡國強は火薬という素材だけで勝負するアーティストではありません。思想や世界観から次々に新しい形式を生み出すアーティストです。実現不可能なアートプロジェクトも考え、次々に発表しています。
人類の墓名碑
今回の展覧会では、展示室の1/3のスペースをLEDによるインスタレーション作品が占めています。
未知との遭遇
元々はメキシコのチョルーラで行った花火のプロジェクトです。ここで蔡國強はメキシコの伝統花火、「カスティージョ」とコラボしました。カスティージョは打ち上げるのではなく、高い鉄塔にさまざまなモチーフを型どった花火をたくさん取り付けて点火する仕掛けです。花火の勢いで回転したり動いたりします。蔡は宇宙まつわる伝説、事物、功績のあった偉人のデッサンをおこし、この伝統花火の職人に依頼してカスティージョに仕立ててもらいました。現地ではメキシコの夜空を13個のカスティージョが華やかに彩りました。
その花火をLEDとモーターに置き換えて、インスタレーションとして再構成しています。花火を模してLEDは動いたり色を変えて光り、やがて消えてしまいます。
この他に、日本のいわきで活動していた時期の記録展示もありました。いわきに住む人たちと親しくなり、その力も借りて次々とプロジェクトを実現しています。
地平線プロジェクト 環太平洋より
地元の漁師などの力を借り、いわきの沖合に全長5000mの火薬を仕込み、夜に点火するプロジェクトです。陸地から見ると夜の海面、水平線上に花火が地球の形をなぞる光の線となって走るのが見えたそうです。
廻光 - 龍骨
いわきの砂浜で朽ち果てていた漁船の残骸を作品にすることを思いつき、地域住民の力を借りて巨体な立体作品に仕上げます。一種のモニュメントです。この作品はいわきの人々の協力でもう一点再制作され、海外の美術展に出展。世界中の美術館を巡りました。
満天の桜が咲く日
2023年6月26日、この展覧会の開催直前に行われた最新作です。元々は東京オリンピックのイベントの一環として開会式前日に行う予定で準備された作品ですが、コロナのため中止となりました。今回の個展に合わせてイブ・サンローランが協力、実現しました。いわき市四倉海岸で昼間に行う花火のイベントです。青い空に色彩豊かな花火が打ち上げられました。公式に公開されている映像をご覧ください。
とても情報量の多い展覧会で、書いても書いても語り足りず、駆け足なコラムとなりました。実はさらに多種多様な作品を作り続けているアーティストです。全貌の一端を覗きに国立新美術館へお越しください。
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