重要文化財の秘密

東京国立近代美術館

2023年3月21日(火)


 

昨年末に上野の東京国立博物館平成館にて開かれた「国宝展」に対抗(?)して、東京国立近代美術館が70周年記念で「重要文化財展」をぶつけて来ました。

 

国宝に対して重要文化財の歴史は意外に浅く、第二次世界大戦後の1950年(昭和25年)5月30日制定の文化財保護法によって定められたものです。

 

美術工芸品(日本画、洋画、彫刻、工芸)で現在までに認定された数は10872件。寺社仏閣、武家を中心にしたものが多く、明治以降に制作された近代以降の作品はわずか68件。本展は68件中、51件を展示します。

 

数百年の時を経て受け継ぎ、守られてきた文化財は時間というフィルターによって価値が裏付けられています。対して今作られているものから後世まで伝えるべきものを選び出すというのは野心的な行為だと思います。振り返ってみれば、これは違ったというのもあるかもしれません。


何が言いたいかと言いますと、肩書きを抜きにして常にまっさらな心で作品に向かい合おうということです。


半分以上は見たことがあるので、備忘録的に気になった作品を記していきます。

 


8 横山大観 生々流転

全長40.7メートルの絵巻物。水墨画です。深い山の風景から始まり海まで続く大作です。素人目にも流れがわかりやすく、結末へ向け盛り上がっていく構成の巧みさ、横山大観は大作が得意な画家だと思います。

皆さん並んでじっくり見ていましたが、私は何度か見たことがあるので、今回はスルーしました。これは必見の重要文化財です。


 

14 川合玉堂 行く春

私は川合玉堂の描く日本の風景がとても好きです。

この作品は二曲一双の屏風絵で川合玉堂の作品の中でこれは大きい方に入るのではないでしょうか。


切り立った岩肌に囲まれた渓流を降る屋形船。

渓谷を小さな花びらが舞い散ります。

左隻の岸の桜の木の花びらは浮き上がって立体に見えるほど繊細な筆使い。

丁寧な仕事で描かれた景色は本当に美しい。 




19-1 鏑木清方 築地明石町

19-2 鏑木清方 新富町

19-3 鏑木清方 浜町河岸

「築地明石町」、このシンプルな立ち姿の女性像にには惚れ惚れします。東京国立近代美術館の鏑木清方展が一年前。一年ぶりの再会です。昨年重要文化財に認定されました。三部作なので三点揃って漸くエントリーに至ったような感じですが、この作品一点でも重要文化財で良いと思います。

 


20 鏑木清方 三遊亭円朝像

鏑木清方といえば女性像というのが一般的ですが、これは男性像。落語家の円朝です。和服の小紋の描写が凄い。こういう地味で根気のいる丁寧な仕事を積み上げていくところに、職人気質を感じます。落ち着いていて貫禄のある佇まい。深い人間観察に基づく肖像画です。

 


23  漣 福田平八郎

「さざなみ」と読みます。白地に青い太い線が幾重にも引かれていて何の模様かと思うのですが、波と言われれば、そうかと気づく、そんな絵画です。福田平八郎でしたら、もう少しキャッチーな「雨」とかが私は好きですが、日本画と抽象絵画の間にあるような表現が革新的と評価されたのでしょうか。



41 高村光雲 老猿


老いながらもまだ意気盛ん。左の腕が逃した鳥の羽を岩ごとつかみ前を凝視する。全身を覆う長い体毛まで掘り込む細かさと、腰掛ける岩場の大胆なデフォルメとが、変化に富んでいる。力強い作品です。明治時代1893年の作品で第3回万国博覧会(シカゴ)に出品し優等の賞を取った当時から国内外で評価の高い彫刻ですが、重要文化財に認定されたのは1999年。猿だったからですかねえ。

 


43  荻原守衛 北條虎吉像

 

荻原守衛といえば「女」が思い浮かびますが、残念(?)ながら男性の像です。「女」もこの展覧会の後期に出展されます。荻原守衛は「女」「北條虎吉像」の2作品が重要文化財に指定されています。この方は知人だそうで、人格描写とはこういうもの、さすがロダンの弟子という肖像彫刻です。1968年に重要文化財に指定されています。

 

 

45  初代宮川香山 褐釉蟹貼付台付鉢

 

超絶技巧といえば、宮川香山。初めて見た時は衝撃を受けました。何度も見ているので、慣れてきましたが、やはり凄いです。2002年に重文となりました。明治の頃の超絶技巧系の作品は今後も重文に加わっていくでしょう。技巧は芸術に非ず、というのは確かですが、美は細部に宿るというのも大事な視点です。 

 


48 鈴木長吉 鷲置物

 

金属加工の技術は、日本刀を中心に江戸時代の間、長く受け継がれてきたものです。突然、武士がいなくなり廃刀令、廃仏毀釈と仕事を失う一方、明治政府の指導で海外輸出品として、他の伝統工芸品とともに多くの作品が作られてきました。職人は腕は立ちますが芸術という概念に疎く、売らんかなを目的に作った商品は流行が廃れるように売れなくなっていきます。この見事な鷲が重文になったのは作られてから100年以上経った2001年でした。

 


重要文化財をテーマにしたこの展覧会は私に新たな気づきを与えてくれました。専門家の方々が選び決めたものだとしても、価値観の揺らぎは生々しく、美術史上の価値と作品魅力のギャップは避けられない。あまりピンとこない作品もありました。


繰り返しになりますが、いつでも権威のバイアスをいなしてまっさらな気持ちで作品を見るよう心がけねば、と思った次第です。



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