第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展
日本館展示帰国展
ダムタイプ|2022: remap
アーティゾン美術館
2023年2月25日(土)
2022年のヴェネチア・ビエンナーレの日本館では、ダムタイプのインスタレーション作品が展示されました。この作品をアーティゾン美術館にて再現展示しています。
薄暗い展示室に機材を持ち込むダムタイプのインスタレーションは一見謎めいて見えますが、実はシンプルなコンセプトに基づき、無駄のない研ぎ澄まされた構成であることが多いです。
4階の大小2つの展示室のうち、大きい展示室の中央に上下にスクリーンが設置されています。正確には上がディスプレイ、床にあるのは鏡です。
ここに地図が投影されます。世界各地、ヨーロッパ(イギリス、フランスなど)や南米(ガラパゴス諸島、フォークランド諸島など)が次々と映ります。
投影する地域が恣意的に選択されているのかは、わかりませんが、同じ映像をループして使っているようなので、意図があるのかもしれません。
このスクリーンを四角く取り囲む形で壁が建てられています。壁の方向は東西南北に正対しています。この壁に赤いレーザー光で英文が次々と表示されます。
そして壁の外側の展示室の壁際に世界各地の土地の音を録音したレコードが、配置されています。位置は作品の中心点から音源の録画場所の方角に正確に合わせています。
レコードには録音された場所が記されています。
上にあるライトが点灯しターンテーブルを照らした時だけ、記録されている音声がスピーカーで流す仕組みです。流れる音は街の雑踏の音であったり、時には誰かの喋る声であったりします。
中央のスクリーンの周りには細長い柱のような指向性のスピーカーが設置されており、特定の場所で囁くような人の声が聞こえてきます。
インスタレーション全体は、世界の縮図のような構造です。
中央のスクリーンに地図が次々と映され、暗がりの中、レーザーの赤い文字と囁くような音声で英語による問いかけが、いくつも続きます。
What is the Earth?
What is an Ocean?
Who governs a Kingdom?
How many Countries are there?
What Country furthest north?
これは1850年代の地理の教科書から取られた質問です。問いかけがひと通り終わると会場は闇につつまれ、しばらくして再開します。
このインスタレーションは、remapというタイトルの通り世界地図を見直す、作り直すというものです。それは歴史上、幾度なく繰り返されたことであり、現在進行形でも行われていることです。地図が変わるということは、世界が変わるということであり、それは大概良くない出来事の結果であることが多い。
特に2022年から今日までの世界情勢の大きなうなりをリアルに感じるこの時期に見ると、無機的、機械的な表現でも批判的な解釈が頭をよぎります。
その地図の見直しにどういう意味があるのか?
その国境の見直しにどういう意味があるのか?
その政治体制の見直しにどういう意味があるのか?
私たちは暗闇の中でただ彷徨い観ているだけでよいのか?
答えを見るものに託すのは現代アートの常套手段です。
あなたの答えは何ですか?
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