京都・智積院の名宝

サントリー美術館

2023年1月14日(土)


 

お恥ずかしながら

「ちせきいん」と思っていました。

「ちしゃくいん」でした。


弘法大師空海(774〜835)の真言宗。この真言宗中興の祖、興教大師覚鑁(かくばん 1095〜1144)が高野山を離れて確立した教学から生まれた真言宗智山派。その総本山が京都の智積院です。

 

智積院は徳川家康から寄進を受け、江戸時代初期に現在の地にて再興を迎えます。ここには豊臣秀吉が亡き息子、鶴松(棄丸)の菩提を弔うために建てた祥雲禅寺もあり、智積院は400年以上に亘り、二度の火災と一度の盗難などの災難を受けつつも数々の名宝を守ってきました。



中でも国宝である長谷川等伯、久蔵の障壁画は有名です。そして「楓図」「桜図」の同時展示は初、注目の展覧会です。


  • 松に秋草図 長谷川等伯
  • 桜図 長谷川久蔵
  • 楓図 長谷川等伯
  • 松に黄蜀葵 長谷川等伯


展示フロアをぶち抜いて四つの障壁画を一挙に展示していました。個別には見たことはありましたが、一緒に見ると違う気づきがあります。


24 国宝 松に秋草図 長谷川等伯

大きい。高い。障壁画ならではの大画面です。「桜図」も「楓図」も実は上下が切られ小さくなっています。対してこの作品は制作当時の大きさを維持していると考えられています。この大きさだと、絵というより風景のように感じます。松はややおとなしめで、芙蓉、すすき、などの秋草が主役の落ち着いた作品です。

 

22 国宝 桜図 長谷川久蔵

胡粉で盛り上げた白い桜の花があふれるように咲き誇り、画面を覆う金色の雲、深い青色の川、日本画特有の平面なレイヤーを手前から奥に向かい重ねたような立体感があり、空間性が高い。主役は桜の花ですが、蒲公英(たんぽぽ)、菫(すみれ)、山吹、と脇役もしっかり描かれていてスキがない。全体として品の良さがあります。

  

21 国宝 楓図 長谷川等伯

松のような力強い太い幹の楓をオブジェのように中心に据えた視野に収まらない大胆な構図。楓図と言っても紅葉は赤ばかりではなく、緑、黄、画面一杯に色彩が乱舞する。豪華絢爛が好みの秀吉の趣味に寄せているのだろう。ただ、先に見た「松に秋草図」から考えると元の画面はもっと上下に高く、本来はこんなゴチャゴチャした情報量過多な絵ではなかったと思う。「桜図」のような品の良さも合わせ持つ、部屋全体の主役となる堂々した作品だった違いない。


23 国宝 松に黄蜀葵 長谷川等伯

黄蜀葵は「とろろあおい」と読みます。夏の植物です。「桜図」が春、「松に秋草図」と「楓図」が秋、この他に「雪松図」がありますので冬、と合わせて四季が揃うことになります。黄蜀葵は根から採取される粘液はネリと呼ばれ和紙を漉くのに使うほか、薬にも使うそうで当時から身近な植物のようです。(私は知りませんでした。)画面は松と組み合わせた縦長の構図の絵で、他の絵より幅はずっと短いです。松は太く戦国時代の好みを思わせますが、類型的な気もします。

 

こうしてまとめて見ると、完成当時、この障壁画があった祥雲禅寺はとても華々しい色彩空間だったことが想像できます。バラバラに絵を見た時の個別の印象でわかった気にならないよう気をつけねばと思いました。




さて、ここからは、備忘録です。


72 婦女喫茶図 堂本印象

智積院は現代の日本人画家の作品も収蔵しています。この絵はお寺の作品としてはかなり異質な画題です。洋装の女性二人が野点をしている様子です。丸テーブルに茶器を置き椅子に座わり、向かいあって茶を嗜んでいます。写実的ではなく周りの松の葉などは図形のように抽象的にデフォルメされており作品としてはともかく、これは智積院の気風に合っているのだろうかと思いましたが、高野山から離れて一派を成したことを鑑みれば進取の気性を反映したらしい作品とも言えます。

 

35 国宝  金剛教 張即之

南宋の書家張即之の写経。太い線と細い線を組み合わせが特徴の書体。その後の多くの日本人の書家に影響を与えたものだそうです。

 

29 重要文化財 孔雀明王像

孔雀の上に明王が坐禅を組み乗っています。孔雀も明王も真正面から左右対称に描かれていて平べったい感じで日本画では珍しい。

仏教美術の絵画はどれも古く傷んでいるものが多いが、これは汚れもなく色も綺麗で保存状態がかなり良いです。

 

12 根来塗舎利塔

1.5メートルほどの高さのミニチュアの塔。智積院の儀式の時に現在でも使用しているとのことです。一層の内側に仏の繊細な漆絵が施されています。根来塗りです。


 今回のコラムでは根来塗りの由来である根来寺について触れませんでした。そもそも智積院がいつできたかも述べていません。歴史コラムではありませんから、真言宗の歴史については端折っています。

 

歴史抜きには語れないとわかりつつ、知識から入らないことをモットーにしているので、その辺のバランスは難しいです。


今回はここまで。

 

 

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