瀬戸内国際芸術祭2022 秋期 

本島(ほんじま)

2022年10月8日(土)



大好評のアートの旅シリーズ、2022年の第三弾は


「瀬戸内国際芸術祭」


です。瀬戸内海の島々を船で巡りアートを鑑賞するという私の好きな芸術祭です。


開催は3年に一度。会期は一年のうち春・夏・秋に分かれていて、場所と展示内容も変わります。春夏は東の七島、秋は西の五島が加わります。夏の会期に行く予定が、仕事の都合でキャンセルとなり、秋の会期に行くことにしました。


東の七島は訪れたことがありますので、今回は初めて西の五島へ行きます。

 

西の五島とは、


  • 本島(ほんじま)
  • 高見島(たかみじま)
  • 粟島(あわしま)
  • 伊吹島(いぶきじま)
  • 沙弥島(しゃみじま)


沙弥島は夏の会期の展示会場になったので、今年の秋は四島です。この四島を三日間で巡るのが今回のミッション。1日目は本島です。


羽田空港から高松空港へ、高松空港からリムジンバスで丸亀へ。丸亀で早目の昼食をとり歩いて丸亀港へ。丸亀港から本島汽船で本島港へ。東京から行くとかなり遠いです。



残念なことに天候は曇り。しかし波は穏やかで無事に12時30分頃に島へ到着しました。



  本島(ほんじま)


瀬戸内国際芸術祭の展示作品は、その土地の歴史、文化、風土などをアーティストが綿密に取材して制作しています。本島とはどのように歴史を持っているのでしょう。


本島は塩飽(しわく)諸島の島のひとつです。島民は昔から瀬戸内海を縄張りに活動していました。瀬戸内海と云えば村上水軍を連想する方が多いと思いますが、あちらは更に西の方、広島県と愛媛県の間、こちらは東よりで岡山県と香川県の間のエリアです。


島内の移動は、徒歩、バス、レンタルサイクルです

。私は徒歩が好きなので、徒歩で巡ります。



石井章

Vertrek「出航」


曇りだったのですが、逆光気味に写っていますね。真っ黒ではなくて赤茶の錆びた感じの素材で制作された船です。港のそばに船とはまたストレートなモチーフです。


塩飽諸島の人々は幕末から維新にかけて水夫になった人がたくさんいました。太平洋を横断して初めてアメリカに渡った咸臨丸の水夫のうち多くが塩飽の出身者だったそうです。ならば港に帆船のオブジェの一つや二つ、あって然るべきですよね。


私は幕末維新の偉人の中で一番好きなのが、勝海舟ですので咸臨丸の船乗りの出身の島とは心が踊ります。



眞壁陸ニ

咸臨の家


瀬戸内国際芸術祭の作品には人の住まなくなった古民家を丸ごと利用してインスタレーション作品にしているケースが多いです。これもそのひとつ。この古民家は咸臨丸の水夫だった人が住んでいた家です。中に水を張り外光だけで内部を照らしています。


咸臨丸の咸臨とは易経の言葉で君臣分け隔てないことを言います。運命共同体である船の中では対等の関係で協力していかなければならない。


張った水は海、置いてある石は陸、青い天井は空とするなら、これは世界であり、さまざまな模様の板が合わさってできている壁は、さまざまな立場の人間が協調した姿と言えるでしょう。


かつて偉業を成し遂げた乗組員の一人だった水夫の家から世界の協調を訴える作品とみました。



漆喰・鏝絵かんばんプロジェクト 村尾かずこ


本島の人々を取材して、その家の看板を漆喰で制作するプロジェクト。看板は円形で漆喰で作られています。何軒もの家の看板を制作しており、だいたい建物の軒先の下の壁あたりに取り付けられています。正直あまりアートな感じがしませんが、それぞれの家の歴史を上手に絵にしていて、この村の暮らしがよくわかります。




DDMY STUDIO

遠く昔からの音



暗い家の中のあちこちにぼんやりと光が見えます。コオロギのような虫の形をしたロボット(?)です。鉄琴を内蔵していて音をたてます。音の正体を確かめに近づくとセンサーで音を鳴らさなくなる習性があります。タイの3人組のアートユニットDDMY STUDIO の作品です。



古郡弘

産屋から、殯屋から



土着の宗教遺跡のような作品です。雑然と並べられた赤いてるてる坊主(?)といい、本物感があります。解説によると本島には遺体を埋葬するお墓と、お参りをするお墓を二つ作る「両墓制」という風習が残っているそうです。作者はそんなこの島の独特の空気に触発されこの作品を制作しました。
ただ、この作品はお墓ではないと思います。お墓をのようにも見える盛った土の中に入ると屹立する男根のようなものが。全体として見ると男性器と女性器にも見えます。タイトルは産屋、殯屋という対照的な言葉が使われています。これは生命の始まりのための部屋と、生命の終わりのための部屋。祖先を祀るためのものではなく、連綿と繋いでいく生命のつながりを讃える作品だと思います。


齊藤正×続・塩飽大工衆

善根湯×版築プロジェクト


船乗りの多い塩飽には船大工も多く、宮大工としても活躍しました。そんな塩飽の大工の伝統の維持を願い建てた建築物です。中には風呂があるようです。「善根湯」とは「善根宿」からとったのだと思います。善根宿は四国のお遍路さんが無料で泊まることのできる民家です。宿泊できませんが、一風呂浴びてご休憩でもということでしょうか。版築は建築用語で土を固めて壁や城を建てる技術のことです。建物の壁の水平に走る線は土を重ねては固め、重ねては固めるという作業を繰り返してできて模様です。中には入れませんが上には登ることができます。眺めが良いです。



アリン・ルンジャーン

石が視力を失っていないように、

盲人も視力を失っていない。

本島は船乗りの島である他に、石の産地でもあり、その石はかつて大阪城の築城にも使われたそうです。ですので石にインスパイアされた作品も数多い。この作品は天井から吊り下げられた赤い紐に竹と石で作った楽器のようなものがついています。風が吹くと、石が竹にあたり、カラカラと音が響きます。島の風を形にした作品です。石が風を見つけ音を立て、盲人がその音を聞き部屋を吹き抜ける風の動きを感じる。タイトル通りの作品です。



ツェ・スーメイ

Moony Tunes


薄暗い室内に円形の大理石と奥の間の吊り下げられた石。写真では分かりませんが、不規則にピアノなどの楽器の音が流れるサウンドインスタレーションでもあります。小さな部屋に宇宙空間を感じさせる作品です。



アリシア・クヴァーデ

レボリューション/ワールドラインズ


島の石に円形のパイプを通したインスタレーション。意外に和室との収まりがとてもよく、現代華道の進化系のような作品です。

別の部屋に鏡を用いたインスタレーションもあります。ブルー・スリーの映画「燃えよドラゴン」の鏡の間のような作品で(古い)、エンターテイメント性はこちらの方が高く面白いです。



藤原史江

無二の視点から




本島は良質な石の産地でした。建築材料として日本各地に持ち出された石がある一方で、顧みられることのない石もたくさんあります。地面に落ちている小石の場所から見える景色をその石を使って描いたのがこの作品です。絵は雑草だったり、石切場だったり、森だったりします。決して見ることのないはずの景色を石の気持ちになって見るという体験ができる不思議な作品です。



アレクサンドル・ポノマリョフ

木の下の空


本島のもっとも奥に展示されている作品です。金属の網で作った三艘の船のオブジェ、現代彫刻です。浜辺に設置されています。向かい側には瀬戸大橋。船は吊り下げられており風でゆらゆら揺れます。船の下には鏡のような金属が敷かれて、空が映ります。見る場所によっては空をゆく船が出航しようとしているようにも見える作品です。



さて本日はここまで。


12時半に本島に着いて16時頃に見終わりました。屋内の作品の閉館時刻は16時30分、帰りの船は17時10分発ですからちょうど良いです。(島内のバスの本数も、船の便数も少ないので、時間厳守は大切です。)


ホテルは丸亀にとりました。


2日目は、高見島と粟島です。天気が良くなることを祈ります。

 



 

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