第25回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展

⽇本科学未来館

2022年9月22日(金)



ニュースで聞きましたが、文化庁メディア芸術祭は今年で終わりらしいです。


役割は終えた、とのことで、確かに25年前とは状況が変わりました。


メディアアートの美術館や芸術祭での展示機会は格段に増えたし、ビジネスとして成立させている方々もいます。


この芸術祭の妙な領域の広さ(アート、エンターテイメント、アニメーション、マンガ)も整理するか、絞り込まないと無駄に拡大の一途を辿り税金の無駄遣いになりそうです。


タダで色々観ることができて、とても貴重だったので残念ではありますが、正しい判断と思います。これに代わる新しい取り組みを期待しましょう。


今回のアート部門の入賞作品はどれも良かったです(特に大賞)。こういう作品が国内の地方において既に完成しているということがメディアアートの発展、普及の事実を示していると思います。


創る人がいて、買う人がいる。


つまり、必要とされている。


そういうことです。 




アート部門大賞

太陽と月の部屋

annolab(代表 藤岡定)/西岡美紀/小島佳子/的場寛/堀尾寛太/新美太基/中村優一



アート部門大賞の作品です。大賞に相応しい。


大分県豊後高田市にある「不均質な自然と人の美術館」のインタラクティブアートです。自然と触れ合い身体性を拡張することをテーマに作られています。


部屋そのものが作品です。天井は開閉する小窓に埋め尽くされています。室内にはセンサーが設置され部屋にいる人の動きを追尾、太陽の光が当たり続けるよう天井の小窓を開閉します。小窓の開閉に合わせピアノの音楽が流れます。気象情報も解析し天候に応じて演出が変わります。晴れの日には靄がかかり、差し込む陽の光が光芒となって見えるそうです。


行って見てみたいと思いませんか?

私の2023年、訪れたい美術館、No.1当確です。


 


三千年後への投写術

平瀬ミキ


デジタルメディアが日進月歩で進化し続ける時代にメディアアーティストたちはあることに気がつき始めています。メディアアートはアーカイブ性が極めて脆弱であると。


映像の記録装置であるVHS、出力装置であるブラウン管テレビ、パソコンのOSやソフトウェア、例えば Windows の旧バージョン、Flash 。製造販売、サポートしている企業はほとんどありません。


そもそも全て電気製品ですから、電気のインフラが失われてしまえば、動作することは不可能です。その点、オールドメディアは強靭です。絵画、彫刻は鑑賞するためにインフラのいらないスタンドアローンのメディアであり、時間軸で見た時、特に石の強靭さは突出しています。ルーブル美術館の至宝、サモトラケのニケ、ミロのヴィーナスは二千年以上前の制作なのに当時の形を維持しています。


このように石を用いて現代のテクノロジーを優に越える寿命を持つメディアを作れないか。これがこの作品です。鏡面加工した石にレーザーで写真を彫り込んでいます。光を当てると写真が浮かび上がる。光源と暗い部屋、スクリーンとなる平面が必要なのかひと手間ですが、文明が失われてもそのくらいなら人類は気がつくでしょう。


この石で三千年後の人々が目にするアート作品はどんな作品でしょうか。


 

四角が行く

石川将也/杉原寛/中路景暁/キャンベル・アルジェンジオ/武井祥平



見た目に面白いので、子どもたちが、大喜びして見ていた作品です。


机の上に箱が置かれています。この箱に次々と壁が迫ってきます。壁には四角い穴がくり抜かれていて箱は自分でパタパタ転がって、時に縦に立ち、時に横に倒れて器用に壁をくぐり抜けていきます。


この作品はもう1セットあります。そちらは机の上に箱が置かれているだけなのに、箱がパタパタ動いて位置を変え続けています。机の横に付けてあるモニターにその様子を捉えたカメラ映像を写しています、。その中ではバーチャルのCGの壁が次々と迫って来てそれをくぐり抜けるために箱は動いているのです。


迫りくる壁に対応し続ける箱の姿は、私たち大人には法や風習、価値観に合わせて生きる現代人の姿が重なります。他人には目に見えない何かに迫られ、あたふたと動き続ける姿は滑稽なものです。今日、スマホやSNS、ゲームに振り回されて生きている人などもまさにこれに当たります。


この作品を自らの姿として客観的な目線で見る時、本来ありもしないものに制約されて生きていることに気づくでしょう。そういう気づきが新しいものの見方に繋がるきっかけになります。


現代アートの効用のひとつです。




The Transparency of Randomness

Mathias GARTNER / Vera TOLAZZI


とにかく見た目がカッコいい。これは簡単に言うと、手の込んだサイコロです。

27個の箱があり、それぞれサイコロが1つ入っています。クレーンゲームの要領でサイコロを持ち上げて植物など自然の素材の斜面に落とし、目を出します。サイコロは自動的に振るだけでなく、鑑賞者がスマホで外部から接続して操作して振ることもできます。私も一回振ってみました。出た目は「3」でした。このように電子計算機だけでなく、外部の自然環境、人為的な働きかけも取り込んだ乱数生成システムです。生成された数値はジェナラティブアートの制作に活用されます。



この作品の面白さはデジタルでない要素をふんだんに使用しているところです。まずサイコロ、実際にサイコロを振る機構、サイコロを落とす斜面の素材(27種類もある)などです。

今時メディアアートをデジタルな方法だけで作っても目新しさが無いということから、制作者もここまで面倒な作品を作ったと思います。それにしても凝った作品です。



Augmented Shadow - Inside

MOON Joon Yong


影をイメージに使うVR作品です。一般的に普及しているVRゴーグルは付けている人しか作品を見ることができません。この作品は暗闇で懐中電灯の光を壁に当てると見えない誰かの影が映るというアイデアで回り人も作品を見ることができます。中央に建ててある四角い木の枠は住宅を模しています。この内側に入って壁を照らすと黒い影だった人の姿が室内のカラーの映像となって映ります。VR体験をしている人もバーチャル上の人と共に見られる対象になっている入れ子構造の作品です。

 

Bio Sculpture

田中浩也研究室+METACITY(代表 青木竜太)


バイオアートはメディアアートの一ジャンルなのか、すでに独立した一ジャンルなのか。SF小説やアニメのような空想とは違い現実に存在する技術、特に生命を直接扱う技術を使うだけにメッセージ性が強く、問題提起力が高い。しかし生命を表現のメディアとする方法論には道徳的、倫理的に一抹の不安が共にあります。


前段が長くなりましたが、この奇妙な形をしたものは、赤土、黒土、赤玉土、籾殻を配合した土を3Dプリンターを使い作っています。サンゴ礁を参考に質量に対して表面積が大きくなる襞のある構造にしています。ここに、9種の苔を植え付けてその成長、変化を観察する作品です。


自然発生的には実現しない環境を、人為的に付与する。田んぼや畑も同じです。昔なら長い時間をかけて経験的に確立してきたこともあり、その影響も時間をかけて現れていました。しかし科学や技術の進歩に伴い、より高度に、より迅速に、コトが進み、私たちの想定もしていなかった影響が突然、人類、地球に及ぼされることもあり得ます。


科学者や芸術家は時に己の衝動に抗えずやり過ぎることがありますが、この作品は新しい試みでありながら、土を混ぜ苔を植えるという程度の操作しかなく、注意深く人間の文明と自然との調和を志向しようする意思を感じます。


「明治神宮」のように人工の森でありながら、持続性のある環境を作り出す。かつて人間がなしえた取り組みのひとつにこの作品が加わることを願いやみません。

 


それにしても、メディアアートについて書くのはいつも苦労します。自分の知識の浅さを思い知ります。その意味でも年一回、文化庁メディア芸術祭を取り上げるのは良い勉強になっていました。

 今後はもっと自分でアンテナをたてて面白さ作品やアーティストを取り上げることができるよう精進していきますので、よろしくお願いします。



 

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