かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと

Bunkamura ザ・ミュージアム

2022年8月8日(月)


 

かこさとしの絵本を読んだ憶えがある方は多いでしょう。だるまちゃんシリーズ、カラスのパン屋シリーズは読んで楽しい、見て楽しい人気作品。

 

生涯に制作した作品数は600を越えるそうです。


巨匠と言って差し支えない方ですが、なかなか異色な経歴の持ち主です。第二次世界大戦の前、1926年に生まれたかこさとしは、絵を描くのが好きな少年でした。当時の世相からか飛行機に夢中になり航空士を目指します。しかし視力検査で願いが叶わず東京大学工学部に入学、理工系の道を歩みます。


戦後、昭和電工に入社。技術者として働きながら趣味の絵を描くようになります。この頃の絵画は職場の労働者を力強く描いたものが多く、プロレタリアアートな雰囲気があり、その後の絵本の楽しい画風とは大きく違います。


時代とはいえ戦争に加担したことに反省の念があったかこはこれから自分が成すべきことは何かを考え

「セツルメント活動」に励むようになります。セツルメント活動はボランティア活動の一種で、得意の絵を活かして自作の紙芝居を制作、子どもたちに上演する活動を始めます。好き嫌いがハッキリし、飽きっぽい子どもに楽しんでもらうため工夫をこらしていくうちに絵の描きかた、物語の作り方が身についたそうです。


こうして趣味から兼業、本業へと進化していきます。この次期の作品で今回最も驚いたのが、


013 わっしょいわっしょいのおどり

展覧会は撮影NGなのでお見せできませんが、幅は1メートル位ある大きな絵です。やぐらを囲んで画面いっぱいにたくさんの人が踊っています。とにかく人がたくさん。100人以上はいます。画風は絵画的ではなく絵本的で踊る人々が一人一丁寧に描き分けられています。描いたのは1952年。まだ26歳。労働者の絵を描いていた一方で、ここまで絵本的なものも描ける、すでに完成の域にあったのです。

かこさとしはいつの間に、
上手くなったのだろう?


今回の展覧会ではわからない大きな謎です。残されている紙芝居は玉石混合ですが、その後、出版される作品は最初から上手い。


絵本作家デビューは1959年「ダムのおじさんたち」。技術者なので、科学や技術を描くことから始め、子ども相手に紙芝居で学んだものを発揮して、1967年「だるまちゃんとてんぐちゃん」、1973年「からすのパンやさん」が発売されます。


029 だるまちゃんとてんぐちゃん


051 からすのパンやさん

 

 

どちらも絵本は完成度が最初から高く、見ていて飽きが来ない楽しい気持ちになる画風。後に続くシリーズ作品もブレが全くない。


技術者なので、ものの形については技術の裏付けも入念に行い描くそうです。どんな小さなモチーフもちゃんとした形をしているんですよね。カラスのパンやに出てくるたくさんのパンはどれも可愛らしい形で美味しそうです。


そして人(だるま?カラス?)を描くのがうまい。性格の描き分け、感情表現、が分かりやすく、一体いつ学んだのだろうと不思議に思います。


かこさとしは学生のころ、演劇の脚本を書いたり、人形劇にも取り組んでいたそうで、その辺の知見も絵に取り込んでいたと思われます。しかし文字を書くことと絵を描くことは別ですからね。


展覧会の見どころとしては、


「宇宙進化地球生命変遷放散総合図譜」(複製)


です。

宇宙の誕生から人類誕生までの歴史と進化をまとめたもので、大きな紙に5枚(およそ高さ1.5メートル×幅5メートル)に描いた生命進化の歴史図です。太古の昔に絶滅した生物から現代の生物まで数百種類、いや、数千種類?が小さく描かれています。

最終的に仕上げて発売するつもりだったかわかりませんが、晩年になっても衰えない創作意欲と探究心は凄いです。

 

最後に撮影コーナーの写真を載せておきます。中盤の展示を飛ばしてしまいましたが、見どころ満載の展覧会です。





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