ルードヴィヒ美術館展
国立新美術館
2022年8月7日
とてもいい展覧会でした。
タイトルに偽りなし。
20世紀の美術の軌跡を追うことができました。
展覧会のコーナー名を見るとわかります。
20世紀美術の教科書のようです。
- 序章 ルートヴィヒ美術館とその支援者たち
- 1章 ドイツ・モダニズム―― 新たな芸術表現を求めて
- 2章 ロシア・アヴァンギャルド――芸術における革命的革新
- 3章 ピカソとその周辺――色と形の解放
- 4章 シュルレアリスムから抽象へ―― 大戦後のヨーロッパとアメリカ
- 5章 ポップ・アートと日常のリアリティ
- 6章 前衛芸術の諸相―― 1960年代を中心
- 7章 拡張する美術――1970年代から今日まで
いずれも幅広く質の高いの作品を網羅しているのは凄いです。
ルードヴィヒ美術館は1976年に設立。コレクションの中核は、2つの個人コレクション。
- 弁護士ヨーゼフ・ハウプリヒのコレクション
- 実業家ルードヴィヒ夫妻のコレクション
ヨーロッパの美術というと、フランス、イタリアに引っ張られがちですが、ドイツの視点からの美術史となっていて新鮮でした。
今回は2つのコーナーに絞って取り上げます。
1章と5章です。
1章 ドイツ・モダニズム―― 新たな芸術表現を求めて
ここは弁護士ヨーゼフ・ハウプリヒの前衛芸術のコレクションが中心の展示で、かなりじっくり見ました。ドイツを中心にした展示を見ることはなかなかないからです。
20世紀のドイツではアートの進歩と時代の流れが正面衝突します。アートの革新を目指す若手が
- 1905年 ブリュツケ(ドレスデン)
- 1911年 青騎士(ミュンヘン)
などのグループをつくり新しい表現を形にしていく一方で、ナチスドイツが台頭。国家権力が新しい芸術への圧力をかけ始めます。近代美術、前衛芸術を退廃芸術と呼び、ドイツ各地の公立美術館から没収、さらには晒し物として展覧会を開催、ドイツ各地で巡回展を行います。
このような状況下で、ヨーゼフ・ハウプリヒは、退廃芸術の処分を担った美術商から地道に作品を購入し、保存。第二次世界大戦終結後にケルン市に寄贈。こうして市民がアートを守ったのです。
012 エルンスト・ルードヴィヒ・キルヒナー ロシア人女
この絵画は退廃芸術と認定(?)されたもので、ルードヴィヒ美術館が探して買い戻したそうです。女性の姿をシンプルに描くベタの強い色彩で塗り分けていく表現主義の作品です。
022 ジョージ・グロス エドゥアルト・プリーチュ博士の肖像
ジョージ・グロスは風刺画家です。これも退廃芸術です。デフォルメの効いた人物像で理想の人体のプロポーションとは程遠い画風。とはいえそれほど難解な絵には見えません。グロスの政治に対する批判的な姿勢の方が問題視されたような気がします。
029 エルンスト・バルハラ うずくまる老女
木造の彫刻。力なく座りこむ老女。痩せた身体を頭から全身までおおうゆったりしたローブが体型をデフォルメし、その分、大きめに表現している骨っぽい手と足が、生々しく目立って見える。疲労と不安、飢え、貧困。そんな言葉しか浮かばない。ナチスドイツの理想の人間像とは相容れないのが、よくわかります。
このような作品が今に残るのは、第二次世界大戦の最中、ドイツはナチス一色に染まったとはいいながら、アートに関わる人々の中には心ある人がおり、静かに戦っていたからです。
アートに関わる者の矜持、ここにあり。
そういうコーナーです。
5章 ポップ・アートと日常のリアリティ
ポップアートのコーナーは壮観でした。ルードヴィヒ夫妻のコレクションです。
115 ジャスパー・ジョーンズ 0-9
118 ロイ・リキテンスタイン タッカ、タッカ
119 アンディ・ウォーホル 二人のエルヴィス
121 ジェームズ・ローゼンクエスト 無題(ジョーン・クロフォードは言う・・・)
122 アンディ・ウォーホル ホワイト・ブリロ・ボックス
124 リチャード・エステス 食料品店
作品がみなデカい。コレクターの本気ぶりがよく分かります。
ウォーホルの「二人のエルヴィス」は、でかいエルヴィスの写真を並べただけだし、「ホワイト・ブリロ・ボックス」なんてただの洗剤の箱だろ、と今日の私ですら思いますから、これを大金払って買う先見性は流石です。
ルードヴィヒ夫妻は共に若い頃、マインツ大学で美術史を学んでいます。特に夫のペーター・ルードヴィヒは学生時代、ヨーゼフ・ハウプリヒのコレクションを見て感銘を受けたそうで、市民の地道な活動の精神を引き継いでいることがわかります。
その後、実業家として成功したルードヴィヒは、幅広く世界の美術を収集。当時、海のものとも山のものとわからないポップアートも早くから収集し、そのコレクションで展覧会を開催。反響の大きさを受けてケルン市に20世紀美術の設立を条件に寄贈。こうしてルードヴィヒ美術館が誕生するという、とてもドラマチックな流れです。
最終的にドイツのアートの精神は勝利した。
そう思えます。
最後に、2点作品を紹介します。
150 カーチャ・ノヴィツコヴァ 近似(ハシビロコウ)
これは唯一撮影OKでした。説明は別の機会に。
152 マルセル・オーデンバハ 映像の映像を撮る
ルードヴィヒ夫妻の自宅を使い撮影した映像作品。ルードヴィヒ夫妻のインタビュー映像も交えて、二人の、人柄、アート収集に対する哲学が伝わってくる内容となっています。制作したアーティストのリスペクトが感じられる作品です。
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