今回は地下鉄銀座線 虎ノ門駅 1番ホーム(渋谷方面行)にあるパブリックアートを取り上げます。
「白い虎が見ている」中谷ミチコ
一瞬、虎族(?)の少女かと勘違いしますが、よく見ると、虎の面をつけた女の子たちです。(MAN WITH A MISSION のいとこではありません。)
先日、平塚市美術館「リアル(写実)のゆくえ 現代の作家たち 生きること、写すこと」で見た中谷ミチコ氏の作品です。凹型のレリーフという表現手法が、同じものだったので、気づきました。
2022年5月8日
平塚市美術館「リアル(写実)のゆくえ 現代の作家たち 生きること、写すこと」(2) | アートコラム Conceptual Cafe (ameblo.jp)
凹型に作った上で彩色しています。色だけではなく陰影も付けてあり、正面からは近くからでも凸型に見え不思議な印象を与えます。
タイトルの「白い虎」、このレリーフの「白い虎のお面」は駅名から着想を得ているのは間違いないです。虎ノ門の駅名は、かつてここにあった江戸城の虎ノ門に由来します。そして虎とは江戸城の西の方角を示す「白虎」から来ているというのが通説ですら「白い虎」は制作上、マストアイテムです。
江戸時代であれば、狩野派の絵師が勇壮な虎の絵を描いたでしょう。しかし今日ここは、権力者の城の一角ではなく、公共の地下鉄のホームです。強さの象徴として威圧的な虎ではなく、現代の白虎を描くというのがコンセプトでしょう。
そしてここからが本題です。
現代の白虎とは?
中谷ミチコは少女と何かの組み合わせ、例えば動物や植物との組み合わせをよく使います。虎の面は身につけるものですから、飾りや背景とは違います。よくみると面のつけ心地が良くないようで、少女たちは、面に手をやったり、周りが見えないのか隣りの子に手を伸ばしたりしています。誰かを威嚇するためではなく、自分の顔を隠すために虎の威を借りているようです。その中で左から5人目の女の子が窮屈さに我慢しかねたのか、面を外し目線を投げかけています。
虎ノ門駅は、中央省庁やオフィス街のあるエリアでしっかりした(?)大人たちが行き来する場所です。そんな場所に子供たちが、キャアキャア言って来る訳にも行かず、虎の面をつけて恐る恐る訪れた。そんな姿ではないでしょうか。白い虎の姿をして大人たちがどんな行動をするか注意深く観察しに来ている。
かつての虎は権力者の眼で訪れる人を威圧していましたが、現代の虎は子供の目で大人たちのふるまいを見つめています。私たちは彼女たちの目にかなうような人として正しい行いをしているでしょうか?
白い虎の少女たちは静かに問いかけています。
パブリックアートは美術館やギャラリーでの作品展示と違い、力強さが必要です。外界のノイズを遮断した無菌室のような展示空間ではないので、繊細な作品や弱い作品は環境に埋もれてしまいます。
レリーフを凹型に作る、存在しているようで存在していないこの独特な表現は静かなインパクトがあります。何か変だ?という気づきがあるから、通りすがりに見ただけなのに記憶に残っていたのでしょう。
銀座線には2020年に5つの作品が設置されました。最前線で活躍する現代アーティストがどんなパブリックアートを作っているか、近くに訪れることがあれば見てみて下さい。
・京橋駅
中西信洋「Stirpe Drawing - Flow of time」
・銀座駅
吉岡徳仁「Ctystallize(クリスタライズ)」
・虎ノ門駅
中谷ミチコ「白井虎が見ている」
・青山一丁目駅
野見山暁治「みんな友だち」
・外苑前駅
山下良平「躍動の杜」
2020年3月18日
銀座線京橋駅・銀座駅・虎ノ門駅・青山一丁目駅・外苑前駅にパブリックアートを設置します!|東京メトロ (tokyometro.jp)
このコラムでも、また何かキッカケがあった時に取り上げます。
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