メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年
国立新美術館
2022年2月13日(日)
「○○○○美術館展」と銘打った展覧会は、誰が来るかでなくて、何が来るかが重要。
今回は500年間の名品揃いの展覧会でした。
このチラシ見てください。まさかの65点全点掲載。
(実はこの中面は63点、残り2点は表面。1点は最初の写真のポスター、ラ・トゥール「女占い師」です。もう1点はこのコラムの最後で紹介します。)
会場は上野の国立西洋美術館ぽい雰囲気になっていました。
導線がフリーなので待ち時間が少なくなりとても見やすい。そういう意味でも大変良かったです。
それでは一問一答方式で気にいった作品について書いていきます。今回は備忘録ですね。
3 聖母子
カルロ・クリヴェッリ
とても状態がいい。テンペラ画というのもあるが上手に保管されていたのか修復されたのだろう。
マリアの衣装が青地に金色の豪華な模様。屋外にいるが背後に布が張ってある。
右上にリンゴ、左上にうり(?)、イエスは鳩を抱きしめている。左下手前にハエのような虫が。
サイズは小さいものの建築物のような凝った金色の額縁。
8 玉座の聖母子と二人の天使
フラ・フリッポ・リッヒ
堂々たる聖母子像。玉座に座るマリアの姿は女王のよう。背後に緑色の服を纏う二人の天使を家来のように従え、抱き抱えられたイエスは難しい表情をしていて威厳がある。
15 羊飼いの礼拝
エル・グレコ
やはりグレコは好きですね。マリアの膝の上の白い布の上に横たわる輝く赤子のキリストが、下から周囲の人々を照らす光となっている。人々の顔は白く明るく、影となる部分は黒くコントラストが強い。左上の男の妙な感動ポーズといい、画中の人物たちの細長い身体が独特のリズムと非日常感を演出し尊くドラマティックな絵となっている。
26 音楽家たち
カラヴァッジョ
音楽家たちが演奏している絵であるが、この絵はそんなことより、右の人の背中の官能的な白い肌に尽きる。男性のはずだが女性のようでもある。400年以上前の絵なのに、妖しく艶かしく輝いている。この肌には単に陰影表現が得意という程度ではなく強い執着を感じる。ハッキリいえば性的な欲望を叩きつけている。
27 女占い師
ジョルジョ・ド・ラ・トゥール
世間知らずのお坊ちゃんが悪い奴らにまんまとしてやられる瞬間を表現した作品。
こんな悪い目つきの登場人物が多い画題も珍しい。夜の絵が得意なラ・トゥールが一方でこんなに画面全体が明るくファンシーな配色をするところ、更にダークなテーマと合っていないところも面白い。
24 聖母子像
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ
画面に飾りが一切ない聖母子像。マリアには光輪が無く、愛する我が子を見つめる表情も人間的。イエスもあどけない赤子の表情でリアルな人間像としての聖母子を描いている。
18 聖家族と聖フランチェスコ、聖アンナ、幼い洗礼者ヨハネ
ペーテル・パウル・ルーベンス
今回の企画展では最も大きいのでは?このコロナ禍によく持って来た。エライです。
まさに、ザ・ルーベンス。これだけの名品の中にあってこの存在感。王道を行く絵ですね。「王の画家にして画家の王」と呼ばれる理由がよくわかる。タイトルの通りの人物画。それ以外は描いていない。衣服の繊細なディテールとか、宗教的モチーフ、背景など、細かいところで差異を出すなんてみみっちいことはしなくとも人物だけで見るものを圧倒できるスケールの大きさ。惚れ惚れします。
32 信仰の寓意
ヨハネス・フェルメール
フェルメールの作品の中でも後期のもので完成度は高く大作と言っていい。描写も細密度を増している。それにしても今ひとつ魅力に欠けるのは寓意画だからだろう。人物の右の十字架、聖書、踏みつけている地球儀など、説明的モチーフが多いと画面も雑然とする。こういう絵画を見慣れている西洋の芸術的教養の高い方にはまた違って見えるのだろう。
38 テラスの陽気な集い
ヤン・ステーン
水色のドレスを着た女性を中心に村の人々がドンチャン騒ぎをしている。この絵、視線誘導がすごく効いていてどうしても真ん中の女性に目が行ってしまう。エプロンをまくりおどけているのを、手前にいる犬が顔をそらしている。馬鹿なことをしていると良いことはありませんよ、とかいうことを言っている絵です。この程度の愚かさは好きですけどね。この時代のアートは説教くさいです。カツオ君が言うように人生はもっと楽しまないと。
42 ヴィーナスの化粧
フランソワ・ブーシェ
これぞザ・ロココ。パステルカラーで彩られたヴィーナスの絵。白く滑らかな肌。胸に鳩を抱きしめている。キューピッドが宙を舞い、1人は髪の毛にいたずらしている。周りを彩るドレープのかかった赤や緑の布。花園ような華やいだ雰囲気で見ていて幸せな気持ちなる。
48 ヴェネツィア、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の前廊から望む
ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー
ヴェネツィアのカナルグランデ(大運河)を描いたターナーらしい風景画。まだ船や建築物など対象はしっかり描いていますが、現実の風景そのままではないそうです。鏡のような水面、広々とした空、青と黄色。開放感があってとても気持ちが良い。
56 海辺にて
オーギュスト・ルノワール
海辺で籐製の椅子に座る女性の上半身を描いています。紺色のドレスの背後の崖と海を青、緑、ピンクと綺麗な配色で描いており、もはや何かはわからないくらいですが、飽きずに観ていられます。オルセー美術館にありそうな1点。
59 踊り子たち、ピンクと緑
エドガー・ドガ
展覧会のチラシの最後の1点です。チラシと実物で全然印象が違うのでチラシは載せません。チュチュが緑、踊り子の上半身、脚、背景がピンクとタイトル通り大胆な配色の作品です。晩年に描いたもので視力がかなり衰えていたそうです。ドガ自身、どの程度この色を明確にイメージできていたかは想像するしかありません。私は意図したものよりオーバーにどぎつく仕上がっていると思います。その分面白いですが、私は普通のドガの方が好きです。
久しぶりにわかりやすい展覧会を見た気がします。西洋絵画の名品を前に贅沢なひと時が過ごせました。
西洋美術の古典的名作はたくさん見てきたのですが、振り返ってみるとこのコラムでは意外に取り上げていなかったようです。
良いものは良い。
当たり前ですが、それが今回の結論です。
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