映画:「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」
監督:アントワーヌ・ヴィトキーヌ
映画館:TOHO シネマズシャンテ
最初に結論から、
凄く面白かった。
でもアートファンでないと退屈かも。
後ろのおばさんはいびきをかいて寝てた。
幻のダ・ヴィンチ作品「サルバドール・ムンディ」はニュースにもなっていたので、おおよその顛末は知っていたけれども、当事者のインタビューも含めた映像を見るとなかなか闇は深く、後半話しが大ごとになっていくのは、天才ダ・ヴィンチなればこそ。
絵の題名は「サルバドール・ムンディ」。世界の救世主、つまりイエスのことである。右手は天を指し左手には水晶玉、長髪で青い衣を纏っている正面バストアップの構図。顔の陰影のボカシがダ・ヴィンチらしい。
この宣伝の効果もあってか、クリスティーズのオークションでは史上最高額4億ドルで落札。購入者は明かされぬまま、何処かへ発送された。当時噂されていたのは、アメリカならジェフ・ベゾス、中国人の資産家などだった。
その後思わぬところでこの作品の所在が明らかになる。サウジアラビアのある人物のヨットの中でこの絵を見たというのだ。その人物とはサウジアラビアの王太子ムハンマド・ビン・サルマーン。(2018年トルコのサウジアラビア人記者殺害事件で殺害指示を出したとされるあの人物です。)
どうしてイスラム教の国家がキリストの絵を買うのか?サウジアラビアは将来を見据えて石油の富だけに頼らない国家をの建設を目指している。そのひとつとして、ルーブル美術館のような人類の英知を結集した施設、世界中から人が集まる文化的観光資源の創設を進めている。
その中心、シンボルとなる作品とはルーブル美術館でいう「モナリザ」に匹敵するものでなくてはならない。そこに現れたのが幻のダ・ヴィンチ作品、男性版モナリザともいえる「サルバドール・ムンディ」。これこそ相応しい!
と、いうことらしい。
そしてこのタイミングで、ルーブル美術館は丁度ダ・ヴィンチ展を企画していた。サウジアラビア側はルーブル美術館に「サルバドール・ムンディ」を持ち込み調査を依頼するとともに、来るダ・ヴィンチ展においてモナリザと並ぶダ・ヴィンチの傑作として並べて展示することを提案してきた。(その場合、莫大な協力金がついてくる)
この提案を受け入れることはルーブル美術館がこの作品を真作と認めることでもある。
ルーブルは国家の財産、いわゆる所蔵品以外の鑑定は行わないルールだが例外として綿密な鑑定が非公式に行わなれた。
最終結論として、ダ・ヴィンチの関わりがある可能性のある作品としての展示なら可能という回答となり、サウジアラビア側は出展を取りやめた。
ダ・ヴィンチ展は「サルバドール・ムンディ」なしで実施されたが、それでも来場者200万人を超え成功に終わった。
サウジアラビアとルーブルのやりとりは公式には公表されておらず関係者への取材によって明らかになったらしい。
その後の「サルバドール・ムンディ」の行方は定かでない。
ここで、この映画は終わりとなる。
最初は純粋な学術的真贋問題からはじまり、作品をネタにダ・ヴィンチ展を成功させようと美術館の思惑が垣間見え、阿漕なアートビジネスのやりとりがあり、最後は美術館と国の威信をかけた駆け引きにまで及ぶ。これもダ・ヴィンチという存在が巨大過ぎるからに他ならない。
身も蓋もない裏事情を見せられた気もするが、最後に世界一の美の殿堂であるルーブル美術館の矜持が見れたの心地よかった。「短期的経済支援に目が眩んで、長期的な信頼を失うことはできない。ナショナル・ギャラリーのやり方は軽率だと思う。」とまで述べていた。
この映画は「サルバドール・ムンディ」は真作ではないというニュアンスで語られているが、実際は真贋問題は決着していないらしい。ウィキペディアは真作として説明されている。ルーブルの鑑定は非公式で公表されていないし、作品そのものにアクセスする術がない。今後更なる研究の進展を待つしかない。
とはいえ、
ダ・ヴィンチの作品だと決まれば感動し、
偽物と決まればつまらないと感じるなら、
その人は絵を見ていない。
絵は絵として観て、値段や来歴など無視して感じたものを自分の真実とするのが、
アートを観る物の心得というのがこの映画を観た私の結論です。
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