第15回 shiseido art egg 

「仮想の嘘か | かそうのうそか」 菅 実花

資生堂ギャラリー

2021年11月13日(土)


 

資生堂ギャラリーが新進アーティストを公募で取り上げる企画展 第15回 shiseido art egg に行って来ました。選ばれた3人の2人目、菅実花の展示です。
 
ポッドキャスト番組「アートテラー・とに〜の そろそろ美術の話を…」にゲスト出演していて
この展開会を知りました。
 
自身と瓜二つの等身大の人形と一緒に撮影するセルフ・ポートレート作品を何かで見た記憶があります。
 
『ステイ パラダイス』2021
 
この等身大の人形はラブドールを使っています。顔は本人の顔を型取りしていてどちらが本物かわからないくらいの精巧さです。
 
今回の展示では人形とのポートレートとともに、自身のイメージの複製を違う手法で展開して会場をインスタレーションにしています。
 
現代アート、メディアアートは今まで誰もしたことがないオリジナルの表現を求められるものですが、自身のコピーに人形やマネキンではなくラブドールを使うというのは妄想をかきたてる面白い目のつけどころだと思います。
 
他の作品で妊娠したラブドールの裸体というシリーズがあり、性行為機能はあっても生殖機能はない非生物が命を宿す姿が生々しくも透明な存在感を放っています。
 
今回はその方向の企画ではなく、この展覧会に向けて、コロナのために謀らずも相方と二人だけで松戸にあるギャラリーに長期間こもり共同生活をしながら作った新作です。
 
私は自身のコピーが現実に現れたなら恐怖を感じると思うのですが、真面目過ぎるでしょうか。この世界にひとりしかいない、ひとつだけの花といいうことが存在価値の根源。作品の投げかける「どちらが本物?」「あなたが偽物では?」という自己の存在を脅かす問いかけは重い。
 
その一方で今回の新作ポートレートは違うものを感じます。どちらが「嘘」かわかりますか?というより同じ部屋にいるんだからしょうがないじゃん、とにかく日々生活しなければならないし、これからも生きていくしと、真実などほったらかして不条理もただの日常にしているように見えます。
 
ポートレートに加えて、レンズを組み合わせたモビール、万華鏡を使った合成画像、19世紀の投影装置などを用いて様々な自身のコピーのイメージを映し出しています。リアルばかりではなく、バーチャルな世界、仮想の世界にも自分のコピーが存在する。
 
『注意深く見るための機械 05』2021
 
『分身万華鏡』2021
 
『パラダイス シフト』2021
 
バーチャルな自らの分身が、リアルの自分よりはるかに実在感があるというのは、21世紀では社会課題にもなりつつある流行りのテーマです。
 
しかし私が印象に残ったコピーはラブドールでした。単なる視覚的イメージ、仮想空間内のコピーは軽い。というかそもそも質量が無い。仮想の嘘より、リアルな嘘。
 
古い人間だからかもしれませんが私は質量ある(落合陽一みたいな言い方ですが。)嘘、コピー、の方に惹かれます。
 
これからの世代はアーティストに限らず生まれながらに仮想の嘘と暮らしています。そこにリアルがあり、仮想の嘘も、リアルの嘘も、同じく自己の存在を脅かす嘘なのでしょうか。共生すべき実在なのでしょうか。
 
これから彼女の作品が重くなっていくのか、軽くなっていくのか、興味がつきません。
 
『ステイ パラダイス』2021



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