利休にたずねよ
著者:山本兼一
発行所:株式会社PHP研究所
千利休と豊臣秀吉の二人の相剋を取り上げた小説は多い。比較的ハズレは少ない。
美の極地を目指す者と権力の極地を目指す者が協力し、それぞれの道を極め天下を取ったものの、なるべくして破局し悲劇的な結末を迎える。
利休の切腹という史実が二人の精神面の葛藤の激しさを物語っており、大袈裟な作り話でも違和感を感じさせない。
だからこそ、これまでに書かれた作品とどこで違いを持たせるかが作家の腕の見せ所である。
この小説は二人の対立軸を背景として、千利休が何故そこまでしなくてはならなかったかを描いた小説である。
利休の原点はどこにあるのか?
何か強烈な原体験があったのではないか?
この謎を時間を遡って解き明かしていくという趣向が凝っている。
利休を取り巻く多くの登場人物の小さな物語を切腹の直前から丁寧に並べて、少しずつ物語は進む。
個性豊かなキャラクターと逸話にことを欠かない時代なので個々のエピソードも面白く飽きさせない。
細部まで描写される茶事の様子、練り上げられた構成で、ぼんやりとしていた利休の秘密に段々と焦点が合い、最後に全ての始まりとなる衝撃的な事件の顛末が生々しく描かれる。
歴史もののフィクションのポイントは、嘘でも
こんなこともあるかもしれない、このくらいやるだろうと、思わせることだ。
長い物語の中で謎のおおよそは想像がついてくるが、それを凌ぐ熱量が文章に溢れて、利休は成るべくして利休に成ったのだと納得させられる。
全ては恋した一人の女への想いが始まりだった。そこから美という途方もなく高い山の頂きまで上り詰めても尚、失った女の姿を夢見て、自らの業に殉じて生涯を終える。
終える?
完成させるの間違いか。
後悔や口惜しさなどでなく、
恍惚と共に女のいる世界へ逝ったのでは?
真実、それは利休にたずねるしかない。