ざわつく日本美術
サントリー美術館
2021年8月21日(土)
正直あまりざわつきませんでしたが、面白い展覧会でした。いつもは派手な話題が中心になり細かい所や裏側、背景について触れることがない日本美術について勉強できるいい企画です。全点写真撮影OKです。
日本美術を次の6つの切り口で、コーナーに分けて見せています。
第1章「うらうらする」
第2章「ちょきちょきする」
第3章「じろじろする」
第4章「ばらばらする」
第5章「はこはこする」
第6章「ざわざわする」
作品毎に丁寧な説明がありますので、とてもわかりやすいです。各コーナーから一点ずつ取り上げ、6つの切り口について書いていきます。
第1章「うらうらする」
4. 赤樂茶碗 銘 熟柿 本阿弥光悦
「うらうらする」では、皿、茶碗、硯箱の蓋、着物、屏風などの裏側を見ていきます。
光悦の茶碗の銘 熟柿 について。鏡に映る裏側をみると一目瞭然。まるごと朱色で丸い形の茶碗の裏側の高台に焦げ茶色の部分があり、熟した柿の実のくすんだへたそのもの。鑑賞のポイントが裏にあるわかりやすい作品です。
第2章「ちょきちょきする」
32. 蓮下絵百人一首和歌巻断簡
俵屋宗達 画
本阿弥光悦 書
「ちょきちょきする」といえば断簡ですよね。元は巻物だったものが、色々あってチョキチョキされて掛け軸になる。資本主義経済における株式分割のようなことが美術品においても成立しています。俵屋宗達の画に本阿弥光悦の書というのは鉄板コラボ。みんな欲しがるからばらばらにして配ってしまう。ばらばらになっても其々の価値は下がらないものが真の名品。
第3章「じろじろする」
47. 能装束 間道縞に桜蜘蛛巣模様縫箔
日本美術には精緻なものが多いので「じろじろ」して欲しいというコーナーです。そして私が一番じろじろしたのがこの能装束です。濃紺の生地に縞模様(間道縞 かんとうじま)の布に桜の花が様々な美しい色の糸で縫い込まれています。どの花も縫いかけの花びらがある不揃いなものです。その周りにはげ落ちてほとんど見えませんが蜘蛛の糸が描かれています。蜘蛛の糸は型紙で糊を置いた上に銀の箔を置いて描いた縫箔という繊細なものです。蜘蛛の巣が繁栄や栄華を象徴する桜を全て受け止めるという画題ですが、花びらがかけていること、更に布が傷んで蜘蛛の巣がかすれて見えなくなっていることが、栄華の儚さを強く暗示していて面白いです。
第4章「ばらばらする」
60. 貝尽蒔絵硯箱 小川破笠
「ばらばらする」
食器や硯など蓋のついた容器はばらばらにできますから、敢えて分けて展示することで細部をよく見てもらおうという企画です。硯箱の展示では蓋と箱の正しい組み合わせを当てるクイズ形式になっています。箱ものは蓋と本体が物語になっていることもよくあるので、ばらばらにすることでつながりを考えてもらう良い企画です。
ただここで挙げた貝尽蒔絵硯箱は、そういう視点で選んだのではなく、黒塗りの漆に金の蒔絵の硯箱が多くて飽きてきたところに、様々な貝殻を色々な金属を使いこなして表現した象嵌細工が目に止まったので、取り上げました。
第5章「はこはこする」
70. 笙 銘 小男鹿丸 さおしかまる
「笙 銘 小男鹿丸」の箱
「はこはこする」ここでいう箱は家具や調度品として室内で日常の生活空間で使うものではなく、蔵にしまう時に入れる箱を指している。茶器の箱の価値は本体と同格という話はよく聞きますが、それ以外でも立派な箱はあります。
この笙には豪奢な刺繍の袋とそれを入れる葵の御門の蒔絵箱があるのに、それを入れる黒塗りの大きな細長い漆の箱は達筆な筆で「小男鹿丸」とあり、カッコいいです。持ち主の思い入れが箱に強く現れています。
第6章「ざわざわする」
91. 相思図 石川豊信
文春砲の記事になるようなスキャンダラスな「ざわざわ」ネタを扱った作品が並んでいます。ですが私はらしくない品のある一点(2点)を取り上げます。
掛け軸が二幅並んでいます。男と女が向き合っています。右が一幅が若旦那、背景に牡丹の花。左の一幅が若い娘、背景に梅の花。全体に抑制の効いた大人しい構図で、表情から互いにその気はあるがこれからの関係の二人に見える。噂の二人なのか、実は訳ありの二人なのか。相思図というタイトルなのですから秘めた色恋ということなのでしょうが、私は文春を読みませんので、詮索するような野暮なことはいたしません。以上。
この展覧会は、緊急事態宣言下でも時間予約制をとっていませんでした。館内が広く換気状態がいいのと、それほど混雑していないということからの対応でしょう。このように時間に縛られず観ることのできる展覧会もありますので、お時間がある時は、美術鑑賞など考えてみてはいかがでしょうか。