縄張りと島 加藤翼

東京オペラシティアートギャラリー

2021年8月13日(金)


 

加藤翼はロープと人力だけで巨大な構造物を引き起こしたり引き倒すイベント型、参加型の作品「Pull and Raise」シリーズで知られている。

 

 

この展覧会は、構造物の実物と、それを引き倒したときの記録映像を組み合わせたインスタレーションの展示を中心とした初の個展となる。

 

 

初期の作品は構造物が小さくてギャラリーもいない。誰もいない空き地で四角い木造の構造物にロープをかけて汗水流してガタンゴトン引き倒す。何故こんなことをするのかというわかりにくさが溢れている。

 

それが構造物が大きくなればなるほど、参加者が増え、ギャラリーも増え、人のエネルギーが集まり、作品が強いものに変わっていくところがとても面白い。現場では、巨大な物体が立ち上がる達成感、大きな音を立てて派手にぶっ倒れるカタルシスと、圧倒的な経験があることは想像がつく。

 

住宅から城やピラミッドまで、昔の建築や土木における集団作業はわかりやすい成果物があるが、そうではないところがまさにアート。意味のない作業でも人が協働していると心も動くから面白い。

 

そしてこのシリーズは規模の拡大と共に進化していて、集団作業に意味を付加することで作品に様々なメッセージを込めている。

 

 

例えば、2011年の作品「The Lighthouse - 11.3 Project」。東日本大震災の起きたこの年、作者は福島県いわき市の被災地へにボランティアとして参加する一方、住まいを失った家主から元は住宅だった木材の提供を受けた。この木材を使い大きな灯台を製作。3月11日をひっくり返した11月3日、崩れ去った建築物を形を変えて建て直した。もちろんロープを使い、現地の人の素手の力で。参加者は500人に及んだという。破壊をひっくり返し復興を目指す人々に、そこでしかできない方法で、作り手として参加してもらう。単なる個人の創作から、参加する人々にとってもリアルに意味のある創作へ拡大している。

 

このシリーズ以外の作品も面白い。

 

19 Listen to the Same Wall

21 Underground Orchestra

25 2679

26 Superstring Secrets : Hong Kong 

 

いずれもタイプの違う作品だが、作者の関心は社会問題などにあり、人の力と人生を絵筆に変えて作品を作り上げるというのが基本的なスタイルだと思う。

 

今回の展示はとても手がこんでいるが、できればもっと来場者にわかりやすくした方が良いと思った。スケールの違う作品が入り混じっていているので、小さい作品は見過ごしてしまう。雰囲気を感じてもらえば良いという考えか、このギャラリーの客層なら、そこまで甘やかす必要はないということか。

 

加藤翼のサイトに「Pull and Raise」シリーズの映像もあるのでチラ見するのがオススメ。この展覧会は、作品の全体像を把握してから見た方がいい。

 

加藤翼/Tsubasa Kato (katoutsubasa.com)