生誕260年記念企画 特別展「北斎づくし」
東京ミッドタウン・ホール
2021年8月7日(土)

北斎の展覧会が何故か六本木の東京ミッドタウン・ホールで開かれているので行って来ました。国立新美術館でも森美術館でもサントリー美術館でもないところが妙な感じですが、攻めた内容の展覧会で良かったです。
 
だいたい北斎の展覧会というと、海外のコレクションから借りてきた幻の肉筆画などを目玉にするという印象が強いのですが、この展覧会はまさかのシリーズ作品全展示。
 
 
特に「北斎漫画」全15編、3600図、全883ページの展示と、「富嶽百景」全展示というのは画期的なものだと思います。
 
 
「北斎漫画」とは絵手本をまとめたものです。現代の漫画ではなくスケッチ集デッサン集といった方が良いでしょう。プロの絵師、職人、弟子たちのお手本、参考資料として色々なものを描いています。1814年(文化11年)に名古屋の版元が刊行したところ当たったのでシリーズ化。江戸の版元も取り扱うほどの人気となり、半年に一編のペースで制作して十編まで刊行し終わります。(十編の最後のページに「大尾(おしまい)」という絵がある。)しかし人気があるので再開、北斎の死後も続いて最終となる十五編は明治時代に刊行されました。
 
初編では人、動物、昆虫、植物などコンパクトなアイテムを描いていますか、どんどん幅を広げ何でもありになってきます。何を描いても上手いのでただただ感心するのですがそれだけではありません。
 
例えば五編では建物。単に形を描くのではなく大きなものを小さい画面でいかにダイナミックに描くかという工夫もされています。浮世絵は西洋画のように大きくないのに巨大な印象を与えるものが多々あります。敢えて全部を描かず見えない部分は見るものの想像力に託す。そんな描き方のコツまでふんだんに織り込まれています。
 
六編では武術がテーマで槍の稽古、柔術の稽古の動きを多く描いています。人体の構造、一瞬の動きを見逃さず描き切る北斎の卓越したデッサン力が遺憾無く発揮されています。他の編では歴史上の偉人、日本各地の風景、妖怪やお化けまで百科事典さながらに森羅万象を描いています。しかも単なるスケッチの寄せ集めではなく、1冊の本としても流れ、仕掛けがあり、そういう面白さもあります。

そして「富嶽百景」、今回全点見ることができたので名作であることを確認できました。今まで世界的にも至高の風景作品「神奈川沖浪裏」「凱風快晴」などを含む「富嶽三十六景」の二番煎じのような印象を持っていたのですが、シリーズ作品としての完成度はこちらの方が高いです。「富嶽三十六景」は基本的には風景画ですが、「富嶽百景」は歴史や風俗も含めた広い視座から富士山を描いています。北斎がただの絵師ではなく企画力も高いことが伺える作品です。
 
「北斎漫画」はかねてから全ページ見てみたいと思っていたので、夢が叶いました。全部で十五編もあると一般的な(?)北斎展では読本とともに数点しか展示されません。
 
北斎漫画のコレクターとして有名な浦上満氏の膨大なコレクションが無ければ実現できなかったでしょう。本当にこのままどこかで常設展示して欲しい。
 
浦上蒼穹堂さま、何とかよろしくお願いします。