鏑木清方と鰭崎英朋
太田記念美術館
2021年5月29日(日)
みなさん、タイトル読めましたか?
鏑木清方(かぶらき・きよかた)と鰭崎英朋(ひれざき・えいほう)です。
「かぶらぎ」ではありません。
「かぶらき」です。
「すしざき」ではありません。
「ひれざき」です。
名前だけ見るとごつい絵を描きそうですが
どちらも美人画の名手です。
鏑木清方はご存知の方も多いでしょうが、鰭崎英朋って誰?という方がほとんどでしょう。私もその一人でした。
二人は同時期に活躍し人気を二分していましたが、鰭崎は忘れられてしまいました。
何故か?
二人が活躍していたのが「木版口絵」の世界だったからです。昔は本といえば立派なカバーで
表紙をめくるとカラーの絵が1ページありそれから本文という構成でした。このカラーのページの絵が口絵で、当時(明治時代)はかつて浮世絵を作っていた人々が制作を引き受けていました。鏑木清方は始め木版口絵で人気を博しやがて日本画に活躍の場を移してその名を残しました。
一方、鰭崎英朋は木版口絵の世界に留まったため木版口絵が衰退していくと共に忘れられていったのです。
この展覧会で展示されている作品は元々本の1ページだったものを朝日智雄という木版口絵コレクターが集めたものです。写実性の高い描写の絵、浮世絵を越える繊細な線の彫り、柔らかいグラデーションの色彩の刷り、と、質の高い木版画です。
江戸時代が終わり浮世絵の伝統技術も途絶えたと思いがちですが、明治時代はまだ職人たちは活躍し浮世絵の更に先に進んでいたのです。
その中で絵師としての役割を担った二人はどのような絵を描いたのでしょう。
鏑木清方は女性のわずかな仕草や目線に現れる繊細な感情を表現するのが得意な画家です。小説の場面を抑制の効いた演出で上品に描きます。観る側もよく注意しないと登場人物が無表情に見えるくらい繊細です。
それに対して鰭崎英朋は小説のある場面の女性を喜怒哀楽がわかりやすい豊かな表情で描きます。一番の違いは目ですかね。現代人にとっては鰭崎英朋の方がとっつきやすいと思います。
最後に私がいいと思う木版口絵のうち、太田記念美術館のサイトで今見れるものを挙げて終わりにします。浮世絵とは違う髪の毛の線の表現や背景描写、透明感のある淡い微妙な色合いの刷りなど見て取れると思います。
・鏑木清方 小杉天外・著『にせ紫 後編』口絵 明治38年(1905)
・鰭崎英朋 柳川春葉・著『誓 前編』口絵 大正4年(1915)
・鰭崎英朋 泉鏡花・著『続風流線』口絵 明治38年(1905)