Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021 

受賞記念展

風間サチコ、下道基行

東京都現代美術館 / 2021年3月27日(土)


Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021 の

もう一人の受賞者、下道基行について取り上げます。風間サチコとは全く違うアーティストです。

 

フィールドワーク、ワークショップ、取材に基づく作品を制作。現在は瀬戸内を拠点に活動しているそうです。見覚えがあったので調べると瀬戸内国際芸術祭で直島を訪れた時に見たものと、昨年アーティゾン美術館で見た作品がありました。

 何かを作るのではなく、何かを見立てて作品にするコンセプチュアルなアーティストです。

 

 

1.瀬戸内「            」資料館

瀬戸内に関して何らかのテーマ「            」で資料を集め展示する資料館。資料がまとまるとそのプロジェクトは一先ず終了し、新しいテーマで活動するアート作品。

 ここで展示されたテーマは写真家「緑川洋一」。瀬戸内をテーマに写真を撮り続けたアマチュア写真家で写真集も出している。会場の本棚にいっぱいの資料から見えてくるものは何か?

 

こういう作品は嫌いではないが、どう見るのが良いのか未だにわからない。フィールドワークやワークショップという形式の真の鑑賞者は、それを行う本人たちである。展覧会の展示で解説を読み、現場での彼らの発見や気づきを想像力を働かせて追体験をするのにしても、これだけの資料の山が相手だと見るのは1日仕事だ。日を改めて時間をとり腰を据えて観るしかないのだろうか。

 

 

4.漂泊之碑  沖縄ガラス

沖縄の浜辺には海外からガラス瓶が漂着する。中国、韓国、台湾、そして日本と由来は様々だ。国も違えば素材も違い、これら色々な種類のガラスを溶かして作るガラスは、透明感は無くなるが、独特の色合い、テクスチャーを持つようになる。

 元々沖縄には「琉球ガラス」というものがある。米軍が使用した空き瓶をリサイクルして作ったガラスの食器で、溶かして再利用したガラスは気泡や独特の色味があり日常品としても観光土産としても普及している。

沖縄ガラスは琉球ガラスの職人に協力を仰ぎ制作したもので、このガラスの色、透明感は、海を渡ってきた外国のガラス瓶が溶け合い発現したものだ。アートの文脈で沖縄という土地・歴史のあり方を象徴してもいて、あらためて瓶をしげしげと見つめさせる。

作者の活動が生み出した物語が確かに新たな「美」に昇華している。

 

 

6. 漂泊之碑  津波石

これはとても好きな作品で、去年アーティゾン美術館の第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館帰国展示「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」で見た覚えがある。

 その時は他のアーティストとのコラボのインスタレーションとなっていたが、ここではもちろん単体の作品として展示されている。

 そもそも自然に転がっている石(岩)を撮影しているだけだが、石の来歴を知ると飽きの来ないものとなるから不思議だ。

創作のヒントになったのは東日本大震災の時、

津波によって地上まで流された船で、この巨大な船が撤去されることなく街に放置されたままならどうなって行くだろうと考えたことによる。そして昔実際に津波に流され放置された巨大な石、津波石の定点記録を始めることを思いつく。

 

長い時を経て、人々に崇められるようになる石、陸地の中で木々に囲まれ植物に覆われてコロニーとなった石、海辺でそのまま放置された石など歩んだ歴史はそれぞれだ。

 作品としてはカメラを固定して石を撮影した映像を組み合わせて流したものだが、何故か飽きずにみていられる。石なので何か起こることはない。来歴を知ったことで遠い過去の出来事が途切れることなく今につながり、関係性が生まれるからだと思う。

 

 本来この世界に存在するものは全て歴史を持っている。作者はその物語を掘り起こしたり、現代の人間の社会の枠組みの上に提示したりすることで、違う視座を見る者に与える。

 

 逆に言えば、このような視点を持つことができる人は、いつでも何処でも自分の周りをアート作品に変えることができるということだ。

 

 私もそのような人でありたいと思う。