Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021
受賞記念展
風間サチコ、下道基行
東京都現代美術館 / 2021年3月27日(土)
Tokyo Contemporary Art Award は、東京都とトーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)が実施しています。その第1回の受賞者二人、風間サチコ、下道基行の展覧会が面白かったのでコラムに書きます。
風間サチコは木版画を使うアーティストです。これまでも芸術祭やトリエンナーレで、見たことがあります。難解でちまちました作品やデジデジしてキラキラした(?)作品に胃がもたれてきた頃に見ると元気が湧いてくる、そんな作品が多いです。
元気になると言っても心が洗われて爽やかな気持ちになるという方向ではなく、オラオラで痛快な感じとでもいいましょうか。(写真は「獲物は狩人になる夢を見る」)
パワフルで、エネルギーがあって、明快で、毒がある。学校教育、労働問題、軍国主義、環境破壊、原子力などの社会問題に対する批判的なテーマが多い。白黒がハッキリする木版画でプロレタリアアートのような画風は、そんなテーマを追求するのピッタリ合っている。
そして木版画なのにでかい。これだけの画面を埋め尽くすのにはそれ相応の熱量が必要だと思うのだがこのパッションはどこから湧いてくるのだろう?
写真の作品「ディスリンピック2680」は多分(?)架空のスポーツイベントの開会式を描いた作品。盛大に盛り上がっているかに見えるが、よく見れば色々なものが細かく描き込まれている。
ローマの神殿のような立派な柱は重機に支えられている、
会場の中心の太陽に向かい大砲が砲撃、
甲冑を着た兵士のような出立ちの男達が鳩に矢を射掛けている、
高速道路(?)の端ではブルドーザーが人間を押し出している、
観客席らしいものは段々に削り取られた大地とコンクリートで固められた工業地帯、
地面に掘り抜かれた穴にタンクローリーがセメントを流し込み、流れに人が飲み込まれている。
何か大きく間違えている華々しい祭典。
ストレートな批判ともとれるし、この混乱した状況そのものを笑っているようにも見える。
社会問題をテーマに据えるなら、バンクシーのようなインターナショナルなネタの方が世界で勝負できそうな気がする。独自のキャラクターが編み出せればキース・ヘリングになれるかもしれない。モノクロ表現は強烈だが色がついた作品も見てみたい。
このほかに展覧会のタイトルでもある最新作「Magic Moutain」は、趣の違う作品。ドイツの作家トーマス・マンの『魔の山』から着想を得たもので、お伽話の薄暗い森に誘い込まれるような世界。
まだまだ伸び代がありそうなアーティストなので今後の作品が楽しみです。