・電線絵画展 ー小林清親から山口晃までー

・練馬区立美術館

・2021年3月6日(日)

 

 

日本の絵画に描かれた電線について考察する企画展。電線というと写真を撮る時、邪魔になるもの。なぜ電線?と思うなかれ。モノの見方が時とともに変わることがよくわかる。

 

日本に初めて電線が登場したのは江戸時代末期。

ペリーが献上品として持ち込んだ。横浜にてデモを行った時の様子を現場で警備の任にあたっていた松代藩樋畑翁輔が写生していた。これが電線絵画の記念すべき第一号である。

 

最先端の科学技術の電線が登場した頃は今でいう「5G」のようなキラキラした感じだったろう。

電線をイケてるアイテムとして描いた画家が小林清親で、この展覧会のチラシやポスターにメインで使われている

 

39  小林清親 従箱根山中富嶽眺望

 

は、富士山をバックにした電線と旅人というシンプルで象徴的な一点。これはいい絵だと思う。

 

その後、極めて早いペースで電線は日本中に張り巡らされていく。もの珍しいうちは錦絵などにも登場するが、段々と電線のイケてる感じはなくなり、画家ごとに取り上げ方が変わってくる。

 

対象的な例として二人の版画名手、川瀬巴水と吉田博が挙げられている。同じ時代に描かれた東京の風景版画でも川瀬巴水の作品に電線はあるが、吉田博の作品に電線がない。電線は美しくないし、自然のものでも、伝統的なものでもないから邪魔。大正時代頃にはもうそんな認識はあったようだ。

 

それから当たり前のものになった電線は、画家がそれに何かを見出した時、描かれるものになっていく。

 

変わりゆく東京の姿を切り通しの風景に見出した岸田劉生の作品もその中に電柱がしっかり描かれている。パネル展示だが東京国立近代美術館所蔵の「道路と土手と塀(切通之写生)」には電柱の影が効果的に描き込まれていている。

 

戦前戦後、電柱、電線を描いた様々な作品が展示されているが、ただ描くだけでは絵にならないので、色々な視点や工夫があって面白い。

 

どんな絵があるかは是非足を運んで見てほしい。練馬区立美術館はいい感じの公立美術館。地元にこういう美術館があると嬉しい。

 

最後に好きな作品を書いて終わります。

 

 

 

17  河鍋暁斎 山岡鉄舟合筆 電信柱

今日の一点を選ぶならこの作品。縦137.5 横16.2cm の縦長の絵。墨で縦一本の線で電柱を描いたもの。たぶん席画。上部に山岡鉄舟の讃「聴貴聡智貴明(聴くは聡きを貴び、智は明るきを貴ぶ)」

 

77  川瀬巴水 東京十二題 木場の夕暮

夕暮れの空、木場の水面に映る空の色彩。真っ黒なシルエットの電柱。綺麗な木版画。

 

89   佐伯祐三 下落合風景

まだ都市化される前の下落合の野原に建てられた細長い電柱1本をど真ん中に据えた構図。筆の素早い勢い、発色の良さ、豪華な額縁、本気の電柱油絵。

 

134   海老原喜之助 群がる雀

真っ青な空の画面を横切る電線に群がってつかまる沢山の雀たち。とても気持ちの良い電線絵画。

 

144   阪本トクロウ 呼吸(電線)

真っ青な空を背景に電線だけを描いている。重力に引っ張られて生じた微妙な曲線と僅かに違う太さの加減が何処か官能的ですらある。