光ー呼吸 時をすくう5人
原美術館
2020年12月5日(土)
来年1月に閉館となる品川の原美術館に
行ってきました。
最後となる展覧会は共通性のある
5人のアーティストの作品をまとめた好企画。
時をすくい(掬い)、時をすくう(救う)、
時が止まり、ゆっくり流れていく。
そんな癒される空間の展覧会です。
あいにくの雨でしたが
庭の銀杏、紅葉が本当に綺麗で
いい時期に来ることができました。
閉館するのが惜しい美術館です。
それではアーティストごとに
感じたことを書いていきます。
・リー・キット(李傑)「Flowers」
受付を済ませてすぐ前にある最初の展示室。
うす暗い展示室の壁に掛けられた
一枚のダンボールのカンバスに
女性の斜め後ろからの姿が描かれている。
絵の中に英文で一行、
“Selection of flowers or branches”
(花か枝かの選択)
花とは何か? 枝とは何か?
花になるのか? 枝になるのか?
あるべき道を選び人生の花を咲かせるのか、
枝となり花を支え目立たずとも強く生きるのか。
プロジェクターがカンバスの
掛けられている壁を照らしている。
映像はなく、ただ四角い光を照らし出している。
それは部屋の出入り口から差し込む光に
見えなくもない。
女性は出入り口に向かい、この部屋から
表に出ようとしているようにも見える。
部屋の二階には
河原温の日付絵画「JUNE 6, 1984」が
隠れるように掛けられている。
新しい世界へ旅立つ日に
何か大きな選択をしなければならない、
そういう場面をカタチにした
インスタレーション。
5人の中では最も難解な作品かもしれません。
・城戸保
一階の大きな展示室Gallery II には
二人のアーティストの作品が展示されている。
一人目は城戸保。
身の回りにある物を物としでなく、
色、形として見て、面白いもの、心地よいものをフレームで切り取った写真。
私も写真の趣味が似ていて
こんな感じで景色を見ることがある。
視覚的なリズムやバランスの面白さで
選ばれた大小のたくさんの写真が
壁一面に掛けられている。
被写体は具体的な事物ではあるが
物としての意味を見せる写真ではない。
ひとつひとつが
音楽における音符のようなもの。
全体がメロディを聞くように楽しめて飽きない。
・佐藤雅晴「東京尾行」
東京の日常の風景の映像の一部が
アニメタッチの線画に置き換えられている作品。
よく見なければ気づかない絶妙な色使い。
しかしわずかな違いに一度気づくと
とても気になりだすから不思議だ。
何気ない風景なのに
いつまで見てしまう味わいがある。
今から5年前に撮影された東京の景色。
封じこめた映像の中で
永遠に同じ時刻が流れて行く。
作者は昨年春に亡くなられたそうです。
惜しいことです。
もっとこの方の作品が見たかった。
・今井智己
二階に展示されているのは
一見ただの山中の風景写真。
実はこれらは全て福島第一原発の方角を
向いて撮影した写真。
題名には福島からの距離、撮影日が
明記されている。
展示室には、広げられた地図とコンパスが
置かれている。
地図には福島第一原発と原美術館の位置が
書き込まれており、
展示している写真は福島第一原発の方を
向いているがことが示されている。
あれほどの災害さえ忘れかけている我々に
ただの景色の向こうに存在する
解決の見込みのない重い現実を
リアルに突きける。
作者は震災後、このシリーズ写真を
10年に亘って撮り続けている。
この作品は、作者の10年と
福島第一原発の10年と
我々の10年が
決して断ち切れることなく結びついた
同じ世界のことであることを顕在化させる。
・佐藤時啓「光ー呼吸」
ペンライトを駆使した特殊効果の写真。
原美術館が被写体。
原美術館の風景の中にたくさんの光の点、
或いはたくさんの光の線が映っている。
これは作者本人がペンライトを持って動きまわり
空間上に描いた光のデッサン。
大変手間のかかる
制作のプロセスを想像してみるのも
この作品の見方であるが
この展覧会では完成した作品の
美しさをぼおっと愛でる位で丁度良い。
原美術館の床が光の絨毯のように見える
写真はとても美しい。
作品名の「光ー呼吸」は
展覧会名にもなっている。
展示しているのは今ここにしかない時だから。
まもなく閉館する最後の展覧会らしい。