「無人島に持っていくとしたら?」という、馬鹿馬鹿しくも悩ましい問いが交わされる。本を1冊持っていくとしたら?CDを1枚持っていくとしたら?…。そんなものよりサバイバルナイフを一本持っていくとか、無線機を持っていって助けてもらうとか、場外乱闘みたいなことを言う人もいたりする。
私は下手に1冊を選ぶと、「やっぱりあれにすればよかった」などと、ケチくさい後悔をしそうなので、何も持たずに行って、今までに読んだ本や聞いた音楽をウシのように反芻すればいいや、と思っている。
ちなみに池澤氏は、無人島に漂着する主人公に、カメラを持たせた。
南の島に対する漠然としたあこがれってなんなのだろう。
絶え間なく打ち寄せる波に眠気を誘われながら、何も考えなくていいという贅沢…いや、単に寒さと飢えで死ぬ心配がないという、本能的な安心感なのか。そうだとすると、胎内回帰なのかもしれない。
そういえば池澤氏の作品は、ぬるい。温かいとか寒いとか、熱いとか冷たいとか、そういう尺度で見ると、心地よいぬるさがあるような気がする。台風が近づいている時の風の中とか、繰り返し見る夢の中とか、草食恐竜の頭に乗るとか…。この感じも胎内回帰なのかもしれない。
池澤氏は理系の人だ。
しかし、作品には、人知を超えた大いなるもののが存在している。
人の手の及ばない何か。
それを当たり前に受け入れる文化や人々こそが、豊かなのではないか。
(これもたぶん2000年に書いた)