コミュニケーション修験道、ここが入口。~読書漬だよ、1週間。~ -2ページ目

6冊目 キズナのマーケティング

キズナのマーケティング ソーシャルメディアが切り拓くマーケティング新時代 (アスキー新書)/池田 紀行

¥840
Amazon.co.jp


ソーシャルメディアのマーケティング導入の周辺360°を
かなり丁寧でわかりやすく、かつ詳細に書かれており、
ソーシャルメディアに関心を持たれている方にはマストの1冊です。
国内の事情についても踏まえた上で書かれています。

「同じことを同じ予算でやっても、広告の効果があがらない」と多くの企業が悩む中、
「ソーシャルメディア」の登場に異様な盛り上がりを見せている昨今、
「ソーシャルメディアは魔法の杖ではない」とバッサリ切った上で、
出来ることを踏まえた上で使えば非常に有効なツールであると説きます。

先陣に立つ方がこれだけ「魔法の杖ではない」と連呼しているのですもの。
おそらくメディアの特性のことなど全く考慮していない、
相当数の問い合わせや相談が山ほど寄せられたことが推察されます。

そして、ソーシャルメディアはデジタルな「ツール」の側面に注目されがちですが、
「ソーシャルメディアには人しかいない」ことを断言してくれています。

原義的な「コミュニケーション」というコトバが
発信する主体と応答する主体の2つの主体を前提としたものであると思うので、
今までのいわゆる「メディア」はコミュニケーションの場ではなく、
情報伝達の「媒介」でしかなかったと私自身考えていた所があり、
ソーシャルメディアが「人」のものであることを宣言してくれている所が
とても印象的でした。

リアルコミュニケーションの肌感覚のある人は
ソーシャルメディアのテクニカルな面に苦手意識を感じ乗り遅れ、
いち早く飛びついた人たちは新しいテクノロジーの側面に見識に深いけど
「人」の側面にはあまり思考していない人が
自身の周囲には多かったように思います。

そして、ソーシャルメディアという言葉を考察する上で、
以前から普及していた言葉であるCGMとの違いの検討は欠かせません。

生活者が生み出すコンテンツであるUGCが集積したものがCGMなので、
ソーシャルメディアはほぼ同義であると踏まえつつ、
①一般生活者が情報の発信者であり受信者であること
②人と人(興味や関心や人そのもの)がつながれること
③不特定多数の人が非同時的に「参加」できるプラットフォームであること
がソーシャルメディアの要件であると説明されています。

CGMは「コンシューマーが生成するメディア」であるので
「つながり」の意味合いは原義の意味として内包していませんが、
ソーシャルメディアはソーシャルな「つながり」を
言葉の意味の中に内在させている言葉であり、
これこそが決定的な違いなんですね。

つながりの中にあるメディアだから、
もちろん嘘はつけません。
グランズウェルで詳細に述べられていますが
ソーシャルメディアは企業や商品のありのままが
広がってしまいます。

だから品質の悪いものをムリヤリ売ろうとしても逆効果で
悪い評判が広まってしまいかねません。
品質の保障がソーシャルメディアの前提にあるということは
本書でもキツク述べられています。

筆者はソーシャルメディアを、認知よりもキズナ形成を重視し、
今日の売り上げではなく、明日の売り上げを築くための
方法論が今までなかったというマーケティング手法
の空白を埋めたにすぎないという内容の主張をしています。

ソーシャルメディア活用の方法論を考える上では、
2つの類型に分けられます。
・話題を拡散する!バズ・バイラル型
・中長期的なキズナを形成する!アドボカシー型

「~な仕掛けで、バズを発生させます。」なんてフレーズが
プロモーション関連の企画書に散見されますが、
バズを発生させるのは、実際結構大変ですよね。
商品そのものだと話題になんかならない場合が多いですし、
商品から離れすぎた場合着地できなくて
ソリューションとして成立してない、なんてことになりかねません。

今となっては無職ですが、
いろんな広告会社の担当者さんが
特別な新規性を持たない商品やブランドについて
「バズを起こしたいけど、
 商品やブランド自体を話題の軸にしたい!」
という悩みを持たれていた記憶があります。
なかなか難しいものです。

また、効果測定の項目もとても興味深く読めました。
まだ確立していない領域であることは分かりますが、
ROIのRをしっかりと定義することで、
効果測定の明確化できるのですよね。

売り上げとキズナを結びつけた解析の精度を上げていくのは
これからの課題だと思いますが、
KCI:Key Conversation Indicator(重要会話指標)
をKPIと対応させ、相関関係を解析する、
という枠組での理解が妥当のようです。

でも、本書にもあるようにPR会社さんでおなじみ!
「広告換算値」で値を導出するのが
しばらくは現場が混乱しなくて済むかもしれません。

5冊目 アドボカシーマーケティング

アドボカシー・マーケティング 顧客主導の時代に信頼される企業 (ウォートン経営戦略シリーズ)/グレン・アーバン

¥1,995
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企業がソーシャルメディアに関心を持つことになる背景には、
一体何が起きていたのかが詳細に書かれており、
ソーシャルメディアの役割を根っこの所から
考える機会を与えてくれる本です。
(日本では2006年11月発行)

グランズウェルという流れが押し寄せてきたのは、
1人の天才や、共有、共感を求める人間の本質だけが理由でなく、
そもそも企業が向き合っていた課題があり、
困難を乗り越える手段となりえると意識的・無意識的に認識したからこそ
多くの企業がソーシャルメディアに関心を持つことになったと推察されます。

アドボカシーとは、「顧客への支援」のこと。
つまり、タイトルとなっているアドボカシーマーケティングは、
顧客を支援することを通じて行うマーケティング戦略を意味します。

・情報へのアクセスの増加(人口、頻度、情報への信頼性の増加)
・選択肢の増加
・直接取引の単純化(オンラインだからカンタン!)
・顧客同士のコミュニケーションの増加
・顧客による防衛手段の増加(ポップアップブロッカー等)
という5つの要因によるカスタマーパワーの高まりにより、
従来の一方的な押し付け型のプッシュ・プル型の戦略は効かなくなってきている、
という問題の提示から本書は語り始めます。

押し付け型の広告なんか誰も見向きもしない、
なんてことは昨今どの広告関連の本を見ても書いてあることと思いますが、
リレーションシップ戦略も効かないのかしら?
という疑問はやはりあると思います。

これに対して、「一対一の関係の重視」という理想は正しいが、
データマイニングや強引な告知の延長線にしか利用しておらず
現実的にうまくいっていないと指摘し、
リレーションシップマーケティングの最適化に加え、
アドボカシーこそ有効で新しい戦略であるという主張をしています。

マドボカシーマーケティングを実行すると、
「顧客を理解し、そのニーズを満たす」という
徹底的な顧客支援の立場に立ち、主導権を完全に顧客に委ね、
必要であれば他社の商品をオススメしたりするほど
顧客視点に立つことになります。

信頼関係を築きましょうと本書は語りますが、
なかなかどうして、周りの企業様が納得してくれるとは思えません。

そこで、今やらないと今後広くどの会社もやるようになる上、
信頼関係をすでに作ってしまった競合企業からの乗り換えを引き起こすのは
とても大変かつコストがかかってしまうことになるので、
今やっておいた方がオトクだよ!
と背中をグイグイと押してきます。

下記が戦略のルールです。
・顧客を支援せよ
・有料製品へ重点的に投資せよ
・価値を想像せよ
・顧客と共に製品を作れ
・完全に実行せよ
・顧客にとって優良企業であれ
・顧客との長期的な信頼関係を測定せよ

しかし、全てを透明性をもって伝え、
いくら仲良くなれたとしても、
薦めてくる自社商品がどうしようも無いものだったら
ダメなことを自ら露呈し、
周知してしまうことになってしまいます。

だから、徹底したTQR(トータルクオリティマネジメント)が
前提として必要となります。

一点気になったのは、
お客様への信頼を築くために徹底した奉仕を行う
というスタンスは素晴らしいのですが、

ともすれば大会社が下請けを虐げたりしてしまったり、
流通がメーカーにさまざまな関係の無い仕事をさせていたり、
などの問題を日本の現状が抱えていることを考えると、
国内での適用は、もう一歩現実面での思考の詰めが必要かもしれません。

ただ、「流行」のソーシャルメディアを導入する
必要性を考察する上では欠かせない
重要な示唆に富む本であることは間違いありません。

事例も豊富であり、アドボカシーマーケティングって何?
ソーシャルメディアの必要性ってそもそも何なんだろう?
など疑問をお持ちの方、必読の1冊です。

4冊目 グランズウェル

4さつグランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略 (Harvard Business Sc.../シャーリーン・リー

¥2,100
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ソーシャルメディアについて学ぶ上で絶対に外せない、
バイブルと言われる本です。

2008年1月に佐藤尚之さん著の「明日の広告」が
大きな話題となったのは、記憶に新しいですね。
2008年は、広告業界変えてこうぜ!的なムードが
自分の周囲にはあったように思います。

特にマスの凋落が殊更に叫ばれ、
プロモーションの人たちはチャンスをどう生かしてやろうか、
頭を巡らせていたんじゃないでしょうか。

そんな2008年の10月、本著が発刊されました。

湯川鶴章さん著の「次世代マーケティングプラットフォーム」を読みながら、
WEBの発達のおかげでコミュニケーションの設計が大分細かく、
面倒くさくて、柔軟に打ち返していけるものが求められるようになる。
いやはや大変だねぇ、と馬鹿みたいに口を開けながら思っていたその頃。

「世界版の『明日の広告』が出たんだ。」なんて鼻息荒く知人に勧められ、
「何ですと!」とすぐに本屋に買いに走ったのを覚えています。

そして今、しばし時を経て再読した次第です。

なんとまぁ、内容の充実していること。
豊富な事例と詳細な分析、さらにソリューションの創り方の詳述、
未来の展望まで、圧倒的な分量で書かれています。

かなり骨が太く、肉も厚い本なので、
是非ネチネチと行ったり来たり、反芻したりしながら
読んでいただくことをオススメします。

ちなみにグランズウェルとは、
「グランズウェルとは、社会動向であり、人々がテクノロジーを使って、
 自分が必要としているものを企業などの伝統的組織ではなく、
 お互いから調達するようになっていることを指す。」
と本著では定義されています。

ちょっと小難しいのでカンタンに言うと、
「生活者同士で買ってにやりとりし、モノや情報を売ってきた企業不在で
世の中が動いていってしまう社会動向」
と言い換えられそうです。

社会動向は、時代と共に移ろいゆくものです。
では、グランズウェルがなぜ重要な社会動向として捉えられているのか。

それは、本書で言うところの
「一過性のトレンドでなく、不可逆の重大な変化であり、
個人が企業や他社とのつながる方法を大きく変えようとしている。」
からに他ならないと考えます。

ソーシャルメディアというとテクノロジー的な側面で見られがちですが、
「グランズウェルも人のいとなみだ。」と本著でも書かれているように
人間の本質なのですよね。
テクノロジーではなく、人と人との関係に焦点を合わせるべきと
本書は述べています。

グランズウェルを考える際のフレームワークとして、
POSTメソッドで考えましょうと本書は提唱しています。

ちなみにPOSTは下記のように
それぞれのワードの頭文字をとったものです。
P:People、人
O:Objective、目的
S:Strategy、戦略
T:Technology、技術

マーケティング課題を踏まえた上で、
ターゲットの設定を行い、インサイトを洗い出し、
プロダクトの持つ物理的・情緒的な特徴を確認したうえで、
コミュニケーションの目標・ゴールを掲げ、
コンタクトポイントの洗い出しを行いつつ、
コンセプトやプロポジションを設定し、
同時に行ったごとに戦術の落とし込みを行う。

そんなプロモーションの設計手法とは
遠からずだろうと考えています。

「P」はソーシャル・テクノグラフィクスという
フォレスターリサーチが開発した手法で行います。

「グラフィクス」というと、
年齢性別など、人口統計学的な分類を行うデモグラフィクスや
趣味趣向など、心理学的な分類サイコグラフィクスが
広く知られているところと思いますが、
ソーシャル・テクノグラフィクスは、名前から推察されるとおり、
ソーシャルメディアのテクノロジーへの関わり方・態度で
6つに分類したものになります。

・創造者
・批評者
・収集者
・加入者
・観察者
・不参加者

まずはターゲットのソーシャル・テクノグラフィクスにおいて
どの割合でそれぞれの類型が存在するのかを
調査したり、想定したりすることが必要です。

たとえば、不参加者ばかりの商品に対策を打とうとしても
空振りになってしまうのは自明です。

そして、それぞれの分類をより深く理解する上で、
そもそもどうしてソーシャルメディアと関わっているのかを
想定しておくことも大事です。

色々な理由があると思いますが、

・友人づきあい
・友人づくり
・友人からの圧力
・先行投資
・利他心
・好奇心
・創造的衝動
・他者からの承認
・同好者との交流

などの理由を挙げています。
もっともこの辺りは千差万別なので、当てはまらない場合も
多々ありそうですが。

置かれている状況やターゲットの分布を鑑み、
下記の5つの戦略を検討すべし、と本書は提唱しています。

・傾聴戦略  :リサーチ、インサイトの分析
・会話戦略 :双方向の会話
・活性化戦略 :口コミ活性化、話題化
・支援戦略 :顧客同士のサポートする場の提供・整備
・統合戦略 :ビジネスプロセスへの顧客の巻き込み(意見の取り入れ)

ターゲットはどんな分布か、どの戦略をとるか
が明確であることが全体の施策の設計において
肝になってくることは想像に難くないと思われます。

「twitter使ってとりあえず何かやろー」
という声がアチラコチラで聞こえたりしますが、
ちょっと危ういな、と感じるのは
きっとその当たりの視点やステップの踏み方を
無視してしまっているからなんでしょうね。

まあ最も、事業会社が完全に理解していたら
広告会社や企画会社の仕事が
なくなってしまうかもしれないわけですがw