僕が中学1年生のときのことから話をしたいと思います。
母方の祖父が癌を患い危篤状態となったその日、親族は祖父の家に参集しました。
午前2時過ぎ、「今日は峠を脱した」ということで、僕と妹は父の運転で一旦自宅に戻ることになりました。
小学生の妹はすぐに眠りにつきました。
山中の祖父の家から10分ほどで山を下り、国道に出て最初の信号機のある交差点に差し掛かったとき、父と僕は赤信号を渡る人影を見つけました。
父は「信号無視だ」とつぶやき、僕は「危ないよね」と答えました。
しかし、直後に二人ともその人影に普通じゃない何かを感じて「はっ?」と同時に言ったことを覚えています。
・・・・・・・。
その人影は、地面に接していませんでした。
足の下に50cmくらいの空間があり、人影は宙に浮いています。
目を凝らすと、人影はおぼろげで輪郭もはっきりせず、性別も年齢も不明。とにかくぼんやりして見えます。
眠い目を何度もこすってみましたが、変わらずかすんだままです。
やがて交差点をスルスルと渡りきり、建物の影に隠れてしまいました。
父は交差点をゆっくり通過し、人影が消えた方向を二人で探してみましたが、何も確認出来ませんでした。
「あれは何」と尋ねましたが、父は無言でした。
自宅に到着して間もなく、電話が鳴りました。
母から、祖父が死んだことを聞かされた僕は、「いつ?何時?」と聞きました。
母が告げた時刻は、父と僕がその人影を見た時間と同じ頃でした。
父は、「じいさんが、戻って来いって言いたかったのかも知れないな」とだけ言うと、深いため息をつきました。
祖父の命日は、1月30日。
この日は、僕の体験した様々な出来事のはじまりの日であり、その後何度か節目となる日にもなりました。