僕の家は大人のいない気楽さからか、よく友達が集まった。
学生時代の姉は何かにつけバスケ部の友達やら生徒会の友達やらを家に連れてきて、なんだか分からない集いをしばしば開いていた。
僕が早熟だったのは、そんなお姉さま達からの「英才教育」を受けたことと無関係ではない。

市ヶ谷の実家の僕の部屋は2階にあった。南側に大きな窓があって、いつも網戸になっている。
姉が友達を連れてくる日は、遠くからキャイキャイという女の子の騒がしい声が2階まで聞こえてきた。

姉の集いは、密やかな僕の楽しみでもあった。
なぜなら彼女たちはいつもケーキなどのデザートを持ってくる。僕もおこぼれにあずかれるのだ。
それに、ねえさんたちが集まると、とてもいい匂いがして、コドモながらに心地よかった。

しかし、ミエコねえさんだけは苦手だった。
彼女は姉の親友だったのだが、バスケをやっていて長身で威圧感があり、よく僕のことをからかってくる。
バスケの練習と称して、いつもイジワルばかりをされていた。

その日も、姉たちは数名でなんだか分からない集いを開いていて騒がしかった。
ミエコねえさんも来ているのが分ったので、僕は1階に下りずに自分の部屋にいた。

しばらくして静かになったので、皆帰ったのだろうと思い1階に下りた。

するとミエコねえさん一人が残っていた。
あわてて部屋に戻ろうとしたが、見つかり呼び止められた。

「ゆうくん、バスケ教えてあげるから、こっちおいでよ!」

またイジワルするつもりだ・・嫌だったが、子どもから見る高校生は大人と変わらない。
もちろん逆らえない。

「お姉ちゃん達は?」

「ナオ達はお菓子買いに行ってる。すぐに帰ってくるよ。」

しぶしぶ中庭に出て、ミエコねえさんとバスケをする。
いつものように、まったくボールに触らせてもらえない。コドモ相手に本当にイジワルだ。

しばらくしてミエコ姉さん、
「ゆうくん、ミルクセーキ作ってあげようか?」

ミエコねえさんはイジワルだが、ねえさんの作るミルクセーキは美味しい。

「本当?」

本当に作ってくれるまでは喜べない。なぜなら、ねえさんはイジワルだからだ。

ミエコねえさんは台所でミルクセーキを作り始めた。

どういうレシピで作っているのか知らないが、やはりミエコねえさんのミルクセーキは美味しい。
僕は姉たちが早く帰ってくるのを期待しながら、ミルクセーキを飲んでいた。

横からなんだか視線を感じる。ミエコねえさんの視線だ。

「ゆうくん、私のこと嫌いでしょ。」

唐突に、ねえさんが聞いてくる。

(嫌い)でもまさか、本当のことは言えない。
しかし小学生の僕にお追従を言えるほどの智恵はない。

「・・・」
僕が困った顔をしていると、ねえさんは意外なことを言ってきた。

「私、ゆうくんのような弟が欲しかったの。私、一人っ子だから・・・ナオがうらやましいよ。」

どうしたんだろう。いつもの意地悪なミエコねえさんではない。

「ゆうくん、お母さん欲しくない?私がお母さんになってあげようか?」

ミエコねえさん、何を言ってるのだろうか。
僕がぽかんとしていると、いきなりミエコねえさんが横から抱きついてきた。

僕がドキマギしていると、ねえさんの腕の力が強くなった。
少し苦しかったが、ねえさんの優しさが沁みたのか、怖くはなかった。

僕は動けなかった。
姉にも抱きしめられたことのない僕は、ミエコねえさんに抱かれて安らいだのかもしれない。

「お姉ちゃんたち、帰ってきちゃうよ。」

僕のつぶやきにミエコねえさんも醒めたのだろうか。僕の身体から腕をほどいた。

「さっきのことは、絶対誰にも言ったらだめ。分った?」
怖い顔をしてミエコねえさんが言う。

僕はこくりと肯いた。
ねえさんは優しく微笑んだ。


しばらくして、姉たちが騒がしく帰ってきた。ミエコねえさんは何事もなかったように振舞っている。

その日から僕はミエコねえさんのことを好きになった。
もちろん、女性としてではない。母のことを想ったのだろうか。