僕は生れ持っての気質か、それとも小さいころから姉の友達がよく家に遊びに来て、彼女たちにいつもからかわれていたからか、はたまたやんちゃな悪友に恵まれたせいか、ずいぶんとませた子供だったと思う。
子供時代にありがちな、ままごとのような恋愛ごっこは中学時代にもいくつかあった。
だが、これがはつ恋なのだと、確信した経験はこの時が初めてだっただろう。
何度も反復して思い出しているせいだろう。今でもその日のことはよく覚えている。
高校2年の春、庭の桜もすっかり散って街にも新緑がまぶしく目にしみる頃のこと。
僕がサッカー部の朝練で7時に家を出て学校へ向かう、自転車で15分ほどのいつもの通学路の途中での出来事。
その娘はもう半月も前、4月半ばから通学路の途中でよく見かけていた。
僕の学校は私服だったので、彼女のブレザーにチェックのスカートの制服がやけに眩しく、何処の学校の娘かなと気にはなっていた。
いつも自転車で追い越すので、後ろ姿と横顔しか伺えなかったところが、さらにまた僕の好奇心をそそっていた。
早朝から陽差しが強かったためか、その朝彼女は道の脇にへたり込んでいた。
バッグの他にいつものように楽器が入ったとおぼしきケースを持っていたので、遠くからでも彼女であることを認識できた。
最初は状況がよく判らなかったので、いつも通り、そのまま自転車で追い越したのだが、しばらくして打算が働いたのだろう、引き返してみることにした。
数分が経過していただろうが、はたして彼女はまだへたり込んだままだった。
僕が自転車を降りると、彼女ははじめは驚いたような、そしてすぐに警戒の眼差しが僕に刺さった。
「ねえ、君」
僕は初めて会う娘に声を掛けるときは、いつもそう呼びかけていたので、その時もそう呼びかけた。
彼女と面と向かうのはこれが初めてのことだ。
ぱっちりと大きな瞳、色白のほわっとした雰囲気がとても魅力的だ。
僕の作り笑顔に少し気持ちが緩んだのだろうか、彼女の瞳は困ったような、恥ずかしがるような色に変わった。
「どうしたの?大丈夫??」
善人を装い、さも心配そうな表情を作ってみせる。
「目まいがして・・・貧血みたいです。少し座っていれば大丈夫です。」
案外彼女がしっかりした感じだったので、これは大事ないなとは思った。
そう思いながらも、僕はよい印象を与えたかったのだろう、
「誰か呼ぼうか?家?それとも病院?」と続けた。
「いえ、大丈夫です。」
彼女はいよいよ困ったような顔。
すでに何人かのおばさん達が近寄ってきていたので、ええかっこしいの僕は偽善者をきどったまま事情を話し、世話やきそうなおばさんの一人がタクシーを止めて彼女を送るのを、なんだか腹だたしげにながめながら、その場を立ち去った。
その日はずっとテンションが上がりっぱなしだった。
放課後の練習でもいつもはキツイはずのランニングが妙にものたりなく感じた。当時のポジションは今では死語となった右のスイーパーだったのだが、練習からガツガツいき過ぎて、仲間からも??の反応。
練習後「いつもクレバー気取りのくせに、ゆうじ考え変えたの?」みたいに言われ、「俺、今日から本物のワルモノになるわ。」と僕も少し調子にのってみせた。
あまりにハイになったせいか、帰宅後、姉に言いつけられていた用事をすっかり忘れていて小言を言われ、よほど勘にさわったのだろう、今度はキレてひとり部屋でふてくされていた。
そんな時いつもなら完全無視をきめこむ姉が弟の不審をかぎつけたのか、
「ゆう、今日は晩ご飯お寿司でも食べに行こっか?」と唐突に薄気味悪いことを言う。
この姉だけには今朝のことを悟られたくない僕は、急にしおらしくなって「うん、行く。」と素直に部屋を出た。
姉は拍子抜けしたようだったがそれ以上の詮索はせず、僕も何事もなかったように平静をふるまった。
わが家で寿司といえば神楽坂の二葉、そしていつもの「ばらちらし」。
やはりなじみの味はいい。食べ終えるころは、すっかりいつもの自分に戻っていた。
帰り道、夜風が気持ちよかった。明日からの期待にこころがざわめいていた。
子供時代にありがちな、ままごとのような恋愛ごっこは中学時代にもいくつかあった。
だが、これがはつ恋なのだと、確信した経験はこの時が初めてだっただろう。
何度も反復して思い出しているせいだろう。今でもその日のことはよく覚えている。
高校2年の春、庭の桜もすっかり散って街にも新緑がまぶしく目にしみる頃のこと。
僕がサッカー部の朝練で7時に家を出て学校へ向かう、自転車で15分ほどのいつもの通学路の途中での出来事。
その娘はもう半月も前、4月半ばから通学路の途中でよく見かけていた。
僕の学校は私服だったので、彼女のブレザーにチェックのスカートの制服がやけに眩しく、何処の学校の娘かなと気にはなっていた。
いつも自転車で追い越すので、後ろ姿と横顔しか伺えなかったところが、さらにまた僕の好奇心をそそっていた。
早朝から陽差しが強かったためか、その朝彼女は道の脇にへたり込んでいた。
バッグの他にいつものように楽器が入ったとおぼしきケースを持っていたので、遠くからでも彼女であることを認識できた。
最初は状況がよく判らなかったので、いつも通り、そのまま自転車で追い越したのだが、しばらくして打算が働いたのだろう、引き返してみることにした。
数分が経過していただろうが、はたして彼女はまだへたり込んだままだった。
僕が自転車を降りると、彼女ははじめは驚いたような、そしてすぐに警戒の眼差しが僕に刺さった。
「ねえ、君」
僕は初めて会う娘に声を掛けるときは、いつもそう呼びかけていたので、その時もそう呼びかけた。
彼女と面と向かうのはこれが初めてのことだ。
ぱっちりと大きな瞳、色白のほわっとした雰囲気がとても魅力的だ。
僕の作り笑顔に少し気持ちが緩んだのだろうか、彼女の瞳は困ったような、恥ずかしがるような色に変わった。
「どうしたの?大丈夫??」
善人を装い、さも心配そうな表情を作ってみせる。
「目まいがして・・・貧血みたいです。少し座っていれば大丈夫です。」
案外彼女がしっかりした感じだったので、これは大事ないなとは思った。
そう思いながらも、僕はよい印象を与えたかったのだろう、
「誰か呼ぼうか?家?それとも病院?」と続けた。
「いえ、大丈夫です。」
彼女はいよいよ困ったような顔。
すでに何人かのおばさん達が近寄ってきていたので、ええかっこしいの僕は偽善者をきどったまま事情を話し、世話やきそうなおばさんの一人がタクシーを止めて彼女を送るのを、なんだか腹だたしげにながめながら、その場を立ち去った。
その日はずっとテンションが上がりっぱなしだった。
放課後の練習でもいつもはキツイはずのランニングが妙にものたりなく感じた。当時のポジションは今では死語となった右のスイーパーだったのだが、練習からガツガツいき過ぎて、仲間からも??の反応。
練習後「いつもクレバー気取りのくせに、ゆうじ考え変えたの?」みたいに言われ、「俺、今日から本物のワルモノになるわ。」と僕も少し調子にのってみせた。
あまりにハイになったせいか、帰宅後、姉に言いつけられていた用事をすっかり忘れていて小言を言われ、よほど勘にさわったのだろう、今度はキレてひとり部屋でふてくされていた。
そんな時いつもなら完全無視をきめこむ姉が弟の不審をかぎつけたのか、
「ゆう、今日は晩ご飯お寿司でも食べに行こっか?」と唐突に薄気味悪いことを言う。
この姉だけには今朝のことを悟られたくない僕は、急にしおらしくなって「うん、行く。」と素直に部屋を出た。
姉は拍子抜けしたようだったがそれ以上の詮索はせず、僕も何事もなかったように平静をふるまった。
わが家で寿司といえば神楽坂の二葉、そしていつもの「ばらちらし」。
やはりなじみの味はいい。食べ終えるころは、すっかりいつもの自分に戻っていた。
帰り道、夜風が気持ちよかった。明日からの期待にこころがざわめいていた。