たあくんとはどちらからということもなく、自然に付き合うようになった。


私は2年以上かけて、たあくんに色んなことを伝えてきた。


私が15歳の夏に短距離走で県大会の予選に残ったことや、


そのあとの交通事故で左膝を壊して早く走れなくなったこと。


うちに父親がいないことや、母親は自分が猫アレルギーなのに猫を飼っていること。


やっちゃんとは小学3年の頃からの付き合いで、


「あまり友達がいなくて、かわいそうだから」という理由で友達になってあげたのに、


まったく同じことをやっちゃんにも言われ、二人で爆笑したこと。


私の歴史、私の日常、私の内側。


たあくんに話すと、なんだかそれが私の外縁となって、


自分がちゃんとカタチをもって存在しているんだなあ、と実感した。


あー、でも、いまから考えれば、


母親が猫アレルギーだとかそういうこと以外は、たいがい知ってたんだよね。


副担任なんだから。


中学時代の成績や素行、友好関係、教師からみた性格、それに、うちが母子家庭で


4年前まで生活保護を受けていたことも、たあくんは私と出会う前に知ってたんだ。


でも、私は私から見えるものを一つひとつ伝えてきた。


たあくんも私に色んなことを教えてくれた。


彼には年上の奥さんがいて、奥さんは隣の市で中学校の教師をしていて、


二人にはなかなか子どもができないこと。 


たあくんには結婚する前、とてもとても好きな人がいたけど、その人には家庭があったこと。 


子どもの頃、憧れた職業は写真家と小説家だったこと。


それらは私の人生にもちゃんと影響していて、意味を持って私にぴたりと張り付いている。




これまで、たあくんとはメールでやり取りをしたり、ときどき一緒に遊びに行ったりしたけど、


裸で一つになったことは少なくて、本当に片手で足りるくらいの数だった。


私は、「もっとデートしたい」とか、「私だけを見て欲しい」とか、


そういうことを彼に言ったことはないけど、彼を独り占めしたかったのかな。


どうなんだろう。


もしかすると、やっちゃんが言っていた通りなのかな。


「野乃は、わざと手に入らないものを欲しがってんじゃん、それって卑しい」


卑しい、って言い方は、いかにもやっちゃんらしい。 


人が傷つくポイントをちゃんと把握してる。


やっちゃんは自分の家族と、自分ちの動物以外に対しては、どこまでも非情だ。


「おっさんは野乃と寝たあと、家帰って嫁と仲良く飯食って、風呂入って、そんで


嫁とヤッてるかもしらん、だとしたら、最低のゲス野郎だねえ」


なにかにつけて、やっちゃんはそう言う。 でも私は泣かなかった。 


口惜しいけど、「それは違う!」 と反論することは難しかったし、


しても意味がないと思っていた。


私は黙って、意地悪を言うやっちゃんを睨むだけだった。





今日のコモさん:


私 「宮崎監督、引退だって!!」


コモ 「ちぬ!」


私 「え? なにそれ」


コモ 「ちぬ!」


私 「え? 死ぬ?」


コモ 「ちやう! ち~ぬ~!」


私 「まさか、風立ちぬ、の、ちぬ?」


コモ (爆笑)


漢字が苦手なコモさんでした猫村1


たあくんが初めて私の名前を呼んだときのことを、私はいつまでも覚えている。


高校の入学式の翌日、私は一人、桜並木の下を歩いていた。


制服も、ローファーの靴も、茶色の鞄も、何もかも新しくてイヤだったから 


校門を出ると、私は靴のかかとを潰して履きなおし、制服のリボンも解いた。


昔から新しいものが苦手だった。 新しいことも、どちらかというと苦手。


高校に入っても、陸上を続けるかどうか迷ったのは、もう短距離の選手になれないこともあったけど、 


新しいチームメイトと仲良くやっていく自信がなかったからだ。


さっき強引な勧誘に負けて受け取った「マネージャー募集!」のビラをみつめる。


おかしくもないのに、ふっと笑って、私はそれをくしゃくしゃにして 道路の植え込みに捨てた。


すると、


「こらあ、 変なところにごみを捨てるなあ」


後ろから声がした。


私は、あ、やばい、と思い、そのまま振り返らずに駆け出した。


それを見て、声の主も走って追いかけてきた。


私は捕まることは分かっていたけど それでも逃げた。


走りながら、自分の足が重く、そして遅いことに苛ついた。


やがて追いつかれ、肩を掴まれて振り向くと、そこにはスーツ姿の男が立っていた。


てっきり学校の先生が追いかけてきていると思っていた私は、なんだかほっとして、


素直に あ、すいません、もう しません、と頭を下げた。


男も拍子抜けしたように、え、はい、そうしてください、と私が捨てたビラを両手で差し出した。


私は男の顔をよく見ずに、また前を向いて歩き出すと、


「ちょっと」


男は言った。


「マネージャーやらないの?」


私は言った。


「やらないから ビラ、捨てちゃったんですけど」


男はつづけた。


「園田野乃佳、 もう陸上やらないのか」


私は振り返った。


男の顔をよく見ると、 あ、と声が出た。


たあくんは 私のクラスの副担任だった。





今日のコモちゃん:


私とコモちゃんが最近楽しみに観ているドラマは、、、夫婦善哉!! 


あほな男と女の物語にゃー

 付き合って知ったのだけれど、たあくんには文学を志す人のような、


とりあえず、やっちゃんには皆目見当がつかないような「情緒」を備えている。


その日のデートも、彼はひとり「幸せに騙された」って顔をして


「野乃(私の名前)には愛なんて信じて欲しくない」


なぁんて言う。 私は、


えー、なに、なにを信じて欲しくないのー? と焼き鳥の串を横にして歯で肉をとりながら返す。 


たあくんは、あーもー、子どもみたいな食べ方すんなよ、と笑った。


愛ってなんだろう。


信じるどころか、私には愛というものの輪郭がつかめない。


私は焼き鳥を食べ終わると訊ねた。


「たあくんは愛を、信じているの? それとも信じてたの? それとも信じたいの?」


たあくんは 2合目の熱燗をゆっくり呑んでいた。


盃の中の酒をみつめながら、私の質問に対する答えを探しているようだった。


やがて、たあくんは私の目をじっと見て、静かに言った。


「信じたかったの」


優しげな目で、ひとことだけ。


私はなんだか 気が重くなった。


たあくんは煙草に火をつけながら、「出よう」と 立ち上がった。


会計をすませ居酒屋を出ると、私たちはタクシーを拾うため国道に出た。


車の流れを目で追う。 


サーチライトがいくつも過ぎてゆく。


「野乃」


たあくんが呼んだので 私は振り向いた。


たあくんが私の身体を引きよせて、つよく抱きしめた。


「好きだよ」


彼のことばに、私はどうやって応えればいいのか分からない。


分からないから いつも黙ってしまう。


「野乃は 俺のこと、好きか?」


私は頷くのがやっとで、それ以上どうしてもことばが見つからない。


ことばを見つけることが、私は本当に下手だ。


でも、それを知っているから、たあくんは私を責めないし、


私も彼に優しく接することができる。


私はいったい、彼のなにが欲しいのだろう。


彼となにをしたいのだろう。


抱き合いながら、私はひとりぐるぐると考えた。


たあくんが私の頬にキスをして、タクシーを止めてくれた。


タクシーの窓越しに手を振ると、 彼は口をパクパクさせて


いえに ついたら めえる して。


言い終わると、手を振った。


タクシーは動き出し、みるみるたあくんは小さくなった。





今日のコモさん:


「○○といえば~」で遊びました。


名探偵・・・(といえば) 「コナン!!」


おっす、オラ・・・(といえば) 「悟空!!」


魔法使い・・・(といえば) 「コモ!!」


知らなんだわ(笑)