たあくんが初めて私の名前を呼んだときのことを、私はいつまでも覚えている。
高校の入学式の翌日、私は一人、桜並木の下を歩いていた。
制服も、ローファーの靴も、茶色の鞄も、何もかも新しくてイヤだったから
校門を出ると、私は靴のかかとを潰して履きなおし、制服のリボンも解いた。
昔から新しいものが苦手だった。 新しいことも、どちらかというと苦手。
高校に入っても、陸上を続けるかどうか迷ったのは、もう短距離の選手になれないこともあったけど、
新しいチームメイトと仲良くやっていく自信がなかったからだ。
さっき強引な勧誘に負けて受け取った「マネージャー募集!」のビラをみつめる。
おかしくもないのに、ふっと笑って、私はそれをくしゃくしゃにして 道路の植え込みに捨てた。
すると、
「こらあ、 変なところにごみを捨てるなあ」
後ろから声がした。
私は、あ、やばい、と思い、そのまま振り返らずに駆け出した。
それを見て、声の主も走って追いかけてきた。
私は捕まることは分かっていたけど それでも逃げた。
走りながら、自分の足が重く、そして遅いことに苛ついた。
やがて追いつかれ、肩を掴まれて振り向くと、そこにはスーツ姿の男が立っていた。
てっきり学校の先生が追いかけてきていると思っていた私は、なんだかほっとして、
素直に あ、すいません、もう しません、と頭を下げた。
男も拍子抜けしたように、え、はい、そうしてください、と私が捨てたビラを両手で差し出した。
私は男の顔をよく見ずに、また前を向いて歩き出すと、
「ちょっと」
男は言った。
「マネージャーやらないの?」
私は言った。
「やらないから ビラ、捨てちゃったんですけど」
男はつづけた。
「園田野乃佳、 もう陸上やらないのか」
私は振り返った。
男の顔をよく見ると、 あ、と声が出た。
たあくんは 私のクラスの副担任だった。
今日のコモちゃん:
私とコモちゃんが最近楽しみに観ているドラマは、、、夫婦善哉!!
あほな男と女の物語