往復書簡 | My favorite is …

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好きな音楽や本、映画に出逢った時、そこに関わるエピソードが必ずあります。

人間は時間的存在である。

それゆえに、過去の断片化した記憶を綴り、書き記していこうと思います。





親愛なる君へ、今日の手紙に嘘はない—。





前略 

新緑の美しい季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。

山々の緑も雨に打たれて色濃くなり、吹く風にも夏の匂いが感じられる今日この頃、書斎にて宛名のない手紙をあれこれと思案しながら書き綴っております。

行く春を惜しみながらも既に心は夏の到来を待ちわびていたようで…心変わりとはまるで移ろう季節のようだとはよくいったものと感心いたします。

それは例えば…あれほど焦がれていたはずの本を読み耽った後、またすぐ違う本を手に取っては詠み始めてしまうように。そういえば、随分前に読み終えた「往復書簡」という本のことを思い出しました。




十年後の卒業文集

高校時代、放送部で共に過ごした同級生の結婚式を機に始まる手紙のやり取り。過去の事件の真相を探る「悦ちゃん」、地元に残って穏やかに暮らす「あずみん」、結婚した内気でおしとやかな「静ちゃん」と人気者だった「浩一くん」、そして行方不明の「ちーちゃん」。

次第にそれぞれの想いがひも解かれていき、最後の手紙で明かされる意外なカミングアウトによってゴーストライターは誰だったのかが判明する。




二十年後の宿題

定年を迎えた恩師からの頼みを受けて、昔の教え子である6人に逢いに行く大場敦史。1人また1人と逢って話をするにつれ、過去の事件で抱えた傷が浮き彫りになってくる。教師としての倫理感、愛する人を失った哀しみ、幼少期の傷跡と消えない罪の意識。

最後に逢った6人目の教え子によって、はる先生が何故彼に頼んだのかが明らかとなり、その心温まる計らいに感動がもたらされる。









十五年後の補習

中学から付き合っている万里子と離れ、国際ボランティア隊として2年間海外赴任をすることを決めた純一。はじめこそなんだか甘い遠距離恋愛での手紙でのやり取りが続くものの、徐々に二人は過去の事件について話し始め、改めて自分たちを見つめ直していく。


教師を志したきっかけ、忘れたい記憶、思いやりから生まれた嘘。続く1年後の連絡網でさりげなくエピローグが書き添えられている。








同級生たちとの思い出は既に遠い遠い過去のようでいて…同窓会に行くのも未だに億劫ではあるのですが、声が掛からないとそれはそれで寂しく感じてしまいます。


多感な時期だったあの頃の先生というのは今も色濃く覚えていて、対して先生の方はと云うとたくさん受け持った生徒の中の一人でしかないのだから、覚えてはいなくても仕方のないこと。そう思いつつも覚えていてくれた事を知ったときの嬉しさは言い様がない程でありました。


遠く離れた恋人たちでさえ、私たちの時代では手紙を送り合うようなことはなくなってきたのですが…手書きからにじみ出る人の温かさといいますか、どこか深い感情が込められているような気がしてならないのです。


とりとめのないことをただただ書き綴ってしまいましたが、乱筆乱文のほど、ご容赦願います。






P.S. 12人の手紙へよせて

往復書簡3編ともに甲乙つけ難く、中々に読み応えのある作品でした。ただ、著者のイヤミスとしての手腕を期待していると、物足りなく感じるかもしれません。私自身はこういう書簡形式の小説は好みではあります。是非、一読あれ。

虚構の春より