ユージニア | My favorite is …

My favorite is …

好きな音楽や本、映画に出逢った時、そこに関わるエピソードが必ずあります。

人間は時間的存在である。

それゆえに、過去の断片化した記憶を綴り、書き記していこうと思います。






その花の名を少女は長いこと知らなかった





かつて潮騒の街を悪夢で覆った名家の大量毒殺事件。
数十年を経て解き明かされてゆく遺された者たちの思い。
見落とされた真実を証言するかたちで綴る連作短編集。











家の中は苦しむ人たちで阿鼻叫喚だった。
家族の断末魔の声が重なり合い、みんなが死んでいく中で、彼女はひとり耳を澄ませていた。


あの家に住んでいた人間で生き残ったのはたった一人。悲劇の生き残り、それが彼女の役に似合っていた。




 
「忘れられた祝祭」、あの本を出した時点で彼女の目的は終わっていた。
本筋とは関係のない細かいところで実際の証言と異なっている。
彼女が意図的に変えたのであろう、特定の人間に宛てたメッセージ。





目は見えませんでしたけど、それでも彼女は全てを持っていました。彼女は自分の目と引き換えに世界を手に入れたのです。


私が黄昏の中で、この世のものとは思えぬ笑みを浮かべてブランコを漕いでいる彼女を見たのは、あの事件が犯人の自殺で終結し、合同慰霊祭を終えて帰る途中のことでした。





同時に彼はひどく不安を感じていた。
昨日、あの部屋で感じた巨大な冷たい悪意。

ねえ、あなたも最初に会った時に、犯人って分かるの?



あのただならぬ透明な悪意と同じものを彼女の中にみた。確かに、私は歪んだ一目惚れをしたのかもしれない。
あれ以来、彼女に囚われ、ずっと彼女について考え続けているのだから。





知りたかったの。
人に毒を飲ませるのって、どういう気持ちなのかを。


妹が理解したい、他の人になりたいと言っていたのはある特定の人物だったのです。
彼女がなりたいのはその人だけでした。





だけど、あの「花の声」っていうのは絶対に女のことだと思うんだ。白い花、綺麗な声。死の配達に向かう兄さん。

あのひどい天候のなかで、毒の入った瓶を運びながら、兄さんはいったい何を見ていたんだろう。





伝説のヒロインを引っ張りだしてみたら、ただのどこにでもいる中年女だったなんて。
私が惹かれたあのミステリアスな悪女はどこにいるのか。
苦い失望を噛み締めながら私は歩いた。





彼女はもう一つの国を探していた。誰も知らない夢の国。世界が消えて永遠の静けさに満ちた、二人だけの国。


二人はその国をユージニアと名付けた。




遠い夜明けに震えた日々も
今日で終わりを告げる

私の唇に浮かぶ歌も
朝の森で私の靴が踏み潰す虫たちも
絶え間なく血を送り出す私の小さな心臓も
全てをあなたに捧げよう












P.S. 21世紀をみることなく逝ったM.Pへ

読むと不安になって、読み進めると更に不安が深くなる。美しく清潔で、でも壊れている感じ…まさに恩田版ツインピークス!!


遠くて深い国からの使者より