著者のさだまさしさんは以外と苦労人である。
私が覚えているのは、母が建築会社の事務と掛け持ちで仕事をしていたダスキンの広報ポスターに乗っていた姿。そこで「神田川」と「関白宣言」という曲を知った。
まだ小学生の時、母の赤い車に乗せられて夕方回ったダスキンの宅配訪問が微かに記憶に残っている。
精霊流し、解夏、そして去年映画化で話題になった「アントキノイノチ」と著作も多い。その中から本作を選び取ったのは、眉山が私にとって所縁の地でもあったからだ。
徳島には、弟の結婚式で行った事がある。
まず何で行くかを考えた。新幹線、深夜バス、フェリー。新幹線やバスは何だか味気ないので、フェリーで行ってみようとネットで色々調べたりした。
船で過ごす1日を想像し、すっかりその気になっていたのだが、結局バスで行く事にした。私は本当に冒険心がないと呆れてしまう。
深夜、新宿のバスターミナルを出て、徳島には午前10時位に着いた。10時間以上もバスの中でどう時間を潰していたか覚えていないが、橋を渡るのを窓から見た瞬間は爽快だった。
弟が車で迎えに来てくれて、ひとまずマンションに向かう。父や母、一番下の弟も既に来ていて、祖父の葬式以来に家族全員が揃った。
徳島と言えば、やはり阿波踊り。
披露宴でも弟の嫁さん家族が披露してくれた。
江戸時代から続く大きな祭りで、庶民の為のこれほど自由な祭りは他にないんだよ。
見事な生き様を示した本作の母がそう娘に話す一幕があった。
この小説は、
母の生き様を感じる娘の物語である。
女手ひとつで誰にも頼らず一人娘を育て上げた母、龍子(たつこ)。
喧嘩っ早いが情には脆く、きっぱりしすぎて手に負えないような性格。地元では有名な居酒屋を営む、人よんで「神田のお龍」。
龍子は病を患うと、さっと店をたたんでケアハウスに望んで入り、介護認定を済ませ、身辺整理を軽やかに整えてしまう。
そんな何でも1人で決めてしまう母に娘の咲子は振り回されてばかり。中でも咲子が驚いて言葉を失ったのは、母が「献体」を申し込んでいた事だった。
介護員の啓子と居酒屋のまっちゃん。
二人とも咲子をほっとさせる、心の底に灯をともしてくれるような人を安心させる笑顔を見せてくれる。明るい人の笑顔は周りまで明るくさせてくれる。
初対面は最悪だった医師の寺澤。
次第にその温和な人柄があらわれ、咲子ともお互い惹かれあう関係に。ラストの父の家を咲子よりも一生懸命に探す姿は実にほほえましかった。
見上げればいつもそこにある眉山、
真っ赤なルビー、母の箱。
母と最後に見る阿波踊り、
刹那の邂逅、そして封書の追伸。
「ぞめき」という言葉がある。
身体の芯が粟立つようないてもたってもいられないような静かな興奮のことをそう呼ぶそうだ。
徳島の阿波踊り、その中で「よしこの囃子」はそれを体現した踊りと評され、その様子を見事に表した文章が本当に素晴らしかった。
正に読みながらにして、「ぞめき」を感じ得た本であったと言える。
ウェディングソングは最近だとシェネルの「ベイビー、アイラブユー」だろうか。私はTEEが歌う原曲の方が好きなのだが。
弟の結婚式でかかったのは、こちらも定番の「バタフライ」だった。
披露宴の後半には、新郎側の家族を代表して私がスピーチをした。
前日に言い渡されたので特にいい言葉も浮かばず、いっそドラマの1シーンをそのままパクってしまおうかとも考えた。
幾つになっても名前で呼び合えるような、
そんな夫婦になって下さい。
~ドラマ「僕の生きる道」より~
宇宙の片隅のこの会場で、僕たちがこうして集まる事が出来たのも…(中略)
運命という一番難しい謎を今日、彼が解いてくれたような気がします。
~ドラマ「やまとなでしこ」より~
結局、自分の言葉で述べた方がいいなと思い直し、特に捻りもなくそのままの気持ちを語ることにした。得てして率直な言葉の方が伝わりやすい時もある。
これから、私たちは家族になります。
遠く離れていても家族です。
そう思いながら、この若き二人を家族として共に見守っていきましょう。
P.S 二輪草を父と見事に踊った母へ
神田のお龍のような気質の性格ではないが、1本芯が通っていて人に譲らない頑固なところは似ているかもしれない。
三人の息子を育て上げた母は、どんな気持ちで次男の結婚式を迎えたのだろうか。
「長野、北海道、徳島。おかげで色々なところにいけて良かった。子供たちに感謝しなきゃね。」
前日に家族皆で登った眉山、そこで零した母の言葉が忘れられない。
親孝行には程遠い長男より


