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ほどよい敬語~その敬語、盛りすぎです!

プロのライターでも経営者でも間違えることがある敬語。相手を思いやるコミュニケーションツールとして「ほどよい敬語」を使いこなして「デキル人」になっちゃおう。

「申す」と「申し上げる」の違いは「謙譲語Ⅱ」と「謙譲語I」の違い

 

「申す」と「申し上げる」は性質が違う


「申す」と「申し上げる」の用法で混乱することはありませんか?
敬語を3分類【尊敬語・謙譲語・丁寧語】で考えると、どちらも「謙譲語」に分類されます。

 

ところが、5分類【尊敬語・謙譲語I・謙譲語Ⅱ(丁重語)・丁寧語・美化語】で考えると

・「申す」=「言う」の謙譲語Ⅱ(丁重語)

・「申し上げる」=「言う」の謙譲語I
です。
謙譲語Ⅱと謙譲語Iと分かれているからには、もちろん性質が違うわけですね。


「申す」は「言う」の丁重語

「申す」は「言う」の謙譲語Ⅱ(丁重語)です。
さて、この丁重語とは、何でしょうか。よく耳にするので何となく分かっているつもりになっていることがありますよね。この機会に確かめておきましょう。

丁重語。辞書で引くと、こうあります。

【丁重語】ていちょうご
敬語の一つ。自分(話し手や書き手)または自分側の人物の動作・ものごとなどを、相手(聞き手や読み手)に対して改まった気持ちで言う語。
「参る」「申す」「いたす」「愚息」などがある。
(『明鏡国語辞典 第三版』大修館書店)

 

つまり、丁重語とは「相手(聞き手・読み手)に対して、改まった気持ちを表す言葉」です。「申す」「参る」など動詞の丁重語と「愚息」「拙宅」「小社」など名詞の丁重語があります。
動作についての丁重語は「申します」「参ります」のように丁寧語の「ます」を伴います

では、丁重語は、誰に対する敬意を表せるのか?

それは「相手」です。


「申す」を使った文を2つ挙げます。


A:私は、息子にそのことを申しました
B:息子が申しますには……

A・Bどちらも、単に目の前の「相手」に対しての丁重さを示しているだけです。Aでは、私を低めることで息子への敬意を表しているわけではありません。

そして、A・Bで共通するのは、どちらの主語も「高める必要のない人物(私・息子)」である点です。
いくら目の前の相手に丁重に言いたいからと

×「お医者様が申しますには、私は胃腸炎だとのことでした」

と使うことはできせん。


「申し上げる」は「言う」の謙譲語I

「申し上げる」は「言う」の謙譲語Ⅰです。
 

【謙譲語】けんじょうご
敬語の一つ。自分(話し手や書き手)や自分側の人物から、相手(聞き手や読み手)や相手側の人物、あるいは話題の人物に向かう動作・ものごとについて、それが及ぶ人物を高めて言う語。
「拝見」「申し上げる」「うかがう「先生へのお手紙」などがある。
(『明鏡国語辞典 第三版』大修館書店)

 

謙譲語Iには、必ず「補語(動作が関わる方面)」があり、補語への敬意を示します。

ちなみに「補語」には次のような役割があります。

 

【補語】ほご
国文法で連用修飾語のうち、主として格助詞「に」「と」を伴って述語の意味を明瞭にする語句。「父が母に電話をする」の「母に」、「希望が夢と消える」の「夢と」の類。
(『明鏡国語辞典 第三版』大修館書店)

 
例えば

○ 私は先生に申し上げました
× 私は、その犯人に申し上げました


一文目は自分を低めて、補語である「先生」を立てているので、正しい使い方です。
二分目は自分を低めて、補語である犯人を立てているので、誤用です。

謙譲語Ⅰには、補語が必要で、しかもそれは敬意が及ぶ先です。

 

○ これから大事なことを申し上げます

 

これには一見補語がありませんが、間違いではありません。
「申し上げます」と言うからには、目の前の相手への敬意を示しています。

 

○ これから(あなたに)大事なことを申し上げます
 

「あなた(目上の人物)」が隠れているわけですね。


「誰を高めているか」で区別する


改めて、押さえておきましょう。

謙譲語Iは「補語」への敬語、謙譲語Ⅱ(丁重語)は相手(聞き手・読み手)への敬語です。
そのため、次のように使い分けることができます。

謙譲語I「申し上げる」は身内については使えません。謙譲語Ⅱ「申す」は身内についても使えます。(混同しないために、「謙譲語Ⅱ」を「丁重語」と表します)

× 私は、母に申し上げました

○ 私は、母に申しました
 

謙譲語I「申し上げる」は高めるべき人物でない人物には使えません。丁重語「申す」は動作の向かう先が高めるべき人物でなくても使えます。

× 私は、犯人に申し上げました

○ 私は、犯人に申しました
 

2文目は、例えば、ひったくりに遭い、その被害を警察で説明している様子を想像してください。「申しました」は、犯人ではなく、目の前の警官に対する丁重さを表現しているのです。
このように、丁重語「申す」の場合は、補語に高めるべきでない人物(身内や目下、変な人など)に使っても不自然ではありません。単に、話し手が聞き手に対して丁重に述べているだけなのです。

 

補語=相手(聞き手・読み手)の場合には?
 

では、次のような表現は成り立つでしょうか。

補語が目の前にいる相手(聞き手)と同一人物の場合です。

 

A:先日(あなたに)申し上げましたよね
B:先日(あなたに)申しましたよね

 

どちらも用法としては成り立ちます。「申しました」でも、目の前の相手への丁重さを示しています。
ただし、「申し上げましたように」のほうが、「申しましたように」よりも高い敬意を示すことができます。

この点はしっかり心得ておきましょう。

 

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