「ご予約様、入られました」の使われ方や言い換えは?
「ご予約様」という言葉を聞いたことがありますか?
接客業で「ご予約のお客様」という意味で使うお店があります。
そもそも、この表現にはどんな役割があるのか、違和感はないのか、どう言えばほどよい表現にできるか……など考えてみました。
リアル飲食店で「ご予約様、入られました」に違和感はない?ある?
ある飲食店で待ち合わせ。
入店して、スタッフさんに「〇〇さんの名前で予約してあると思うんですけど」と伝えました。
すると「こちらへどうぞ」と案内されます。ここまでは大丈夫。
気になったのは、案内される途中の掛け声です。
「ご予約様、入られましたー」と他のスタッフさんへ聞こえるようにおっしゃいました。
内心「ご予約様、って私のこと?」と初めて呼ばれる言い方に違和感を覚えながら席につきました。
ハキハキと元気なお声だったので、感じが悪いとは思いませんでしたが、その表現だけがちょっと気になったのです。
「ご予約様」、SNSでは限定的に使われている
もしかして、これは飲食店では標準的な言葉になりつつあるのか?
と疑問に思い、検索しました。
すると、Twitterでは次のような表現がずらずらーっと出てきます。
「ご予約様がご来店」
「ご予約様に感謝いたします」
「本日ご予約様方、ありがとうございます
「ご予約様、待ってるね」
あること、あること。ずらずらーっと。
ただし、ほとんどがアダルト系のアカウントでした。
業界的には、まだ限定的な表現なのかも?と推測します。
「ご予約様をいただいております」という表現も!?
しかし、知恵袋のようなサイトでは
予約しようとして満席だった時にお店から「すでにこの日は、たくさんのご予約様をいただいております」と回答されたという記述もありました。
すでに予約したお客様を敬う気持ち、さらに電話の相手に対して「私たちはお客様を敬っています」という気持ちの表現だと思われます。
ただ、この場合「ご予約をいただいております」で事足ります。「様」は必要ありませんね。
「ご予約の〇〇様、入られました」には、どんな役割がある?
そもそもなぜ、このような表現が使われているのか?考えてみました。
リアルの飲食店で
「ご予約様、入られました」と店内に大声でアナウンスすると
他のスタッフさんやお客様に聞こえます。
これにより、次のような効果を狙っているのではないでしょうか
・「予約されていた大切なお客様ですよ」と他のスタッフに周知し、おもてなしムードを盛り上げる
・片付けた食器類を持っている他のスタッフさんへの注意喚起を行う
・「このお店では予約されたお客様を大切にしていますよ」と他のお客様にも感じてもらう
もしそうした気持ちからであるなら、理由は十分理解できます。
が、「ご予約」に「様」を付ける言い方は聞き慣れず、どうしても違和感を覚えます。
ではどのような表現がいいのでしょう?
「ご予約様、入られました」の適切な言い換えは?
これがもし
・「ご予約の〇〇様、入られました」
・「ご予約のお客様、入られました」
ならどうでしょう?
どちらも一見問題ないように考えられますが、実は意外な盲点があります。
まず、客の立場で考えてみましょう。
●「ご予約の〇〇様、入られました」
【予約した本人の場合】
もし私が予約した本人なら
「ご予約の前田様、入られました」と大声で案内されると、気恥ずかしいです。
内心「いやいや、名前はやめてよ」となるでしょう。
私はさほど個人情報にうるさくはありませんが、プライバシーにこだわる方なら「え、そんな大声で名前言わないでよ」と思うかもしれません。
(余談ですが、入り口で普通の声で「前田様お待ちしておりました」と1対1で言われるのはうれしいですよ)
【予約した本人ではない場合】
また、友人のAさんが予約して、私が先に入店する場合も考えられます。
その際「ご予約のA様、入られました」と大声で案内されるのも、やはり「別人だけど」となるわけです。
かといって、わざわざ自分の名前を新たに呼ばれてもさらに「いやいや別にそこまでして呼んでもらわなくてもいいよ」と感じるでしょう。
つまり、予約した本人であってもなくても、わざわざ名前を大声で言いながら案内する必要はないと考えられます。
●「ご予約のお客様、入られました」
では、「ご予約のお客様、入られました」はどうでしょう?
客の立場では、特に問題ありません。
ただし、スタッフさんの立場ではどうでしょう? 掛け声としてはちょっと長い気がします。
飲食業界では外国人スタッフさんも多いので、なるべくシンプルに。
やさしい日本語がいいですよね。
では、どのような表現がいいでしょうか?
「ご予約様、入られました」のほどよくやさしい言い換えは?
そこで、予約していたお客様とそうでないお客様を区別する必要があるでしょうか。
この際「ご予約」にこだわらないことを提案します。
人により考え方はいろいろあるでしょうが、おもてなしの基本は 多様なお客様にも平等に接することだと私は思います。もちろん1対1の接客で個人的にちょっとサービスをしたり、お客様をひいきしたりなどはあるでしょう。否定しません。
結論。
お客様を案内していますよ、と伝えるだけでいい。
「お客様、入られました」「お客様、ご案内します」でよいでしょう。
「お客様、ご案内いたします」と謙譲語にまでしなくてもOK。今どきスタッフさんも多国籍なので、なるべくシンプルな日本語のほうがいい。
いずれにしても、客側としては、区別してもらう必要性を感じません。
シンプルに、シンプルに。
どのようなお客様にも平等に接するほうが、感じがいいと思います。
*このページは、前田めぐる個人の見解です。
*写真はイメージです。
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