ザーーーーーーーーーーーーー・・・・・
(真っ暗な視界の外から建物を打ち付ける激しい雨音だけが聞こえてくる)


ぺたぺたぺたぺたぺた・・
(耳元の横から「裸足で歩く生々しい音」が通り過ぎていく)


ムーア「ん・・・・・・・・・・・・・・・・」(意識の回復と共にゆっくりと視界を広げていく)


ぬう・・(眼窩のくぼみが浮かび上がるほど窶れ果てた紫肌のミイラ男が腰を屈めながら、その真っ黒に染まりきった両眼でこちらを覗き込んでおり、また興奮しているのだろうか、髑髏のように骨ごとひん剥いたような鼻の穴から激しい鼻息が漏れている。またその位置関係から、視点の主が仰向けに横たわっていることも見て取れる)


ムーア「・・失せろ・・・・化け物・・・・・」カカカカカカカ!!(目の前の紫ミイラ男が顎を「炎戈竜の咀嚼音」みたいにカクカクいわせながら「ドクロ嘲笑」している)

ベックフォード「お目覚めのようだね。ここがどこか分かるかい?」(先程までの弱々しい口調とは打って変わり、まるで青年期にタイムスリップしたかのような若々しい淡々とした速度と快活な口調で話しかけてくる)


・・・・・バルルルルル・・・・・
(耳元から以前にも聞いたことのある甲虫が翅を羽ばたかせる独特な羽音が聞こえてくる)


ちら・・(うつらうつらと眼球だけ動かしながら、ミイラ男の後ろに見える背景をそれとなく確認すると、現在地が例の応接間であることが分かる)


ムーア「・・これで二度目・・・・クソ野郎・・・」

ベックフォード「君と初めて出逢った記念すべき部屋だ。一度目はゴルゾンに眠らされ、彼の手によってここへ運ばれてきた。二度目は?分かるかな?」(まるで髑髏が笑っているかのような腹立たしい笑顔を浮かべながら自作のしょうもない問答を楽しんでいる様子だ)

ムーア「何を入れたの・・?」(次第にこちらも意識と口調がはっきりとしてくる)

ベックフォード「なぁ~~に。君が飲んだグレープジュースにネムリ草の成分を入れただけだ」

ムーア「ほんと・・都合の良い植物・・」いてて・・(と、頭痛がするのか、頭をおさえながら上半身を起こす)

ベックフォード「問題は君をここまで誰が運んだかだ?」ん~~~~~~?(と、自慢気に両手を広げて立っているミイラ男は皮と骨だけになった「あばら剥き出し」な紫肌の上半身を自慢気にアピールしており、下半身はピエロのようにタイトな黄色いスパッツを裸足で装着している)

ムーア「最悪な着こなし。誰が喜ぶわけ?」んしょっ(と、首を振りながらその場にあぐらをかく)

ベックフォード「『僕』だよ。僕が君をここまで運んだんだ。不思議じゃないかい?」ん~~~~~?

ムーア「わかったわかった。本当は歩けるんでしょ?あるいは、さっきのヤバ気な薬の力とか」ボリボリボリ(しょうもないクイズに突き合わされている自分に腹を立てるように髪の毛を掻きむしる)

ベックフォード「正解!!」パンパンパンパンパンハッ(手を叩き終えると、少し落ちたパンツの位置を直す。ガリガリだから)

ムーア「これが本当のあんたの姿だっていうの?見た目以上に異常。別に韻を踏んだつもりなんてないから。率直な感想」ふんっ

ベックフォード「カカカカカカカ!!薬の力がなければ駄目だと思っているんだろう!?確かにそうだ!!だが・・」むんっ(例の如く雷光虫が募る暖炉目掛けて右腕を振りかぶる)


バコーーーーーーーーーン!!
(殴りつけた右拳で暖炉の一部を大破させる)


ベックフォード「フォーーーーーーーッ!!どうかな!?」(アピールする紫色の右拳からは明らかに骨が薄皮を突出してしまっており、またそこから流れ出る血の色もまた酷く淀んで見える)

ムーア「可愛そうに。痛みすら感じなくなってるんだ・・・で?なんでここへ連れてきたわけ?その哀れな姿を自慢する為じゃないでしょ?」

ベックフォード「そのまさかだよ、キャロルムーア!!ゴルゾンがいなくなった今、この力を見せれるのは君しかいないと思ったのさ!!」(右拳から皮がベロンと垂れている)

ムーア「・・・ってことは・・ゴルゾンは今のあんたの姿のことを知っていたの?」

ベックフォード「ああ、そうさ!!なぜ僕が奴隷商人からおもちゃを買っていたと思う!?憂さ晴らしの虐待をゴルゾンにさせ、そこの肖像画の向こうから僕が覗き見る!?違う違う!!君も知っての通り、ゴルゾンは心優しい男だった!!彼におもちゃを運ばせ、僕が自分の手で処理していたのさ!!君はさっき、応接間をリフォームした理由に、地下から移動するのが面倒になったからと言ったろ!?それも違う!!地下室で陰気になぶり殺しているより、その姿を肖像画からゴルゾンに見てもらうためさ!!一方的に人を痛めつける爽快感が誰かに覗き見されているという緊張感と背徳感から、さらに精神的高揚を増幅させ、仕留めた時の死への開放感をより人智を超越した弛緩状態へと導いていくんだ・・・・まるで神々しい意識世界へと僕を誘うかのようにね!!」カカカカカカカ!!

ムーア「何言ってるか理解できないけど、クソ異常者のクソパラフィリア哲学だってことは分かるわ。何よりも可愛そうだったのはゴルゾン・・・・いっときでもあんたの容態に同情してしまった自分を殺してやりたい」はぁ・・・

ベックフォード「君は最高だよ、キャロルムーア!!なぜなら君は、僕とジェイソン・ウーが彼女に見出した希望という光を再び与えてくれたんだからね!!」

ムーア「その憧れの悪女と一緒にしないで。手紙は読んだの?」

ベックフォード「その前にまず、さっきの話の続きからだ」フォッ!!(垂直に飛び上がり、天井の梁を「懸垂機」みたいに両手で掴む)

ムーア「あんたと陛下がなんでそんな姿になったのかって?もうどうでもいいわ・・」よしよし(と床を這ってきた雷光虫をなでる視界の端では梁で高速懸垂かますガリガリ異常者の姿が)

ベックフォード「これを見たまえ」フォッフォッフォッフォッDASH!(常軌を逸した速度で懸垂かましながら何かを投げ飛ばしてくる)

ムーア「あんだってこにょ・・・・・・」パサッ(飛んできた手紙を広げる)



キングスラムウォール二番街の勤勉家、ヴィンセント・ベックフォード
私はお前が何者か知っている
この秘密を公にされたくなければ、直ちに兵権を宮殿に返却せよ



ムーア「・・・・・・これが脅迫状?」

ベックフォード「そう。影武者である僕の本名だけじゃなく、二番街の出身とまで書いてある。犯人は真面目だった頃の僕を知っている人間さ。その手紙の筆跡から察するに獣人特有の癖がみられる。つまり、カーン君が彼女に命じられて書いたものさ」フォッフォッフォッフォッDASH!

ムーア「あんた・・・最初から分かっていたのね?」

ベックフォード「彼女は仮面を置き土産に、メッセージを残していった。その意味が分かるかな?」カパッ(片手で懸垂しながら例の仮面をつけてみせる)

ムーア「・・・ひとつは彼女自身が生きているという証拠・・・・置き土産にしたってことは・・・・・決別を意味している・・・」

ベックフォード「さすがだ。しかも彼女は僕が惹かれていたことを知っていて、わざと自分の愛用していたこの仮面を残し、純真だった僕の心にも深い印象を残して去っていった」フォッフォッフォッフォッDASH!

ムーア「性格悪っ・・。けど、それだけの意味じゃないでしょ?」

ベックフォード「もちろんだ。彼女がヴェルドを去る。つまり邪龍教が王都での任務を終了したことを意味していた。彼女はジェイソン・ウーの信頼を得て、王都に魅力的な輸入品を持ち込むことに成功したからだ」フォッフォッフォッフォッDASH!

ムーア「薬物ね?」

ベックフォード「君も見てきたんだろう?宮廷の腐敗した姿を。彼女は王都に混沌を運び、そしてその闇に潜みながら、時間を掛けて王宮に仲間たちも送り込むことにも成功した。すべては王都を手中におさめるためにね」フォッフォッフォッフォッDASH!

ムーア「一度は兵権をあんたに譲らせて、宮廷の権威も弱体化させた・・・そしてその間に顧問団を結成して、あんたを脅迫して兵権を・・・・捨て駒にされていると分かっていて、なぜ黙っているの?」

ベックフォード「彼女を愛しているからさ」(真顔でこちらを見つめる変わり果てた姿のベックフォード青年)

ムーア「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」シュタッ(息を吹きながら着地するベックフォードを見つめている)

ベックフォード「僕だってバカじゃない。脅迫状が送られてくる前に彼女の居所を必死に捜索したさ。だが、気配はおろか、全く彼女の情報を掴むことができなかった。暗黒商会の人間を尋問したこともあった。だが、僕レベルに捕まるような連中は、組織でも下っ端。重大な情報を知るわけもない。頭を抱えたよ。ジェイソン・ウーを再三訪ねに来ていたあの可憐な少女を殺めてまで、僕は先代が求めていたウー家の当主になりきっていたにも関わらず、簡単に捨てられたんだからね」

ムーア「さっきの罪悪感・・あれも演技なの?」

ベックフォード「本当の気持ちさ。何の罪もない従者達を何人この手で殺したと思う?頭がおかしくなりそうだったよ。そんな時さ。彼女から救いの手が差し伸べられたのは・・・」

ムーア「・・・・それが・・さっきの薬ね?」

ベックフォード「最初はもっと軽いやつだった。だんだん・・僕の彼女への想いが増せば増すほど、薬の強さも増していった・・・そしてある日、スカーフェイスのメラルーがとんでもない神薬を持ってきたんだ」スチャッ(と小銃型注射針をタイツの中より取り出す)

ムーア「何なの?それは?」

ベックフォード「さぁ・・名称は知らない。ただ、彼女が僕の為に調合してくれたものだということだけは分かった。だが、君の話を聞いて心底がっかりもした」ブシュッ!!(それを窶れた左腕に発射する)

ムーア「陛下もまた・・・被検体として・・」

ベックフォード「僕は違う!!!!」

ムーア「・・・・・・・・・・・・・・・」

ベックフォード「陛下にこの薬を送りつけたのは、あくまでも宮廷内を混乱させるためのフェイクに過ぎない!!彼女は・・・ジーナは僕の苦しみを開放するために・・・」

ムーア「ほんとに可愛そうな人ね。あんたはその薬の繋がりだけが唯一、彼女との間に残された関係性であると錯覚して、彼女にいいように使われている自分を認めたくないだけなのよ。きっとその薬は「新作」で、あんた達を実験台に・・・」

ベックフォード「黙れ!!僕だけが彼女の意志を共有できる、たった一人の男なんだ!!」

ムーア「それも嘘。彼女への少年ぽい恋着の錯綜の末、あんたが若かりし頃に抱いていた大望は銷魂してしまい、自暴の果て、彼女への淡い記憶を呼び戻さんと薬物に手を出し、その鬱屈の捌け口として自ら返済不能者に対する非道な処罰を繰り返していった・・」

ベックフォード「違う!!僕はヴィリエとは違う!!あいつは・・あいつは単にストレス発散から、拷問を進んでやっていただけだ!!」

ムーア「だからあんたも恩師であるその人と同じ行動をすることで自分を正当化させていたのよ。そしてあんたは自分をそんな道へと誘った恩師とジェイソン・ウーを恨むことで、本当の重罪人である彼女の存在を崇高にさせていった・・・」

ベックフォード「ジェイソン・ウーは大陸に伝わる神薬の在り処を探っていた・・・・僕はそれを手にしたんだ!!しかもジーナの手によってだ!!彼女はジェイソンじゃなくて、僕を選んだんだ!!!!」

ムーア「F××K。いい加減、現実に目を向けなさい。ヴィンセント・クソ・ベックフォード!!」ブッアセアセ






Recollection No.5_116






ベックフォード「カカカカカカカカ!!君に何がわかる!?君は知らないだろうが、君の父親、アーロン・ロザリーもまた、彼女を探していたんだぞ!!」

ムーア「!?」カカカカカカカカ!!


To Be Continued







★次回ストーリーモードは11/16(月)0時更新予定です★