パッカラパッカラ・・
「現場はもうすぐだ。保安官」
なんてあたちがライドしているこの偶蹄目なガウシカ科はパーク内で「キャスト」として働いている人気者のガウシッチさん(♂バツイチ)。なんでもパーク内に謎の隕石が落下してきたというので早速、現場へ直行中なのでした。
「無事に年が開けたと思ったら隕石ですって?そんなものが落ちてきたらパークごと吹っ飛ぶでしょうに」
「俺もあれが園内の外から物凄い勢いですっ飛んできた時はさすがに観念したさ。もうこれで娘の養育費を払い続けなくていいんだ・・って思ったのもつかの間、衝撃音と共に「右からすっ飛んできたあれ」が地面に突き刺さってきやがったのさ」
「突き刺さってきた?」
「百聞は一見にしかず。さぁ、到着したぜ。問題の隕石はあれだ」
「・・・・・・・!!」
ネルギガーーーーーーーン!!
「ほんとだ・・右からすっ飛んできて、地面に突き刺さってる・・」
~導きの税関日記~
エピソード3「悉く正体不明な隕石」の巻
~パークの休憩エリア....
ガヤガヤガヤガヤ・・
「そしたらさ、ツキノハゴロモを捕まえようとしたボワコフさんが足を滑らせて、崖下まで落ちていっちゃったの。下のエリアでは氷牙竜が大きな口を開けて待っていたもんだからさぁ大変。飲み込まれたボワコフさんを救出するために、コゲ肉や腐った肉を氷牙竜に食べさせて吐かせようとしたんだけど、頭がいいのね。ぜんぜん寄り付かなかったわけ。だからさ、仕方なくうちのビーが率先して氷牙竜の体内に・・」
「保安官!!あいつが目を覚ましたぞ!!」
なんてこの子はボワンドラちゃんと同じ「フローズンカレッジ」に通う現役大学生のボワンセン君。ボワンドラちゃんと一緒に大陸言語学を学んでいるので彼女同様、あたち達の言葉を喋ることができるって寸法。
「なに?ボワンセン君。今、ボワンドラちゃんと大事な女子会中なんですけど」
と鼻をポリポリかきながら答えるあたちに向かってボワンセン君
「職務怠慢。俺がセリエナ導き協会に訴えるのが先か、あんたがあの滅尽龍に尋問するのが先か、どっちが早いかな?」
なんて脅迫かましてくるので、仕方なく現場に戻ることに。
「ううう・・・」
右から突き刺さったままうなだれている滅尽龍に事情聴取。
「ずいぶん派手にすっ飛んできたわね。ミスター、名前は?出身地は?龍結晶?」
「思い出せない・・・」
「はぁ?」
「思い出せないんだ・・何もかも・・どうして俺がここにいるのかも・・・」
やれやれ顔をしてみせるあたちに向かってボワンセン君が冷静に
「悉く正体不明な隕石の正体は、悉く迷惑な記憶喪失の滅尽龍だったってわけか。ふぅ~~。先が思いやられるぜ」
ですって。
~再び休憩エリア....
「あきらめかけてたその時だったの!!体液でベチョベチョになったビーがもっとべっちょりしたボワコフさんの肩を支えながら氷牙竜の口から出てきてこう言ったの、「こいつの胃の中にいたら、食事制限をしようと思ったぜ」だって!!超ウケるってあたちがボワコフさんの体をファンゴの毛皮で拭いていたら、飛毒竜のドラッグディーラー、痺れ毒麻痺蔵(しびれどく・まひぞう)が来やがってさ、「お前ら!俺の縄張りで馬鹿笑いしてんじゃねぇ!!」って、いきなりモンハラ(モンスターハラスメント=狩人を見かけるやいなや咆哮をあげ、恫喝などしてくる脅迫行為。主にモンスター全般にみられることから、近年、狩人社会で流用されるようになった。「モンハラ」という略語だと、一見、モンスターハンターによるハラスメントと受け取りがちだが、まったく定義は異なる。セリエナ流行語にもノミネートされた)かましてきやがったから、こう言ってやったの。「口うるさいあんたには免疫の装衣だけじゃなくて、高級耳栓も必要なようね!自分の毒でも吸って痺れ決め込みながらあやしげな池の水でも飲んでやがれ!!」ってね。そしたらさ、案の定、棘飛ばしてきてさ、それがボワコフさんの頭に・・」
「保安官~~!!あの滅尽龍の身元が分かったわよぉ~!!」
と、三叉チックなパープルトゲトゲ棍棒を興奮気味に振り回すボワンドラちゃん。
「教えてちょうだい」
なんて偉そうに夢見るあたち。
「本名は金剛棘雄(こんごうとげお)。出身は龍結晶よ。無類のお酒好きで、最近までセラピーに通ってたらしいの」
「でかしたな、ボワンドラ。でも、一体どこでその情報を?」
とうもろこしをかじりながらボワンセン君。
「溶岩地帯の情報屋から。ほら、ドドでガマルな岩(がん)さんっていえば有名でしょ?少し高くついたけど、確かな情報よ。あ、これ領収書ね」
「え~と、お品代は・・個人情報流出代・・・ハンコは・・ガマルのスタンプ(足の裏)がちゃんと押してあるわね。OK、これなら落とせるわ。それで?その金剛棘雄に家族は?」
「いないみたい。なんでも周りに「俺は生涯、悉く独身であることを思い知らせるのだ」って言いふらしていたらしいわ」
「誰にだろうねま、いいわ。つまりあの滅尽龍は隕石でもなければ、お空からやってきた大陸外生物でもない、ただの「飲んだくれの滅尽龍」で、酔っ払った勢いで園内に落下してきたってわけか」
「それを言うなら「悉く酔いつぶれた滅尽龍」、だろ?」
あはははははははは
「だって、それがあんたの本名。さ、思い出したら、とっとと、その危なげなでっかい角を引っこ抜いて、ここから立ち去ってちょうだい」
「いやだ」
「はぁ?」
「ここが気に入った」
「おい」
「俺は悉く独身であることを自分自身に思い知らせたいんだ。ここには・・そのすべてがある・・」
「抽象的過ぎてぜんぜん理解できない。それにあんた。記憶喪失って嘘でしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」(ほぼ肯定を示すだんまり決め込む滅尽龍)
「帰れ」
「やだ!!」
「マジで迷惑なんだよ!!でっかいあんたがここにいたら、パークにお客さんが入ってこれないじゃないの!!ただでさえ、おっかない風貌・・・・って、あんたそれを気にして・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」(ほぼ肯定を示すだんまり決め込む滅尽龍)
「確かに滅尽龍っておっかないよな。あんたかクルルのどっちかを飼えって言われたら、俺は間違いなく・・」
とボワンセン君が言いかけた途端、ボワンドラちゃんが手持ちの棍棒の先っぽで彼の口をおさえました。
「あなた、寂しかったのね?」
ちいちゃいボワンドラちゃんがその何倍もあろうかという滅尽龍の顔に寄り添いながら話しかけました。
「そうだ・・。生まれながらに禍々しい姿に生まれた俺たちは、その風貌からどこにいっても追いやられる立場にあった・・。だから俺たち滅龍亜目は・・強くなる道を選ばざるえなかったんだ・・・・って、死んだ爺ちゃんが言ってた」
「強大な力を持つ古龍種の悲しい性ってわけか・・」ぽいっ(丸坊主になったとうもろこしを園内に投げ捨てる)
「だからあんたはお酒に走ったってわけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」(ほぼ肯定を示すだんまり決め込む滅尽龍)
「狩人の間じゃ、結構、あんたのことを好きなファンや崇拝者がいるわよ?だから元気を出して・・」
「人間の雌なんて興味ないし」しっしっ(と突き刺さったまま器用に)
「こいつ・・じゃあ、滅尽龍の雌にアタックすればいいじゃない。お酒ばっかり飲んでないで。わかった。あんた、パークに恋人を探すために「突っ込んできた」のね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」(ほぼ肯定を示すだんまり決め込む滅尽龍)
「それやめろ!!都合の悪いときだけ弱者ぶるな!!」
「ダメよ、保安官。優しくしてあげて。こわいのよね、棘雄さん。ハンターや他のモンスターが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」こくり(突き刺さったままうなずく滅尽龍)
「あなたはあなたを心から理解してくれる滅尽龍の恋人を探しているだけ・・。例え風貌は刺々しくっても、あなたの心には邪な棘は一寸も刺さっていないわ。なんて、今は地面に突き刺さっているけどね」うふふふ
「・・・・・・・・・・・・・・・・」(あのおそろしい瞳に天使のようなボワンドラちゃんの姿が映っている)
「おいおい、ちょっと待った。彼女をそんな目で見るのはやめろ」
と同級生のボワンセン君。どうやらボワンドラちゃんのことが気になるみたい。
「ねぇ、保安官。どうかしら?ここはひとまず彼に頭を抜いてもらって、これからもパークに遊びに・・・そうだわ!彼をキャストとして雇うっていうのは!!」
「キャスト?それはなんだ?獣纏族の娘よ」
なんてゴッドみたいな口聞く滅尽龍にあたちが教えてやりました。
「キャストってのは、この氷雪地帯、つまりパークのことね。ここで働く者のことを言うのよ。観光客やハンターがちらかしたゴミをお掃除したり、パーク内を案内したり、引っこ抜かれた植物やキノコの場所にそれとなく気づかれないように新しいものを植えたり、定期的に採掘場所や骨塚の場所を誰が見ても分かるようにきれいに磨いて目立たせる演出を施したりするのが主なお仕事よ。あとは環境生物たちにご飯をあげたり、繁殖させたり、その個体数を維持するのも立派なお仕事ってわけ。それからあんた達モンスターは、それとなくハンターのご機嫌を伺いながら狩猟の相手をしてあげたり、やられたフリをしてあげるの。どう?寛容な仕事だと思わない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」(すんごい希望に満ちた顔とキラキラした目であたちを見ている滅尽龍)
「興味ある?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」こくり(突き刺さったままうなずく滅尽龍)
「おいおい、保安官!マジでこいつを・・」むぐっ(すぐさまボワンドラちゃんが棍棒の先っぽを彼の口の中に突っ込む)
「条件はひとつ。パーク内では絶対にお酒は飲まないこと。外でも控えるのよ?人に迷惑をかけないこと。モンハラもダメよ?」
「俺は別に迷惑をかけるためにここを目指して飛んできたわけじゃないんだ・・。確かに酔っ払って飛んできたのは悪かったが、溶岩地帯で「一人酒」をしていたら、ここの噂話が聞こえてきてな・・。とても素敵な桃源郷のような場所だというから、そのまま直行してきたというわけさ」
「噂話・・。誰から聞いたの?」
「さぁな・・。俺はそいつらに背を向けて「一人酒」をしていたからな・・。それが人間だったのかモンスターだったのかはさっぱり分からない」
「そう・・。いいわ。そんなことより、まずは頭を引っこ抜いて、氷で顔面を洗ってきなさいな。仕事の説明はその後でね」
「できればランチも・・」
「このっ」
「怒らないで保安官。あたしが特製のボワボワパンを焼いてあげる」
「ちょっと待った!俺にだって焼いてくれたことないのに!!なんだってこいつに!!」
「ヤキモチを妬いているのか?獣纏族の若者よ」ブオッホッホッホッホッ
「こいつめ~!!」がちぃ~ん(手持ちの棍棒であのでっかい頭をひっぱたくも笑顔の滅尽龍)
あはははははははは
~後日、渡りの凍て地....
「そしたらさ~今度はボワコフさんが毒状態になっちゃって、「助けてくれでアリマス」って、普段は謙虚なボワコフさんもさすがに「死にそう」だったのね。可愛そうだから解毒剤飲ませてあげたの。あ、漢方薬でも良かったんだけど、そっちは自分用でしょう?もしかしたらボワコフさんが漢方アレルギーかもしれないし。それで無事に解毒できたんだけど、今度は「自分の棍棒がないでアリマス」だって。崖から落下したときに、どっかいっちゃったのね。自家製でお気に入りの棍棒だったんだって。可愛そうなボワコフさん。だから早く見つけてあげなきゃ・・」
「これじゃない?保安官」(と雪に埋もれている三叉チックな先っぽが緑色の棍棒を見つける)
「やった♪さすがボワンドラちゃん!!これでボワコフさんも喜ぶわよ♪」ぱぁ~ん(ハイタッチかます)
「保安官!!たいへんだ~!!」
と、遠くからボワンセン君が「短いあんよ」で雪を突き抜けながら駆けてくるではありませんか。
「どうしたの?」
「あいつがまたやらかしたんだ」ハァハァ・・
棘雄さん。今度はパークの外で酔いつぶれてダウン。聞けば前日の「新人歓迎会」が嬉しくってたくさんお酒を飲んでしまったそうなのです。
「もぉ~起きて。棘雄さん」(でっかい頭を揺さぶって介抱しているボワンドラちゃん)
「俺もぐでんぐでんになるまで酒を飲んでみようかな・・。って、いいのかい?保安官」
「中立地区だから管轄外。それより気になるのは・・」
「なんだい?」
「酔っ払った棘雄さんをパークに誘導した連中よ」
「・・・パークに被害を与えるために?」
「ええ。引き続き、警戒が必要ね」
「ほら、起きて~!!」ごちぃ~~ん(今度はスタン状態になる棘雄)
「ま、頼もしいボディガードもできたし、保安官もいるわけだから、大丈夫さ」ショウンショウン!!やめてぇ~~(たまたま近くにいた獣纏族の同族が狩猟と勘違いして、毒銛などを棘雄目掛けて投げまくっている。瞬く間に毒状態になる棘雄)
「ならいいけどね。さ、パークに戻ろう。こうしている間にもあやしげな連中がパークのゲートを通過しているかも」
あはははははははは
(ボワンセン君と手を繋いでパークの通路を潜っていくUBU。その向こう側では瀕死状態の棘雄が脚を引きずりながら、やむを得ず坂(陸珊瑚側の)を下っていく。それを心配そうに追いかけていくボワンドラちゃん。今日も導きの地は平和である)
To Be Continued