ちゅんちゅん・・(回廊の低い塀の上にとまっているスズメ目のようなぷっくりとした小鳥に並んで猫のように顎を塀の上に乗せて項垂れているルチアの顔)


ルチア「ふぁ~~~~あ・・・今日も平和だな・・」


ちゅんちゅん(視線を塀の向こう側に広がるお花畑エリアに向けると、女性の修練者たちが花を摘んでいる姿が見える)


ルチア「お陰様で仕事も増えたしよ・・・みんな炭鉱夫に飽き飽きしていたからな。アーロンの代になってからは順風満帆。ジェイソンの野郎が来てからは、もっと過ごしやすくなったよ」


ちゅんちゅん(今の話に同意を示すように小鳥がルチアの顔に寄り添ってくる)


ルチア「ジェイソン・・・フランクから聞かされてたんだろ?あいつが・・独りで旅をしてみたいって思ってたこと」(塀に顎を乗せたまま、すっかり目覚めた眼で遠くを眺めている)

ジーナ「・・・・・・・・・・・・・・・」

ルチア「ほんとに変わった野郎だよな。なんにもしなくても一生楽して暮らせるのによ・・・って、その生まれ持っての環境が、あいつにとっては茹だるような火山の牢獄に閉じ込められている脅迫的な感覚しかなかったっていうんだから、楽園の姿ってのは人それぞれ見えてる形が違うのかもな・・」


ちゅんちゅん


ルチア「ベックフォードの奴には知らせてねぇよ。真の主が独りで神殿を出ていったなんて真面目なあいつが知ったら、大金はたいてでも捜索隊を出しかねないもんな。ま、ベックフォードがそれを知るのは時間の問題だとは思うけど、その間にフランクの奴が少しでもシュレイドを離れられれば、それでいいさ」


ちゅんちゅん


ルチア「ボリスの野郎もいなくなっちまうし、今度はフランクときたもんだ・・。まったく、あたしの周りの男はみんなどっかに行っちまうんだ」ふぅ~~~~


ふぁさふぁさふぁさ・・(小鳥もまた彼女のもとから飛び立っていく)


ルチア「アースラの件・・・ありがとな。ベックフォードにもそう伝えてくれ」


うっせうっせうっせ・・(倉庫側の回廊より首より上が欠けた少女の石像を運んでくる二人一組の石工が慎重な足取りで通り過ぎていく)


ルチア「ああ、あれな。フランクが王都から呼んだメイソンだってよ。あの石像を直すんだとよ。なんでもバーニーにとっちゃ大切な石像らしい」


うし・・はじめっか・・(庭園エリアの脇に石像を置き、何やら設計図を見ながら寸法を測ったリしている)


ルチア「あ、そうだ。アースラから聞いたか?明日、出産祝いをしに親子三人でジェイミーの親父さんの墓参りに行くんだってよ」


ちら・・(それを聞き終えると静かに空を見上げる視点の主)


ルチア「アースラの体もだいぶ良くなったしな。出産後なんてよ、おトキが産褥熱になるんじゃないかって大慌てよ。そんなこともあったから、神殿の連中もちゃんとした出産祝いをしてないんだよ」ふりふり(遠くで花を摘んでいる仲間に手を振る)


ちゅんちゅん(色とりどりな花畑越しに笑顔で手を振り返してくる女性修練者たち)


ルチア「だからよ、明日はみんなの仕事の時間を日中に合わせて、アースラたちが墓参りから戻ってきたら、サプライズで出産祝いをしてやろうって計画なんだ。な?くっだらねぇだろ?けどよ、そんな馬鹿げたことするのは、ここへ来てから初めてだよ。みんな・・いい意味で変わったのさ。心が若返ったのかもしれねぇな」


ちゅんちゅん・・ちゅんちゅん・・


ルチア「それと・・・」


ちゅんちゅん・・ちゅんちゅん・・


ルチア「マスターが死んじまったあの日・・・マスターの部屋で何をしてたんだ?」(視線は遠くに向けたままそれとなく聞いてくる)


ちゅんちゅん・・ちゅんちゅん・・


ルチア「と言っても、あんたは口が聞けねぇんだったな。なに・・・あんたがマスターの部屋から出てくるのを見かけちまったもんだから、つい気になってな・・・」


ちゅんちゅん・・ちゅんちゅん・・(塀の上に乗せていた顎を上げ、こちらへ顔を近づけてくるルチア)


ルチア「それともうひとつ気になること・・・・」


ちゅんちゅん・・ちゅんちゅん・・(仮面越しに近距離でルチアと見つめ合う)


ルチア「外街にはタラスクギルドっていう邪龍崇拝の教団が出入りしているってもっぱらの噂だ。ボリスの野郎はそいつらと接触して、行方不明になっちまったんじゃねぇかってのがあたしの見解だ」


ちゅんちゅん・・ちゅんちゅん・・


ルチア「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ジーナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ふぁさふぁさふぁさふぁさふぁさ(花畑の所々で佇んでいた小鳥たちが一斉に飛び立っていく)


ルチア「あんたはジェイソンの秘書兼護衛だったからな。王都の情報にも精通しているはずだ。タラスクギルドについて何か知っていたら・・・・ベックフォードを通じてでもいいから教えてくれ」にこ

ジーナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・」こくり

ルチア「あんたの素顔・・・・・いつか見せてくれよな」にこり


アースラ「あ!ここにいたんだ!」(快活な声が聞こえる方向を見ると、ムーアを抱いたアースラとアーロンが回廊に出てくるのが見える)


ルチア「今日は泊まってけよ。そんで明日のパーティーに参加してくれよ。あんたは身内みてぇなもんだからな」パチりん(計画をロザリー夫妻に聞こえないよう小声で告げた後、こちらに向かって小粋なウィンクをかましてくる)






Recollection No.1_60






凋落の果て




ガバッ!!(暗がりの客室の中、目覚めると同時にすばやく身を起こす仮面越しの一人称視点)




破滅の惨禍を




とっ(裸足のままベッドから下り、冷たい石床の上を踏む)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(暫く立ち尽くしたまま視覚を研ぎ澄まし、暗闇に同化するように視界を作り上げていく)



とっとっとっ・・・(目が慣れていくと同時にドアの方へ歩いていく)



チャッ・・・(極力音をたてずドアを開いていくと通路側の燭台が照らす灯りが隙間より溢れてくる)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(そのまま外に誰もいないか聞き耳をたてる)


スッ・・・タン・・(安全を確認すると半開きになったドアの隙間を潜り抜けるように通路へ出ると身軽にドアを閉める)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(仮面の下で目を閉じ、今度は聴覚に意識を集中させる)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・ボソボソ・・・・・・・



・・・ボソボソ・・・ボソボソ・・・(一組の男女の小声が崖側の回廊より漏れ聞こえてくる)



ブワッ!!(その方向目掛けて廊下を一気に跳躍する)


ヒョオオオオオオオオ・・・(空を切る向こう側、突き当りに回廊と交差するT字路が見えてくる)


たんっ・・(T字路の直前で降下し、石床との衝撃を全身で吸収しながら軽やかに着地する)


スッ・・・(すかさず素早く壁際に身を寄せ、回廊を覗き込む)



「ほら、見て」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(青白い木漏れ日のような空想的な月明かりに照らされたロザリー夫妻(アースラはその胸に我が子を抱いている)が星夜を見上げている)


アースラ「綺麗な満月ね・・」(うっとりしながら顔を見上げる下ではすやすやとぐっすり眠ってしまっているムーアの姿も)

アーロン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(感慨深げに月夜を見上げている)

アースラ「またフランクさんから聞いた話を思い出していたのね?」

アーロン「・・・シュレイドコンクエストの前夜・・・・当時、投獄されていた親父が旧王国に対し政変を起こした前夜また、美しい満月の晩だったという・・。親父に纏わる数少ない逸話の一つだが、それが本当なら、果たして親父は、一体どんな気持ちでこの月を見上げていたんだろうってね・・」

アースラ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(静かにムーアをあやしながら同じ月夜を見上げている)

アーロン「その後、親父が専横を振るったシュレイド王国は、たった一夜にして滅んでしまった・・・・それを証明する人々の記憶と尊い命と共に・・」

アースラ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(そっと我が子を抱きしめる)

アーロン「言い伝えでは、巨大な龍がシュレイド城を襲ったっていうけど・・・君ならその話を理解できるかい?」

アースラ「・・さぁ・・・どうかしら・・・。けど、私達が触れてはならない存在がいるのは確かよ」(ムーアの髪を優しく撫でながらその寝顔を笑顔で見下ろしている)

アーロン「だからこそだ。王国末期の大いなる竜の災厄から生き延びた親父は、その貴重な体験談を史書として残すべきだったんだ。だが、親父は事もあろうに、オクサーヌが残した数々の手記をその存在と共に燃やしてしまった・・。すべては自分が実権を握るために・・・暴君は何処へ行こうとも、どんな誠意を受けようとも変わりない醜い存在なんだ」

アースラ「私はそうは思わないわ。お父様はきっと何か理由があってそうしたんだと思う」

アーロン「オクサーヌ自らが、その数奇な体験談を綴った手記をギルドに見せない為・・・・考えすぎたよ、アースラ。やっぱり、俺は明日の墓参りには・・」

スッ・・(パートナーの口をそっと人差し指で塞ぐアースラ)

アースラ「今宵の晩餐は明日のために」

アーロン「??」

アースラ「私達がここで出逢い、こうしてこの子を授かることができたのもまた、お父様があなたのことを思って、この白雪神殿を下界の目から守り抜いてきたからなのよ?そして今、この神殿はあなたのおかげで昔のように崇高な形を取り戻しつつある・・・私はそう思っているわ」にこ

アーロン「・・だがオクサーヌは・・・・」

アースラ「きっと見つかるわよ。そして必ず分かってくれるはず。それをするのが、あなたの・・・いえ、神殿にいる私達全員の使命なのかも」

アーロン「・・・・・・・・・・・・・。アースラ。実はオクサーヌの捜索と一緒に、もう一人、探してもらっている人がいるんだ」


ジーナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


アースラ「どなた?」

アーロン「ジーナさんといってね・・山賊時代から付き合いのあった行商人の女性だ。って、別に何があったっていうわけじゃないぞ!?その・・一方的に俺が・・」

アースラ「あははははは。初恋の人なのね?」

アーロン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(顔を赤らめながら気まずそうに俯いている)

アースラ「でもどうして?」

アーロン「彼女ともまた、歌劇事件以来、会っていないんだ・・。無事なのかどうか・・・」

アースラ「そうだったの・・・・」(アーロンを慰めるように肩を抱き寄せる)

アーロン「俺には親父が犯した大罪を償う義務がある・・。そうでなければ・・ムーアにとって誇らしい父親であるためにも・・・・」

アースラ「だったら尚更、お父様のところに行かなきゃ。思いを伝えるの。お父様にも。そして自分の決意を揺るぎないものにするのよ」

アーロン「・・・・・・そうだな。いつまでも親父から・・・運命から逃げていては駄目だもんな。少しはフランクを見習わないと・・か・・」フフ・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(蒼白な満月の灯火に照らされながら愛を確かめ合う二人)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(その光景から視点の主が目を逸らそうとした瞬間、口づけを交わす二人の下から蒼眼の赤子がこちらを見つめている)


ジーナ「!!」



クラッ・・・(たじろぎながら壁際に身を寄せる)



ジーナ「あの子は・・・・まさか・・・・」ハァ・・ハァ・・・・(廊下の天井を見上げながら息を切らせている)



復活者から生まれし 聖変を遂げた龍使徒でも?



ジーナ「いえ・・・・そのようなことは決して・・・・」ハァ・・ハァ・・・・



ロザリー家との契約はその血筋が受け継がれる限り有効とする



ジーナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・」ハァ・・ハァ・・・・(悶ながら小さく頷く)



滅ぼせ この神殿を照らす希望の光をすべて闇に変えるのだ





スッ・・(視点の主が左手で顔を覆う)




ドウン・・・・(通信を切るように視界全体が漆黒の闇となってブラックアウトしていく...)




To Be Continued







★次回ストーリーモードは9/2(月)0時更新予定です★