ジーナ「噂・・?」

ジェイソン「ああ。前回君には彼女・・アースラ・ベアトリクス・ウルバンに関する資料を集めてみると言ったが、借用書以外、彼女に関する資料は何も出てこなかったんだ」

ジーナ「確か彼女はご両親の借金を抱えているとか」

ジェイソン「流石、情報通だね。しかし正確に言えば、両親ではなく「母方の」ということになる。これは彼女の借用書に記載されていた事実だ。つまり彼女は母上の負債を相続したのさ」

ジーナ「・・そこに何か問題が?」

ジェイソン「気になってね・・彼女の母、ウルスラ・ベアトリクスの借用書も調べてみたんだ。すると彼女の母上もまた、先代の負債を引き継いでいたんだ。となれば、今度は彼女の祖父母の借用書を見なければならなくなったというわけさ」

ジーナ「大変だったのでは?」(と実際に作業をしたであろうベックフォードに向かって問いかける。それに対し「いえ」的な感じで首を軽く振ってみせるベックフォード)

ジェイソン「三親等までの借用書はまとめて保存していたから、簡単に探すことが出来たんだが、なんと驚くことにアースラの負債はベアトリクス家の曾祖まで遡り、更にはその前から引き継がれていることが分かったんだ」

ジーナ「一族がそれほど多額の負債を?」

ジェイソン「ああ。僕も金額を見て驚いたよ。とても個人で借用する額じゃなかったんだ。しかも途中でまた負債が増えている「代」もあったくらいだ。借用理由に関しては流石に債務者のプライベートにあたるから記載はされていなかったんだが、一番最初に負債をした人物の負債額から推測すると、まるで一軍でも興せるくらいの額であったことが判明した」

ジーナ「・・・・・・・・・・・・」(考え込むように目線を少し下げる)

ジェイソン「これでなぜ彼女のミドルネームにベアトリクス家の名を残していたかはっきりした。彼女の母上は、父親であるテオドール・ウルバンと結婚して姓が変わったんだが、ベアトリクス家の名を残す為、アースラにその名を負債と共に託したのさ。これはまた、歴代のベアトリクス家の借用書に記載されている債務者の名前を見ても同じであることが分かった」

ジーナ「ベアトリクス家が代々抱える負債の理由・・・確かに気にはなりますね」

ジェイソン「だろ?だから今度はアカデミーの書庫を拝見して、ベアトリクス家に関する資料を探してみることにしたんだが・・・」ちら(それとなくベックフォードの方を見る)

ベックフォード「申し訳ございません。何分、写本の数が多い故、現時点ではまだベアトリクス家の名前はひとつも探し出せていません」

ジェイソン「ときたもんだ。アカデミーには王都に関する史書もたくさん保管してあるはずなんだが、そこにもベアトリクスの名前はなかったらしい。だが、一番最初にウー家から借用した時期を顧みると、ここ(王都)に住んでいたことは確かだと思う。その頃はまだ、ウー家も地盤固めの時期で、ヴェルドを中心に商いを行っていたからだ。少なくとも、最初に借用した人物がシュレイド地方にいた可能性は高い」

ジーナ「多額の借り入れをしていた人物ならば、言われるようにシュレイドの史書に名前が残っていてもおかしくはないはず・・・となれば、ベアトリクス家はどこか他の地に流れていた可能性も否めない・・と?」

ジェイソン「そこで思い出すのが、彼女の「耳」さ」

ジーナ「・・外見から察するに、アースラは竜人の血を受け継いでいる・・・・ベアトリクス家が竜人の血統であるのならば、竜人狩りによってシュレイドを離れていた・・或いは何処かで身を隠していた時期があってもおかしくはない・・・・彼女のご両親のどちらが?」

ジェイソン「それを探らせてみたんだが、王都はおろか、外街でも彼女の両親に関する情報は得られなかったんだ。父親が竜人なのか・・母方、ベアトリクス家が竜人の血を受け継ぐ一族なのか・・・ヴェルドを出てこの広い大陸全土で一個人に関する情報を集めるのはとても大変な作業だ。ベックフォード、いっそ、書士隊でも雇ってみるか?」(その冗談に対し、真面目に見積もりをしだす純真な若き従者)

ジーナ「彼女に関する噂というのは?」

ジェイソン「ああ。彼女の両親に関する噂がないということは、ご両親はここに来ていない可能性も意味する。だからアースラ、彼女に関することをここに来る道中、街人に聞いてみたんだ。そこで非常に興味深い話を聞けたというわけさ」えっへん(どうせそれもベックフォードらにやらせていたくせして、ふんぞり返ってみせている)

ジーナ「興味がありますわ。どんな噂で?」

ジェイソン「この四番街でアースラ・・・彼女は幼少期、その長い名前から、「UBU(ウブ)」という略称で親しまれていたようでね、彼女を知っている人間は意外と多かったんだ。なんでも彼女は赤ん坊の頃、この四番街で捨てられていたらしい」

ジーナ「彼女のご両親は亡くなったと・・・それに関係が?」

ジェイソン「アースラの両親は、まだ彼女が物心つかない頃、モンスター被害によって他界したんじゃないかというのが専らの噂だ。偶然その「現場」を通りかかった行きずりの行商人やハンターが、そこに取り残されていた哀れな赤子を見かねて、一番近い外街に連れてきたんじゃないかってね・・。問題は彼女を外街まで連れてきた人物が、何故迷わず、見ず知らずの赤ん坊をヴェルドまで連れてきたのかということなんだが・・・そのヒントが彼女の借用書に残されている。ベックフォード」はい(と懐から丸められた書類を取り出す若き従者)

ベックフォード「こちらを」スッ・・(木テーブルの上に書類をこちら側に向けて広げてみせる)


・・・・・・・・・・・・・・・・・
(広げられた書面には所々に血痕が滲んでおり、乱雑な筆運びで各所に「赤い字」でサインが記され、その上に血判が押されている。また、借用金には100万Zと記されている)


ジーナ「確かに個人で返済するには、まだまだ時間が掛かりそうな額ですが・・・それにしても凄惨な血判状ですね。この血がご両親のものであると?」

ジェイソン「おそらく彼女の母上は、ある程度まとまった金を用意してヴェルドに向かっていたんじゃないのかな?だとすれば、彼女たちを襲ったのはモンスターではなく・・」

ジーナ「盗賊。大陸ではよくある話です。では、この借用書はその時に・・」

ジェイソン「事故に見せかけて負債を逃れることはできない。例え債務者がどんな事故で死亡しようとも、血筋を探しあて、返済させるのが僕らの仕事でもある。いずれ大きくなったアースラの存在を僕らが嗅ぎつけるのは時間の問題だし、また、その裏切り行為を僕らがどう処理するかも長年に渡り、負債を引きずってきたベアトリクス家なら十分に理解はしているはずだ。だからこそ、彼女の母上は僕らに対する誠意を見せるため、息を引き取る前に、予め用意していた「相続用」の借用書にサインをした・・・その命と赤子の未来を犠牲にしてね」

ジーナ「・・・・・・・。裏を返せば、負債を引き継いだベアトリクス家の人間はそこまでして借金を返すことに人生を捧げているとも解釈できます。ということは、よほど一族のルーツを探られたくないようにも思えますが・・・あなたの哲学に基づき、それが真実であるのならば、100万ゼニーの価値はすでに果たされているのでは?」

ジェイソン「フッ・・僕の邪推を信じるつもりかい?」

ジーナ「あなたの仮説に基づけば、秘密を握っているのは、彼女の両親を襲った盗賊、そして彼女をヴェルドまで連れてきた人物にあります。この2つの内、盗賊に関して言えば、あなたにも心当たりがあるはず」

ジェイソン「・・・・・・デーモン・ロザリーが身を寄せいたヒンメルンの山賊・・・当時、ヴェルド周辺を狙っていたのは彼らしかいない・・・ベックフォード!すぐに王都の警備隊に頼んで、過去の事件簿を調べてくれ!」ハッ!(と直ぐ様、振り向き、衛兵が側面に並ぶ小道を突っ走っていく)

ジーナ「それで真相を突き止めることができるとは言えませんが、ベアトリクス家が抱えている借金を減額できる可能性は大きくなるはず・・どうですか?」

ジェイソン「アースラの母上が用意していた金が、デーモンを匿っていた山賊が盗んだのだとすれば、その金はデーモンの手によって、とっくにウー家の金庫に戻ってきている。君の言うように、あくまでも推測だがね・・」

クスッ・・(視点の主が笑みを漏らしたようだ)

ジェイソン「??」

ジーナ「やはりあなたは、ウー家の人間にあって、ウー家の人間に非ず。心の何処かで非情でいなければいけないと、わざと残忍酷薄な道を選択することによって、さもウー家の当主であるよう自分を常に追い込んでいるのです。家柄に関係なく、あなた個人だけで独断できるのならば、おおよその負債者が抱えている借金など帳消しにしてもいいと思っているはず。その善意の表れが、今の白雪神殿なのです」

ジェイソン「・・・・・・今の言葉・・昔、ヴィリエにも同じことを言われたよ」


とっとっとっとっとっ・・・クゥ~~~ン・・(店側の方から黒毛のシェパードがとぼとぼ歩いてきて、ジェイソンの足元で丸くなって寝てしまう)


ジーナ「ほら。彼もまた、そう思っているみたいですよ」フフ・・

ジェイソン「・・・・・・・・・・・・・・・・」

ジーナ「話は戻りますが、捨てられたアースラには育ての親がいるはず。そこからも何か話を聞けるかもしれません」

ジェイソン「・・・そのことなんだが、話によればアースラは・・・」


とっとっとっとっとっとっ・・(タイミングを見計らったかのように、メラルーのマスターがおもむろに歩いてくる)


ジェイソン「??」

メラルーのマスター「アースラ・・UBUは気立ての良い子じゃったニャ・・」ぽんぽん(遠くを見上げながら腰を叩いている。また独り言のように呟く声量はいつものような吃音はなく、声もまた澄んで聞こえる)

ジーナ「・・・彼女をご存知で?」

メラルーのマスター「もうずいぶんも前のことじゃニャ。ある日の朝、赤ん坊の鳴き声で目覚めたんじゃニャ。慌てて店の外へ行ってみると、それそれは元気な人間の赤ちゃんが白い羽衣にくるまれて泣いておったんじゃニャ。そう・・・その紙切れと一緒にニャ」(昔話を語る翁がそれとなく机上の借用書を見下ろす)

ジーナ「白い羽衣・・・では、あなたがアースラの・・・」

メラルーのマスター「料理の仕方を教えてやっただけじゃニャ」にこり

ジェイソン「街の人間に聞いた話だと、彼女はここでメイドして働いていたそうなんだ。おそらく、君とちょうど入れ替えにね」

ジーナ「彼女が作るグラッチェリーパイも評判が良い理由が納得できました。それでは彼女がヒンメルンに行くことも?」

メラルーのマスター「ワシにはそれを止める財力がなかったんだニャ・・。そしてまた、UBUもそれを拒んだんじゃニャ。親の借金を返すのは自分の使命だと・・・やがてお前さんの従者が来て、UBUを連れて行った。その時、何もしてやれんワシは、UBUが今までここで働いていた分の賃金をその従者に渡したんだニャ。気持ち程度の返済にしかニャらなかったが、それでもアースラは涙を流してくれてのぉ・・・・ありがとう・・本当に今までありがとう・・ってニャ・・・・」(枯れ果てたしょぼしょぼの目が次第に潤っていく)

ジェイソン「・・・・・だから外界には出たくなかったんだ。どうせ悪者は金を貸した人間なんだ。借りた奴じゃなくてな・・!!」(背けるように顔を俯かせる)

メラルーのマスター「少なくともUBUはお前さんを微塵も恨んでニャかったぞ。借金は、顔も知らない両親が自分に与えてくれた目標・・つまりクエストだと言って、ここで働けることを楽しみながら生きていたニャ。お前さんも汗をかいて働いてみぃ。そうすれば、UBUの心が少しは理解が出来ようてニャあ」

ジェイソン「・・・・・・・・・・・。アースラは俺に感謝していると言っていた・・。人からあんなにお礼されるのは初めてだったよ」(この男が何故彼女に惹かれたのか、それは彼女が持つ天衣無縫な人間力に憧憬を抱いたからなのだろう。視点の主もまた同じ考察であるに違いない)






Recollection No.1_36






メラルーのマスター「UBUは真の天使じゃニャ。その証拠に、彼女は小さい頃からこんなことをよく言うておったんじゃニャ」

ジェイソン「??」

メラルーのマスター「『あたちは両親と一緒に殺されたはずだったの。けど、空から白龍が舞い降りてきて、あたちだけ助けてくれた』・・とニャ」

ジーナ「!!」


To Be Continued







★次回ストーリーモードは6/10(月)0時更新予定です★