・・・・・・・・・・・・・・・
(仰向けのまま、鼻先が「天井」につかんばかりの超密閉空間の真っ暗闇の中、細心の注意を払いながら息を殺すようにゆっくりとした呼吸を始め、聴覚を研ぎ澄ましていく)
キィ・・・・・・(慎重にドアが開かれる音が「少し長め」に聞こえてくる。考えられる理由としては、開けている者が「中に誰かいないか確認している」ということだろう)
スススス・・・ファッ(極力音を立てないように右腕を慎重に動かし、白装束の長い袖で口元を覆う。おそらく「本棚内」の腐敗臭によって「余計な咳」などを引き起こさせない為だろう。そしてまたその行動は、外にいる者が中に入ってくる前に行う方がより効果的であるからだ)
コソコソ・・(ドアの外から男性の低い声が聞こえてくる。ということは一人ではないのだろう)
・・・・・・・・タン・・(室内に人が入ってくる気配を感じた後、静かにドアが閉められる音が微かに聞こえる)
「ふぅ~~~~~~。自分の神殿でなんでこんなに気を遣わなきゃいけないんだか」(聞き覚えのある男の声は、以前より時の経過分、少しだけ大人びているものの、間違いなくアーロン・ロザリー本人のものと思われる)
「ふふふ。盟主様になったんだから、目立つ行動は控えないとね」(返事をする快活な女性の声・・・確かアースラといったか)
「どうせみんな、俺たちのことは知っているはずさ。今更隠す必要もないけど・・風紀は乱したくない」(口調、音調は青年期と何も変わっておらず、自信の欠落をわざと尊大に振る舞うことで自分に誇りを持たせるといった振る舞いもまた容易に想像がつく)
「そうそう。ここだってもっとちゃんとお掃除すれば居心地が良い場所になるわよ。まずは灯りが欲しいかな・・」(暗いはずの部屋で何事もなく話していることから、どちらかが(おそらくアースラが)手燭などを持ってきていることが推測できる)
「元大工のメンバーでもいればいいんだけどな・・いっそ王都の職人でも呼んで、一気にリフォームしちまうか」(部屋の中を見渡しているのであろう)
「床や壁に絵でも書いてもらったら?ほら、ジェファソンさん。あのひと、アートに興味があるみたいだからやってくれるかも♪」
・・・・・・・・・・・・・・・(ジェファソンは先程自分が殺してしまったが・・と視点の主の心の声が聞こえてくる・・)
「そうだな。どうせならここをみんなで使えるレクリエーションルームにしてもいいかもな。親睦も深められるしね」
「それ、とってもいいアイデア♪ルチアにも相談してみるよ。いつも退屈だって、うるさいんだもの」
「今の神殿は、まるで監獄みたいだもんな・・」
「・・・昔は違ったんでしょ?」
「ああ。前にも話したが、俺が若い頃にいた神殿は・・白の同盟は、志の高い狩猟集団を目指していたんだ」
「オクサーヌ・ヴァレノフ・・・。メサイアの妖精伝承は聞いたことがあるけど・・・そんなすごい人がこの神殿を作り上げたなんて、未だに信じられないよ」
「すべては親父の責任だ。親父がオクサーヌを追放しなければ、今頃は・・」
「・・お父様はどうして?」
「金のためさ。お尋ね者扱いを受けていたオクサーヌの居場所をギルドに売って、神殿を襲わせたんだ。当時、同盟に所属していたメンバーもまた、その騒動に巻き込まれ・・みんな帰らぬ人になってしまった・・・」
「・・確か、歌劇を行った日だったのよね?」
「ああ。あの頃の神殿内もまた、違った意味で退屈だったんだよ。各々が胸に抱く大望に向かって修行に明け暮れる毎日・・・だから歌劇を開催したんだが・・・今思えば、それを提案した親父は、最初から劇中のオクサーヌをギルドの傭兵達に襲わせるつもりだったんだ・・!俺がもっとしっかりしていれば・・・・クソッ!!」
「あなたは何も悪くないわ。だって何も知らなかったんだから・・・・あなたの本当の素性もまた・・」
「俺がシュレイド王国を滅亡に追い込んだ暴君の血筋だったなんて・・・親父の野郎・・死に間際に突然、そんなことを告白しやがった・・。ウー家を経由してオクサーヌの居場所をハンターズギルドに知らせたのもまた、すべてはロザリー家の存亡を守る為、やむを得なかったと・・・ふざけるな!!例えそれが本心だったとしても、俺がオクサーヌを裏切ったことに変わりはないんだ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・
(沈黙が続く。おそらくアースラがアーロンを慰めているのであろう)
「お父様は他に何か言っていた?」
「ああ・・。俺の代になったら同盟を再建させろだとさ。すべてはきたる災厄に備えるためだとぬかしてやがったが、そんなの嘘に決まっている。なぜならあの男はオクサーヌが作った白の同盟を乗っ取り、ウー家の庇護を受けながらギルド公認の隠遁生活を送ることが目的だったからさ」
「きたる災厄・・・・」
「作り話だよ。自分の悪行を正当化させるためのね」
「でもお父様が本当にシュレイド王だったのなら、王国を破滅に導いたという大いなる竜の災厄の再来に備えるため・・」
「それでもオクサーヌを裏切る必要なんてなかったんだ!!歌劇事件の後、俺は何度も親父に同じ質問をしたが、その度にすべては俺の為だとしか答えなかった・・・その挙げ句、俺は長い間、牢屋に閉じ込められたんだぞ!?災厄に備えるためだったのならば、それこそオクサーヌに真実を話して共に戦うべきだったんだ!!」
「それができなかったのかもしれない・・。だってお父様は・・」
「デーモン・ロザリーといえば、竜人狩りを行なった狂王として有名だもんな・・・だからさ。自分の居場所をリークされる前にオクサーヌを売ったんだよ。すべては自分の地位と名誉を取り戻すためにね」
「本当にそれだけが理由かしら・・・」
「どういう意味だい?」
「お父様もまた、人に知られてはいけない立場だったわけでしょ?だとすれば、本当にあなたの未来を思って・・・」
「・・・・・・・・・・・・。それでもオクサーヌには相談するべきだった。俺もまた、彼女を裏切ったことには変わりない。オクサーヌが生きているのならば、きっと俺を親父同様、深く憎んでいるはずだ・・・」
「だからあなたを外の世界に出さないため、牢屋に閉じ込めて守っていたんじゃ・・」
「あの男を正当化するのはやめてくれ!!俺は親父に利用されただけだ!!俺が生まれた場所だと思いこんでいた、家族同然だった山賊の仲間だって、親父に裏切られたに違いない・・・国が破滅した後、赤ん坊だった俺を利用して、山賊たちの同情を買ったのさ。その後、俺をオクサーヌに接近させ、彼女の気を自分の過去から逸らさせることにも成功した・・。用済みになったあとは牢屋に入れられ、まるで囚人扱いの生活だった・・。決まった時間の食事に、訳ありの元ハンターやモンスターと決闘をさせられたり、まるで剣闘士さ。自分に向けられる怒りを闘わせることで発散させようとしたのさ。その証拠に俺は親父を倒すこともできなかった・・・とんだ腰抜け野郎だよ・・」
「なにか強い因果から逃れるためにそうせざる得なかったのかもしれない・・。どちらにしても、あなたの人生はまだこうして残っているのよ?牢屋に閉じ込めたのだって、あなたが軟弱にならないように仕向けただけなのかもしれない。戦いの日々だって、あなたを鍛えるためだったのよ。そのおかげで久々の狩猟だって、こなせているわけじゃない?お父様の理由はどうあれ、今あなたが、お金に困ることなく自由に過ごせたり、ギルドの監視に引っかかることなく好きに狩猟が出来ているのは、あなたがこの神殿の主だからなのよ?」
「・・・・白の同盟の三代目か・・。と言っても、今、神殿にいる人間はオクサーヌの存在すら知らない・・。腐敗しきった今の白雪神殿は、名ばかりの狩猟団体が募る、ただの隔離施設さ。君のようにウー家から多額の利息を強いられた人間に強制労働をさせるためのね・・」
「それでも私は感謝しているわ。だってここに来なければ、もっと過酷なことをさせられていたに違いないもの。ここで私は同じ苦しみを味わっている人たちと同じ目標を持って働くことが出来ているし、同じ悩みを分かち合うことだって出来る。それにルチア達とも友達になることができた。そしてバーニー・・・あなたにも。例えあなたがアーロン・ロザリーだったとしても、私は構わない。私はありのままのあなたが好き。だから私はジェイソン・ウーにも、そしてあなたのお父様・・デーモン・ロザリーにも感謝しているの」
「アースラ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(愛を確かめ合っているのだろう。視点の主は暗闇の中でそっと目を逸らし、左手の隙間から漏れる光蟲の灯りをただ見つめて過ごす)
「ねぇ、バーニー。あなたがロザリー家の唯一の末裔なら、お母様はどんな人だったのかしら?気にならない?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(視点の主がその言葉に反応を示すように左手を握りしめ、光が漏れないようにする)
「うーーん・・・親父からは、母さんは俺が生まれる前に死んだとしか聞かされていなかったからな・・・育ての親はたくさんいたいし、あまり本当の母親のことは考えないようにしていたんだ。だからといって興味がないわけでもない。でも、知る術がないのも事実だ。なぜなら旧シュレイド王国に関する史書をはじめ、ロザリー家に関する資料はみんな災厄の時に消滅してしまったというからね。どうすることもできないよ」
「むぅ・・・そうだ!お父様はウー家と繋がりがあったわけでしょ?だったらウー家の屋敷に行けば、何か分かるかも」
「その目・・・君が何かを企んでいる時はすぐに分かる。オクサーヌもよくそんな目をしていたっけ」
「それすっごい光栄♪ねぇ、今度、ボリスさんが王都に降りる時、私達も一緒に行ってみない?あなたもジェイソン・ウーには会ったことないんでしょ?私もお金を借りている張本人の顔を見てみたいし」ねぇねぇ。ねぇってば(すごい細則しているらしい)
「君は本当に強いな。亡くなったご両親が抱えていた、君に何の罪もない借金を背負わせている男に会ってみたいっていうのかい?」
ブンブン!!(食い気味に頭を縦に振るアースラの首の音が聞こえる)
「うーーん・・・確かに自分の素性は知りたい。でもジェイソン・ウーという男はとても用心深いことで有名らしい。突然訪れて、そう簡単に屋敷に入れてくれるかなぁ・・」
「自信持ちなさいな。あなたはあのウー家とも繋がりのあるバーニー・ブラントにして、旧シュレイド王国の正当な末裔なのかもしれないのよ?そのことだって、ジェイソン・ウーに会えば、あなたのお父様が本当のデーモン・ロザリーだったかどうかも分かると思うの」
「・・・・・・・君、ほんとにオクサーヌに似てるかも」
「んふふふふふ」
「分かったよ。ボリスに次、いつ行くのか聞いてみよう」
「ひょ~ひょひょ!!それじゃ決まりね♪」
「その笑い方も・・やめた方がいいと・・」ぺぇ~ん(頬を軽くひっぱたかれたようなウィップラッシュ音が聞こえる)
Recollection No.1_28
「アースラ!?いるんだろ!?」(ドアの向こう側よりルチアのけたたましい声が貫いてくる)
「そうだ。これを機にルチア達とも仲良くなったら?今宵の晩餐は明日のためにってね♪ルチア!今、行く~!!」(ドアを開けて返答しているようだ。それに対し「おう。やっぱりそこにいたか」と答えているルチアの遠い声)
「明日のため・・・か」
「そう。みんなで笑いあえる夜があるからこそ、次の日も元気に働けるのよ。ここの環境にぴったりの言葉じゃない?」
「・・・採用しよう」
・・・・・・・・・・・・・・・
(再度、愛を確かめ合っているのだろう。短い静寂が書庫エリアを包む)
「君の蒼い髪・・とても綺麗だ。もっと見せて・・」
「駄目よ。ルチアが戻ってくるかもしれないでしょ?」
「頭巾を外した君の顔を久しく見てないなぁ・・」ぐすんぐすん
「念には念を。あなたの境遇と同じ。でしょ?」
「ふぅ~~~。分かったよ・・・っと、そうだ。この本棚、どうするかな・・・ルチアの言うように、ボリスに手伝ってもらうか。あいつ、あんな顔してるけど、根は良さそうな奴みたいだしな。物資調達の時にみんなの欲しいものをリストにまとめているだろう?だからそれだけみんなのことをよく知っているんだ。俺が牢獄生活を送っているときも、牢屋まで来てくれて、俺の欲しかった本を調達してきてくれたこともある」
「恋愛小説でしょ?コテコテの」んふふふふ
「いいの。それを牢獄内で読むのが若い頃からの趣味なのさ(へんなのぉ~、とアースラ)。それじゃあ今宵の晩餐のために食堂に向かおうか」ひょっひょ~♪(と二人で言ってる)
ガチャ・・
・・・・・・・ルチア~!!おりゃあああ!!ずんがっ・・いてぇな!!なんだよ急に!!
(と、ドアの向こうの廊下より、おそらくは上機嫌なアースラがルチアにドロップキックでも食らわしたのだろう、「鋭い蹴り音」の直後、当然の如く、その暴挙に激怒したルチアの怒号がこちらにも反響して聞こえてくる...)
To Be Continued

★次回ストーリーモードは5/13(月)0時更新予定です★