紅焔の明かりに照らされながら走りゆく私とロロ。


見晴らしのいい回廊から、手塩にかけて育ててきた自慢の庭園エリアが、邪鬼漂う紅蓮の猛炎によって美しい花畑ごと無惨に焼かれていくのが視界に映る。


横目にその酸鼻な光景を顧みると禍々しく燃え盛る火炎地獄の奥から、様々な異形を象る狩猟武器を携えた悪魔の横列が朧気に揺らめきながらこちらに向かってゆっくりと忍び寄ってくるのが確認できた。


次々と回廊の奥、側面から我々を仕留めようと襲いかかってくるギルドナイトを私はミラアンセスライドで叩き潰しながら、ロロは勝利と栄光の勇弓で正確無比に対象の眉間を射ってはいなしていく。


「庭園からの退路は絶たれました!!裏口より脱出を!!」


視界を塞いでくる火の粉を弓で払い除けながらロロが伝えてきた。


私の目の前に炎焔と燃え上がる花びらがひらひらと舞い降りてくる。


「落陽草の花・・・」


私はそれを手のひらに乗せると改めて今の時刻が夜であることを悟る。


鬼火のように燃える花びらを優しく握りしめ、許しを請うように鎮火させる。


「恨んでるよね。ごめんね、私のせいで。せっかく咲いたのに」


こうなってしまったのはすべて私の過失によるものだ。


そしてあの親子を受け入れてしまった私の甘さもまた・・・


私は気持ちを切り替え、ロロに問いかける。


「伝令から何を受けたの?」


「書庫で火災が起きたと聞き、それを確認しにいった直後、襲撃を受けました。その前に外へ出た時は奴らの気配すら感じなかったのですが・・」

「ちょっと待って。その前って、三章以外にも外へ出てたの?」

「ええ。二章の途中でした。誰かが外へ出たようだったので・・・最初は見に行くつもりは無かったのですが、どうも気になり、遅れて回廊へ出てみると黒衣を纏った女性が月夜を見上げていました」

「・・・私も焼きが回ったようね。演技に夢中になって、観客席を気に掛けるのが遅すぎたわ。それで?女と何か話した?」

「こちらから声を掛ける前に、気分が悪くなったから外に出たと・・。特別、怪しい様子も無かったので、共に舞台へ戻ったのですが・・・まさか出火の原因はあの女が?」

「ジェイミー・ブラント。黒衣の女は彼の逃亡を手引きしていた」

「なんと・・・」


さすがのロロも虚を突かれたのだろう。言葉に詰まるのも無理はない。


「二人の姿を見た?」

「いえ。捕えますか?」

「この状況では無理。ジェイミー・ブラントは虎視眈々とこの機会を伺っていたようね。まんまとしてやられたわ」

「では、ギルドナイトに神殿の場所を密告したのも・・」

「それだけじゃないわ。ジェイミーの正体はかのシュレイドの暴君、デーモン・ロザリーだったみたい」

「!!」

「舞台裏で黒衣の女がそう呼ぶのを聞いた。あの女は逃げるために、わざと彼の名前を呼んで私の気を引いてみせたのよ。本当にムカつく連中・・!」

「・・・・・クソッ!!二人揃って殺せる機会は何回もあったというのに!!」


普段は感情をあまりあらわにしないロロもこの時ばかりは屈辱と自責の念から汚い言葉を吐いた。


「ギルドナイツの傍若無人な振る舞いを許してしまったのは私の責任。あなた達のせいじゃない」


ロロを慰めながら見つめる私の白銀の髪に火の粉が燃え移ろうとしてきたが、一瞬のうちに凍りついて砕け散る。


この時、私の心は極寒のアクラの如く凍りついていたのだろう。


ロロがその光景に怖じけているのを感じながら生存者の確認を聞いてみる。


「生き残っているのは?」

「我々二人だけです。裏切り者の二名を除けば」


ロロはバーニーも含めたブラント親子を怨敵と認識したようだ。また、その力強い返答からは、報復と反撃を責務とする彼の実直なる義侠心も感じることが出来た。


同志諸君のほとんどはステージエリアにいたのだ。そして警備にあたっていた同志もまたナイトの手によって・・。


舞台裏でデーモン・ロザリーに口を封じられていたバーニーは、あの時、何を必死に叫ぼうとしていたのか。


言い訳?


違う。


おそらくバーニーは何も知らなかったはず・・


だとすれば、彼が私に何を伝えようとしていたのかは分かる気がする。


彼は私に逃げろと言いたかったに違いない。


そして同時に謝罪の言葉も・・・・・・


「クエストを続行するわよ。私は自分で切り抜けてみせる。だからあなたは王都を目指して」


すぐにその指示の意味を悟るロロであったが、当然の如くその提案を受け入れるわけにはいかなかった。


「この期に及んで私を気遣うおつもりですか?」

「あなたが死んだら、誰がお子さんの養育費を面倒みるわけ?私は嫌よ」

「しかし・・!!」

「盟主は私よ。歯向かえばあなたを同盟から排除するわ」

「君君たり・・臣臣たり・・・」


ロロはこの言葉に秘められた意味を瞬時に悟ると、後ろ髪を引かれる思いを押し殺しながら忠誠を誓うように右の拳を自分の心臓の上に重ねてみせた。


「必ずや生き伸びて、再びあなたを護りに参上致します。我が盟主は貴方一人だけです。オクサーヌ・ヴァレノフ」


ロロのつぶらな瞳を溢れ出る涙が潤わせていく。私だって本当は離れたくない・・。


「こうなると分かっていれば、せめて二章で気高く舞う貴方の姿をすべて見ていれば良かった・・」

「お子さんに全部話すつもりだったのにね。でも、これはこれで話としては面白くなったんじゃない?」

「・・本当に・・・貴方という人は・・・・フフ・・」


見つめ合う私とロロ。今まで二人で成し遂げてきた数々の思い出が回顧の形象となって、流れていく時間と混ざり合いながら私とロロの間を通り過ぎていく。


その崇高な時間の流れを射止めるように、二人の間を縫って雷の矢が壁を穿つ。


「いたぞ!!撃て!!」


妄りに声をあげるギルドナイト。彼らもまた必死なのだろう。ボウガンの弾丸と弓の矢による雨霰が一斉に我々に向かって放たれる。


お互いに別々の方向に向かって走り出す私とロロ。決別の時がきた。


「さようなら・・・・ロロ・・!!」


私は彼を逃がす為、一斉射撃を仕掛けてくる遠距離部隊の陣に突撃を仕掛けると、ミラアンセスライドを奏でながら周囲のナイトを薙ぎ払っていく。


「走れ!!ロロ!!逃げてぇえええええええ!!!!!」


どうか私の旋律がロロに強走効果を齎しますように・・・.


あんなに一心不乱に狩猟武器を人を殺すだけの為に振るったのは後にも先にもあの時だけだろう。


生々しい返り血に染まったミラアンセスライドを肩に担ぎ、尚も立ち向かってくる暗殺者達の頭を体を四肢を次々に叩き潰していく。


飛び交う鮮血の火花。


どれくらい殺せばいいのだろう?


殺して 夷して 劉して そして尚もまた戕す・・・・


鬼人と化した私にある未来とは・・・


追手を振り払いながら廊下の先に目をやると、書庫の方から凄まじい火の海が津波のように流れ出てくるのが見えた。


爆炎の嵐を無我夢中で突破している最中、首から上を失ったメサイアの妖精の石像が視界に飛び込む。


この時、デーモン・ロザリーが焚書を行った理由がはじめて理解できた。


あの男は私の存在を歴史から消そうとしているのだと・・


だとすれば、その理由もまたみえてくる。


かの暴君は我々が築き上げてきたこの白雪神殿(スノーテンプル)を我が物にしようとしているのだ。


その証拠に火災は起こしても破壊活動は行っていない。


デーモン・ロザリーは私の所在をギルドに教える代わりに、おそらく何かしらの取引を行ったに違いない。


デーモン・ロザリーは生来より他者に謙り、忠誠を誓い、そして仕える種の人間ではないのだ。


群れを知らない独行種の牙獣のように冷え切った無慈悲な眼光・・・


あの時、鏡に映ったジェイミー・ブラントの顔こそ、彼の本当の姿であったのだ。


「到底、世間知らずの私には啓蒙活動など無理だったか・・」


自虐的な皮肉に不思議と笑みが漏れる。


けど私には、ほかの誰にも負けないモンスターハンターとしての力がある。


神殿から飛び出た私は、執拗に追いかけてくるギルドナイトを背中で感じながらそのまま大雪に覆われた険しい山岳を登っていく。


私の背後から全身を掠めるように四大元素が込められた弾丸と飛箭が通り越しては雪の大地にそれぞれの特性をみせながら派手に着弾していく。


不思議と当たる気などしなかった。


つまり祖龍がまだ私に生きろと言っているのだ。


頂上付近に辿り着いた私は後ろを振り返り


「私は白の契約を受けし者!!私の創り上げた白の同盟はこれにて終焉を告げる!!だが忘れるな!!お前たちに殺された同志諸君の魂は私の血となり肉となり、新たな盟友となって必ず復讐を果たすだろう!!」


そう叫ぶとミラアンセスライドの怒号を奏でる。義憤の旋律に共鳴した雪山が重力に従い、爆風荒波の如く雪崩となってギルドナイト達を容赦なく飲み込んでいく。


私はその隙に頂上へ登ると、神殿とは反対側の雪山にミラアンセスライドを投げ捨て、それを板代わりに飛び乗り、一気に急滑走していった。


「前にバーニーと二人で手を繋ぎ、こうやって滑走しながら神殿に帰ったこともあったっけ・・」


ふと夜空を見上げると、その時、頭上に見えた満月から、まるで誰かに見られているのではなかろうかという不気味な視線を感じた。


滑走しながら頂上を振り返る。


いた。


案の定、相も変わらず忌まわしいフードを深々と被ったあの黒衣の女が、マゼンダの邪眼を暗闇に光らせながら私を見下ろしていた。


まるで私からバーニーを奪い去るような冷たい視線で・・・・



「さよなら。バーニー」






Recollection No.2_20






こうして私は第二の故郷を捨て、暫くの間、新大陸に姿をくらますことになる。



今回の私の回想はここまで。



どう?



しっかり見ていてくれたかしら?




バーニー・・・




いえ




アーロン・ロザリーの子・・・・





UBUこと





キャロル・ムーア・ロザリー





私達はあなたが目覚める時を心待ちにしている。





To Be Continued





★次回ストーリーモードは3/4(月)0時更新予定です★