インテンシティ溢れる剣舞を一心不乱に演じる私に負けじとアンサンブルの大合奏が観衆を本物の狩猟空間へと誘っていく中、シークエンスの移行と共に目まぐるしい速度で背景パネルも変わっていく。


バーニー達、大道具係も私と一緒になって戦っているのだ。


狩猟フィールドは北よりフラヒヤ山脈から始まり、北エルデ地方の火山地帯を経てラティオ活火山まで南下していき、海路を通じて東部のテロス密林にまで及んだ(今でこそ大陸社会の文明発展と共に地図も詳細に描かれ、それと同時に気球や飛行船の発明により、移動手段も効率化され、モンスター被害や悪天候を除けば安易に大陸全土だけでなく世界中を移動できるようになったが、それら道標の乏しい当時は広大な現大陸を端から端まで移動するのに膨大な時間と体力、そして忍耐を要したのは言うまでもない)。


なのでこの歌劇が示す「冒険譚」は、領土を出たことのない貴族達だけにあらず、ハンター出身者も多かった同志達の創造性を大いに掻き立て、そして浪漫を抱く大望を存分に奮わせた。


何よりもその演舞を行っているのがメサイアの妖精当人なのだから、見ている彼らにしてみればこれ以上にない説得力を醸し出していたのだろう(今思えば、高額なチケット代を請求してやれば良かったと後悔している)。


歌劇は思った以上の大反響であった。






Recollection No.2_16






さて、狩猟がメインであった第二章もクライマックスの壮大な楽曲とより激しさを増す舞踏を経て無事に閉幕を迎えた。


第一章のラスト以上に感極まる熱狂的な喝采が、舞台と観客席を隔てているはずのカーテンを突き破って聴こえてくる中、額の汗をドレスの袖で拭いながら下手の舞台裏へと向かう私をサムズアップで迎え入れるバーニーの顔からもまた清々しい汗が滴り落ちていた。


「どう?しっかり君についていけてただろ?」


バーニーは自慢げにそう言ったが、私自身、狩猟に無我夢中であった為、変わりゆく背景パネルに気を留める間もなかったのが正直なところではあったが、バーニー達の仕事がうまくいっていたことは、こうして観客席から聞こえてくる拍手喝采によって証明されていた。


「悪いけど次は休憩させてもらうよ。君も少しは休めるだろう?」


そう微笑みながら舞台上に残されたパネルを片付けに行くバーニー。


自分の中では今の第二章ですっかりやり切った感があったのだが、歌劇は未だ全体の半分しか終わっておらず、ヘトヘトにくたびれた私はまるで最終ラウンドを戦い抜いた拳闘士のように、用意されている椅子にぐたっと深く腰を下ろし


「気軽に言ってくれちゃって」


と、大袈裟な扇でパタパタと私を扇いでくれるヘアメイク班に向かって呟いた。


次の第三章では、向かう所敵なしとなったメサイアの妖精こと私が、トレジャーハントに目覚め、今度は冒険家として大陸全土を駆け巡りながら数多くの古代遺産を発見していく中で、ついには解読不可能と云われていたまぼろしの書を紐解き、導かれるようにその答えを求める為、独りフォンロン地方の古塔に向かっていくまでの流れをナレーションの解説と共に「サイレント」で演じていくものであった。


一見、剣舞がない分、楽に思えるのだが、個人的には派手な動作がない「自然な演技」というのが一番難しく感じていた。


大陸で有名な戯曲は図書館(ロイヤルアカデミー)を通じて(盗んで)それなりに乱読してはいたが、まさか自分が演技をすることになろうとは夢にも思っていなかったからだ。


この時、少しだけ今回の歌劇を提案してきたジェイミーを恨んだ。


ジェイミー・・・?


そうだ。すっかり舞踏に夢中になってしまって忘れていたが、ジェイミー達は見ているのだろうか?


ロロの顔は確認できたが、あの「いやらしい女商人」も何処かで見ているに違いない。


次の章は動きが少ない分、客側にも注意を払って見てみよう・・。




第三章 白龍娘、まぼろしの書を紐解く


ナレーションを決して邪魔することのない「絶妙な音量」の弦楽器と管楽器の静かな音色が、ステージエリアの空気に溶け込みながら見事なアンビエントサウンドとなって、オーディエンスの聴覚を語り手が読み上げる台詞に集中させていく・・。


そんな観衆の視線を釘付けにした舞台上で私は、ナレーションの内容に合わせ、身振り手振り、かなり誇張した所作を演じながら、すきあらば観客席に目を向けていた。


ロロは舞台から見て左端の壁際に身を寄せながら、まるで我が子の晴れ舞台を見るような「あたたかい眼差し」で深く頷きながら静観してくれている。時には「拳を握りしめたり」と、我が事のように力が入ったリアクションもしてくれていた。元来、心優しい男なのだ。


他の同志達も最前列を占拠している招待客達の後方から、こちらも「愛しい姪っ子」を応援する親族のような「ほがらかな笑顔」で見つめている。つくづく私は彼らに支えられながら生きているということを実感できた。また、そのおかげで演技に集中することもできた。


紆余曲折を経て、話しは私がまぼろしの書を解読した瞬間のシーンへと流れていく。


実はこの「解読した瞬間の顔」が歌劇全体を通して、演出家からの叱咤指摘を一番受けており、何度も練習を重ねたシーンなのだ(最初は仰々しく「はっ」って顔をすればいいだけだと思っていたのだが、演技とはそんなに甘いものではないらしく、演出家に「顔だけで表現するな!!瀕死状態になった瞬間のフルフルを思い出せ!!」とヒントを受けたことで、なんとなくコツが分かった気がした)。


その演出家はというと、上手の舞台袖からハンケチを噛み締めながら、今にも泣きだしそうな表情でこちらを心配そうに見つめている。


任せなさい。


私を誰だと思っているの?


本当にまぼろしの書を解読した張本人なのよ?


あの時のことを思い出して、それをあるがままに振り返ればいいだけのことじゃない。


見てなさい。


私が狩人やトレジャーハンターの顔だけでなく、優秀な表現者としても才能があるということを証明してみせてあげるわ!!





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(女の子座りで膝の上に広げたまぼろしの書を食い入るように見下ろしている私)






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(感慨深げに次のページを見開く私。斜め右からの顔が一番可愛い)





・・・・・・・・・・・・・・・
(小さな顎を「しょりしょり」しながら「待てよ・・」的な感じで眉間にシワをよせる私。そんな悩める顔も当たり前のように可愛い)





・・・・・・・・・・・・
(そして次の瞬間・・)






知行合一!!


私の頭に一言一句余すことなくインストールされた三編からなるまぼろしの書がリンクした!!











はっ











一世一代の大演技。




興奮したラージャンばりに目をひん剥かせ、吸い込み状態のヤマツカミばりに「歯を見せながら」口を大きく開け、さも「とんでもないことに気づいてしまった」と言わんばかりに「あわわあわわ」と生まれたてのガウシカの如く小刻みに震える私・・。




完璧だった。



本当に解読した時の私の顔もまた、こんな感じであったのだろう。たぶん。



これ見よがしに演出家の顔をちら見する。



両手でガッツポーズをしながら「イエス!イエス!!」と口パクしている。



それご覧なさい。



私は狩猟も含め、本番に強いんだからってバカ。



肝心の女商人が何処にいるのか探さないと・・。



私が「あわわあわわ」の演技を続けながらステージエリアをそっと見渡すと・・



いた。



ステージエリアの出入り口付近で慎ましく立ち見かましている例の黒衣の女が。



舞台上からだと観客席は暗く、またしても女の顔を確認することは出来なかったが、きっと今の名演技をかましている私を見て驚愕しているに違いない。


と私が勝ち誇りながら「あわわあわわ」続けていると、女商人が立っている右横に見える出入り口の扉が静かに開かれ、一人の同志がそそくさと中に入ってくるやいなや、すぐエリア内のロロを探し当て、そこに向かって早歩きで忍び寄っていった。


なにかの進捗状況を報告しにきたのだろうが・・・・なんだこの違和感は・・


私が推測を巡らせていると語り手の声が耳に入ってきた。


私は反射的にナレーションに合わせ、次の演技を始める。


思い立つようにフォンロンを目指す決心を見せる私。


ナレーションが続く中、そっと目をロロの方に向けると、既に彼の姿は無く、また従者の姿も消えていた。


すぐに出入り口を見ると、今まさに二人がエリアから出ていったことを意味するかのように半開きになった扉が閉まる瞬間であった。


私の脳裏に不安がよぎる。



なにかあったのだ。



同時に鋭い眼光で頭を下げていたジェイミーの顔が脳裏に浮かぶ・・。


私の第六感が何かを告げていた。


今思い起こしても、なぜあの時、舞台を中止にしてまでもロロ達を追わなかったのだろうか・・。後悔しかない。


そして舞台は運命の第四章へと続いていくのであった。


To Be Continued






★次回ストーリーモードは2/18(月)0時更新予定です★