色鮮やかな花畑に囲まれた庭園広場の中央に跪くブラント親子。

俯いて目を伏せる二人の前に清廉的属性を擬人化した白いドレスの少女が慎ましく歩み寄る。

バーニー・ブラントは聖女の煌めく気配を感じ、畏れ多くも顔を少しだけ上げ、誓いの言葉を捧げる・・


「白の盟主オクサーヌ・ヴァレノフ。以後、我ら親子の命は白の同盟と共にあり。汝に忠誠を誓わん」


にやり・・


正直、この誓約を受けた時、心もウケた(その後、ロロから聞いた話では、このときの私は顔がゆるゆるにニヤけていたそうな・・)。


さすがに周りの空気(正確には咳払いによる警告)を察した私は「ニヤけたくてたまらない」両頬の筋肉を正常化させるため、おもいっきし両手で顔の側方をウィップラッシュし、ちんちんに腫れ上がった真っ赤なほっぺで、さも何事もなかったかのように契りを続けた。


「白き盟友よ。かけがえのない世界を守りぬくため、その身を大陸に捧げよ」


今まで何度もこのささやかな通過儀礼は経験してきたが、この時ばかりは台詞に「私的な」気持ちが大きく働き、より「epic感」満載に振る舞ったのを覚えている(大変だったのが儀礼前の晩から櫛で髪をとかし過ぎたせいで、両手首がバカになっていたことと、お気に入りのドレスを少しでも「セクシー」に魅せようと思い「デコルテな感じ」にしようと首元を馬鹿力でおもいっきし引っ張ったが、そこはなんといっても「モノホンの祖龍素材」で作られたドレスなわけで、逆に私の手のひらが「やられていた」ことであった・・)。


無事に約諾の言葉を終え、儀礼は同志諸君の拍手喝采でフィナーレを迎えた。


自分たちを受け入れたくれた仲間に対し、律儀に頭を下げるジェイミーに対し、バーニーはこっそり私に近づいてきて


「山賊出身だろ?聖なる契りなんて初めてだったから少し緊張したよ。それと、さっきの君。本当の女神様みたいだったよ」


と、憎いらしいくらい輝く「白い歯」を光らせながら、小粋なウィンクかましてきたので私は負けじと


お~~ほほ!!お~~~ほほほほほ!!!!


と尊大傲慢高飛車に嘲笑ぶちかましてやった。


確かに聖約とはあまりにも甚だしい言葉だが、周りからみれば事実、私は祖龍と契りを交わした「大陸随一のティーン」であったので、「訳あり」を理由に募ってきた同志達からしてみれば、まさに白き女神に見えたのだろう(というわけで冒頭の比喩的表現は自分なりに自己認識した上での形容であって、あながち間違っていない・・はず?)。


だが、この特別な儀礼の中、ただ一人だけ狼顧の相を浮かべる者がいた。


ジェイミー・ブラント


このこすずるい「元姦雄」が後に惨劇を齎す・・






Recollection No.2_10






明朗快活なバーニーとは違い、父のジェイミーは歳のせいもあり、体が弱かった。


物静かな男で彼が長話をしているのを見たものは息子のバーニーも含めていなかった。


腰の曲がった低い姿勢と咳き込む動作が印象的で、それを自分でも分かっていたのか、自ら雑用を買って出てはそれら業務を「年相応のスピード」で卒なくこなし、周りの信頼を勝ち得ていった。


なので神殿内にブラント親子を迎えることを拒んでいた同志達も少しづつ警戒を解いていった。


また、そんな病弱な父親の穴を埋めるようにバーニーもまたよく働いてくれたので、ジェイミーの存在は次第に薄れていった。


これが後に、すべてこの初老の男の計算によるものだったと知った時、すでに私達は奸計の最中にあったわけなのだが、果たして息子のバーニーはどこまで父のことを知っていたのだろうか。


なんてことは結果論であり、当時十代であった私とバーニーの頭にそんな煩慮は一切なかった。


山賊出身のバーニーは、所謂「ハンター用」の得物を使ったことがなく、最初にボーンブレイドを手にした時、小躍りしながら大興奮していた(同志の中には当然、「訳あり」の凄腕ブラックスミスも所属しており、彼の指示の下、神殿内に鍛冶工房も作られていたので、素材さえ入手できれば王立武器工匠顔負けの狩猟用武具をいつでも揃えることができたのだ)。


その頃の私は机上のクエストに日夜明け暮れていたが、時間を見つけてはバーニーの形稽古を「こしょり見」しに行った。


なんでもバーニーは最初に手にした練習用の「ボロボロなボーンブレイド」をたいそう気に入ったみたいで、それを愛刀にした。


私も大剣は好きだったので彼のその選択をすんなり受け入れることができたし、また武骨な大剣がエネルギッシュな彼にはとてもよく似合っていた。


当然、彼は盗み見していた私の存在にも気づいており、様子を窺っては私に稽古の志願(挑戦)をしてきた。


なので私はその都度、あらゆる得物を手に、全力をもって彼を叩きのめした(ライトボウガンの銃床(ストック)で小突き倒したこともある)。


最初は彼も自尊心からか


「クソー!!女に負けたぁ~!!」


などと、よくある「男性優位思考」から本気で泣いていたが、地面にひれ伏すたび、つまらないプライドを捨てていくと共に私の実力を受け入れていき、次第に大剣の使い方を覚えていった(また同志の中には直接、私と稽古をしたことがない者が多かったので、「盟主直々にどつかれる」バーニーを羨ましがる者も多かったという)。


彼は当初、ギルドの女子にも敬遠されがちな、がむしゃらに突撃を仕掛けていく典型的な「イキったハンタータイプ」だったので、彼の今後の人生も踏まえ、「それはいかん」と思った私は、自ら書いた大剣指南書を彼の部屋のベッドに「それとなく」置いてやった。


それから数日後、性懲りもなく彼が稽古を志願(挑戦)してきたので、当然返り討ちにしてやったのだが、思ったとおり、指南書に書いてあることをちゃんと実践してはいたようだった(その回の去り際、稽古場に偶然居合わせたロロが地面で「うつ伏せ棒状態」で倒れているバーニーに向かって「お前は幸せ者だぞ。なにせ盟主の「愛のこもった一太刀」を受けているのだからな。ハツハツハツハツ」と偉そうに笑っているのが聞こえたので、手元にあった「火属性系の弓」を抜き、ロロの顔面目掛けて一射一爆報いてやった。次の日、神殿内で見かけたロロは言うまでもなく頭に「ぐるぐる包帯」を巻いて、何事もなかったかのようにスカしながら歩いていた)。


私はバーニーが大剣を「恥ずかしくないレベル」まで使いこなせるようになるのを見届けると、今度は「狩猟稽古」に誘ってみた。所謂「はじめてのひと狩り」である(とは言っても私はその過去、その立場から一人で出かけることを禁止されていたので、いつものようにデフォルトスキル「隠密」を活かし、こっそりバーニーを連れ、神殿をジェイルブレイクしてやった)。


険しいヒンメルンの山岳を登り、頂上付近に到達した私達を出迎えていたのは、その山頂の主である一頭の火竜であった。


体中に古傷を負った、まさしく歴戦の火竜は私達をターゲットと認識するやいなや、本能的にけたたましい咆哮の威嚇をあげると、鋭く飛翔しながら襲いかかってきた。


バーニーは慌ててボーンブレイドを抜きながら


「あいつって、ギルドのハンターでも苦戦するやつだろ!?」


と言うので


「最初のうちだけ。慣れれば狩猟の腕を磨ける、大先生みたいな存在よ」


と私は同じく肩に担いでいたバスターソードの柄で怖じけるバーニーの背中を押してやった。


情けない悲鳴をあげるバーニーに「飛竜の師匠」のでかい顔面が大口を開けて襲いかかってくる。


「ガード!!」


と私が叫ぶとバーニーは思い出したかのように大剣の刀身を火竜に向け、その尖った鼻先の一撃をなんとか凌ぎ、いなしてみせた。


火竜はそのまま急上昇し、華麗に空中でUターンすると再びバーニー目掛けて強襲を仕掛けてくる。


「オクサーヌ!!次は!?」


ガード体制のまま「本当の師匠」の指示を健気に仰ぐバーニーを見殺しにするわけにもいかず、私は


「大剣の基本攻撃は!?」


と、この窮地だからこそ彼に問いかけてみた。


彼は何かを悟ったように上空より火竜が吐いてきた火球を回転しながら交わすと


「一撃必殺!!」


と中指を立てると、すたこらさっさと頂上エリアの端まで逃げていった。


当然、火竜はその「おどけた獲物」を捕食するため、山頂ギリギリを低空飛行しながらバーニーを追走していく。


崖っぷちに立ったバーニーは強い決意と共に体を反転させるとボーンブレイドを振り上げ、迫り来る火竜のタイミングに合わせて大剣の溜めモーションに入った。


突進してくるモンスターを巨大な刀身の重撃により返り討ちにしてやるという無骨な荒業こそ、大剣ならではの「狩人浪漫」なのだが、果たして熟練ハンターでも難易度の高いその技法を「初狩猟」のバーニーが出来るのだろうか?だが、そのアイデアには感心すると同時にバーニーが稽古中にずっとイメージしてきたことを実践しようとしているのだろうという意図も感じることができた。


私はいざとなった時に備え、静かに呼吸を火竜のモーションに同調させながらそれを見守る・・


研ぎ澄まされた鋭い歯を剥き出しに大口を開け、その両端より漏れる怒気を含んだ火粉を向かい風に靡かせながら強圧感と共にバーニーを喰らおうと鬼気迫るリオレウス・・


怖じけず大剣を振り上げたまま溜めモーションを継続するバーニーの全身に闘気が迸る!


「今よ!!」


私の号令と共にバーニーは気組みが十分に充填されたボーンブレイドを振り下ろし、渾身の斬撃を火竜の顔面に向かって叩きつける!!


バーニーの振り放った闘魂一刀は、火竜の顔を覆う鱗を半壊させながら肉を抉るように打ちつけられた。


火竜は思いがけない激痛により空中状で悲鳴に近い咆哮をあげながら、悶え苦しむようにその身をたじろがせる。


それを見たバーニーは勢いづき、次の一手を試みようとする。


深追いは危険だと判断した私は「袖」の中に隠していたケムリ玉を叩きつけると一目散、煙幕に覆われていく山頂を駆け抜け、バーニーのもとに忍び寄り、その手を引いて急勾配な崖を飛び降りるように下山していった。


急滑走の最中、バーニーは


「なんでだよ!?もっとやれた!!」


と喚き散らすので


「上を見なさい!!」


と私が警告してやると、バーニーは上空を舞う「雌火竜」の姿を確認するも


「でも君だっているだろう!?それで対等だ!!」


と、まだ高揚冷めやらぬ状態・・。だから男の子って。


なので私はバーニーに説法してやった。


「むやみに大陸の命を奪ってはいけない!!それはただの乱獲者よ!!」


崖を急滑走しながら冷静に下の状況を捉える私の横で、バーニーが歯を食いしばりながら「イ~~~~ッ!!」て顔していたのを感じた。


私達はそのまま手をつなぎながら「賑やかに」崖を滑走していった。


「二人ハントも悪くない」


そう思ったのもつかの間、私達は豪快に山腹にある神殿に突っ込み、屋根と柱の一部を損壊。幸いにも私達以外に怪我人は出なかったのだが、当然、その後、二人揃ってロロ達「大人組」の「烈火の如くお説教」を食らうことになる・・。


To Be Continued





★次回ストーリーモードは1/21(月)0時更新予定です★