大好きだった両親との別れ


人は不幸なことがあるとその原因は何だったのか追求しようとする。


私の場合、明らかに原因は自分が下した決断にあり、子供ならではの警戒心や厳格さに欠けた衝動的な渇求に身を投じてしまったことが結果として不幸を招いてしまった。


ただ素直に自己憐憫に耽るのならば、あの時、あの連中さえ私の目の前に現れなければ、私達は辺境に住む「少しだけ」風変わりな家族として暮らしていたのかもしれないという仮定だけが頭をよぎり、その都度、連中に対する鬱積した憤怒も増していくのは事実だ(なので当然、連中は私の人生を荒廃に導いた正しく「親の仇」として認識している。それ故に今も相応しい贖罪を連中には与えているつもりだ。そこに正義や道徳はない。不義不孝、分不相応の逆徳だと言い立てられても構わない。それが私のドグマだから)。



七歳になり少し経ってからだろうか、前二本の乳歯が抜けたばかりのある日、私は「すうすう」する前の歯茎を気にしながら、いつものように白いドレスを纏い、足元は母がブランゴの毛(私が雪山に行った時、殺さずに「むしり取った」もの)を使って作ってくれた「モフモフブーツ(ムートンブーツみたいの)」を履いて散歩に出かけたときのことだった(この頃には多少なりとも両親の信頼は勝ち得ていたので、居住するゲルから然程遠くないエリアまでなら「狩人ごっこ」をすることを許されていたのだ)。


その頃の私は、ゲルから少し離れた氷山エリアに「ハマっていた」。


理由は単純明快で、そこのエリアには今も尚、大陸中からの庇護を受けて止まない「ポカラの子供たち」が、しばしば日向ぼっこをしに現れ、その愛狂おしい姿を見せに来てくれたからだ。


そしてどういうわけか、そのポカラの子供たちは私を見ても怖がらず(きっと「ちび」だからナメられていたのだと思うが、もともとポカラの幼体は好奇心旺盛で有名だ)、一緒に氷上を「転がったり」、「生のサシミウオ」をかじったりだとか、日が暮れるまでよく遊んだものだ(一度だけ、暗くなるまで遊んでいたら「互いの両親(向こうはポカラママやポカラドンのおじさん)」が、それぞれぷんすか怒りながらエリアインしてくるやいなや、まだ遊びたくてたまらない子供の足を引っ張って(向こうは尾ひれを咥えながら)、足早に遊び場を後にしたことがあった。以来、互いに言葉が通じなくても「日が暮れるまでには帰る」という共通認識を持つことになる。今でも私が「ポカラ贔屓」なのはこういった経緯があるからだ)。


その時は、昨晩父から教えてもらった覚えたての「じゃ~まんす~ぷれっくす」というのをポカラの子相手に試そうとしたのだが、想像以上に胴回りが「ぷっくり」していた為(寝る前のシュミレーションではうまくいった)、そうこうしている間にポカラの子供たちに囲まれ、見事返り討ちに遭い、つるつる滑る銀盤上から押し出され、逆に海に落っこちる羽目に...。


氷漬けになる前に銀盤上にあがった「ずぶ濡れな私」は、頭が冷える間もなく、なんとしても「じゃ~まんす~ぷれっくす」を「キメてみたい」衝動に駆られたまま、再度ポカラの幼体達に挑戦を試みる。


興奮止まない私が口を開け、「すうすう」する前の歯茎を見せながらポカラの子供達ににじり寄って行こうとすると突然、彼らは一目散に海に潜っていってしまった。まだ日が暮れていないのにだ!


最初は私の「じゃ~まんす~ぷれっくす」を「キメてみたい」あまりの物凄い剣幕に「してやられた」のかと勘違いし、尊大に嘲笑をかましていたのだが、すぐに彼らのその行動が逃走本能であることを悟る。


つまり、捕食性が強い大型モンスターがエリアインしてきたのだ。


私はすぐに手持ちの剥ぎ取りナイフを構え(この頃には愛用の「おそろしい牙ランス」は度重なる狩猟の末、折れてしまっていた為、メンテナンス中だったのだ)、恐怖心よりも遥かに上回る興味本位に胸を焦がしながら来るべきモンスターの登場を待った。


すると遠方から現れたのは、必死の形相で一目散にこちらに向かって駆けて来る「大人の人間達」であった。


がっかり


と思ったのも束の間、その人間たちの背後から、今にも捕食せんばかりの勢いで全身を銀盤上に急滑走させた凍戈竜(とうかりゅう)が、その鋭い嘴で「コッコ、コッコ」と独特な咀嚼音を立てながらエリアインしてきた。


ラッキー


私が直感的にそう思ったのには理由があり、その当時、凍戈竜の姿は過去に何度か目撃したことはあったが、特別「襲われる」こともなかった為、ひと狩りをしたことがない相手だったからだ。さらにその時の現状を鑑みれば、人助けを名目に「正当な理由」でハントが出来るし、かつ、それにより「親にも言い分が通る」というダブルラッキーフラグが立ったのだから、もう居ても立ってもいられなくなったのは言うまでもない。


というわけで剛毅果断な白いドレスの「幼女」こと私は、掲げた大義名分と共に颯爽と走り出し、慌てふためく大人たちの間を「スピードスケートの選手並」にエッジの効いた氷上ダッシュで縫いながら、迫りくる凍てつく海竜種に勝負を挑んだ。


凍戈竜は一直線に自分に向かって疾走してくる「小さな標的」に向かって、お得意の高速・高密度な超高圧水の水属性エネルギーから成るウォーターカッターをその「コッコ、コッコ」言う嘴を開け、豪快に噴射してきた。


なんてうんちくは当然、その頃の私に培っている訳もはなく、ただ純粋な逃走本能により、切れ味抜群のウォータージェットを「ほぼ100点満点のダブルアクセル&トリプルループ」で華麗に交わした私は、回転をそのままにこれまた「ほぼメダルものの」優美な着地をかましながら凍戈竜の頭上に乗り上げると、すかさず手にした狩猟ナイフで「ザギザギ」と凍戈竜の目を「やってやった」のだ!!(おそらくは現在では当たり前の狩猟技法となっている「乗り攻撃」だが、先駆者であるのはこの私であると自負している...うふふ)


凍戈竜は間違いなく「こりゃ敵わん」と思ったのだろう、「ザギザギ」にしてやられた真っ赤な目を治療する間もなく銀盤に「頭から」潜ると、慌てて逃げていってしまった。


また勝った


しかも初挑戦の獰猛なモンスター相手に・・


なんて自己陶酔の極みに達した私が「お~ほほ」と嘲笑ぶちかましていると、「情けない」大人たちがあからさまな「阿りかましながら」近寄ってくるではないか。


それもそのはずだ。


なにせ大人の自分たちでも敵わなかった「現役バリバリ」の凍戈竜をこともあろうか「見ず知らずの子」が撃退してみせたのだから。しかも秒単位で。しかも超可愛い子供だし。


媚びへつらい、私を考えられる形容詞をもって称える大人たちに対し、一瞬「お調子」に乗りかけた私だったが、すぐに常日頃から母に口を酸っぱくして言われていた「知らない人と話をしちゃダメ。しかも辺境なんだから=そんな所に来る人はまともじゃ~ない」の警告を思い出し、褒められ嬉しくてたまらない「子供興奮心(こどもこうふんごころ)」をギリギリの段階で抑えると、おもいっきし「ぷい」かましてやった。


すると大人たちは「人見知りなんだね」とか「きっと辺境に住んでる子だから、他の大陸から来た人間と話すのは初めてなんだよ」とかケチつけやがるもんだから、思わず私は反射的に「人とくらい喋ったことあるわぁ~!!ここにだってごくたまぁ~~~~~に、行商人だってくるんだから!!バカ!!嫌い!!」と言ってしまった。


嘘ではなかった。アクラの辺境でも、物好きな行商人や交易船がたまに来ることもあったのだ(両親曰く、シュレイド時代の「オトモダチ」だとか)。


すると今度は「ドン引き」しはじめた大人たちだったのだが、冷静になってよくその姿格好を見てみると、革と金属板から作った軽鎧を揃いも揃って着用していた。


私がきょとんとその見慣れぬ「稀人」の服装を見ていると大人の一人が「そんなにこのレザーライトシリーズが珍しいのかい?」と言ってきたので、私は子供ながらの虚栄心から首を左右に振った。


すると今度は群れの奥より、子供の観察眼からみても一人だけ風格の違う男が前に出てきて、私にこう言った。


「こんなに可愛らしいモンスターハンターを見たのは初めてだ」


私も初めてであった。



モンスターハンター



なぜか惹かれてやまないその言葉を聞くのが....







Recollection No.2_02







そしてその言葉を私に教えてくれた、当時は「ただの生物学者」だと名乗っていたこの人物こそ、後に王立古生物書士隊の筆頭士官となるジョン・アーサーであり、このアクラでの体験をもとに綴ったのが母の貴重な話も書き留められている「アクラ探索記」であった。


今でも思う。


あの時、あの場所であの連中を殺していれば・・

或いは凍戈竜を撃退せず見殺しにしていれば、モンスターハンターなどという言葉とその存在を知らぬまま、私は大好きな両親と共にアクラにいることができたのかもしれないと...。



To Be Continued






★次回ストーリーモードは11/26(月)0時更新予定です★