萩原朔太郎を「掬いとった」その先7
こんにちは、久田和弘です。
現在『月に吠えらんねえ』の3巻まで読了しましたが、なんとなくこの作品のテーマが垣間見えてきました。
- 近代作家の戦争責任
- 女性の自立
2巻までは割と軽い雰囲気で進んでいくものの、ひたひたと迫りくる戦争の影が、3巻でいよいよ登場人物らを飲み込みます。
現実に負けない夢
というのも、この作品、3巻になってガラッと雰囲気が変わるといいますか、物語が加速していくので、正直ページをめくるたび戸惑いましたよ。国をあげて戦争を肯定しようとする動きに、為す術もなく文学が蹂躙されていく最中、まず最初に勢いに負けてしまったのが白さんです。
白さんは次々に兵士たちを鼓舞する歌をつくり出し、その歌の犠牲となり死んでいく若者らと旅のなかで交流する犀(さい)。
犀は、室生犀星という近代作家がモチーフになっています。室生犀星は芥川龍之介や萩原朔太郎など、今では知る人ぞ知る作家らと顔見知りだったというエピソードが有名な一方、最近になっても小説が度々メディア化されていることから、近代作家のなかで世間的認知度が最も高いのでは。
戦争詩はひとりの少女さえ救えなかった
白さんや朔くんが持つ狂気をはらんだ才能を否定するため旅にでた犀ですが、目にするのは訳も分からぬまま戦争に駆り出され、死んでいく若者ばかり。死にいく彼らの姿を目の前に、犀は国を想い自らつくり出した戦争詩のあり方を否定します。
ただただ、戦いにいけない自分でもできることはないかと悩んだ末の戦争詩だった、残酷な現実に負けない夢を見せてあげたかっただけなのに、現実に負けた少女を最期まで生かすことさえできなかった犀と同様に、室生犀星もまた苦しかったのでしょうか。
