『ダブル』から考える表現の原水
多家良が俳優としてデビューするということは、「表現の世界」から求められること…その事実と向き合いながら、多家良は徐々に自分の言葉で語り・考え、友仁のつくった分厚い殻を脱ぎ捨てていきます。
それは一見自立のようですが、その後多家良の妄想に度々登場する友仁の姿から、ふたりを繋ぐ簡単には切り離せない「なにか」の存在を多くの読者が感じ取るでしょう。
それは、友情なのか。
それとも嫉妬なのか。
または、これら以外の、簡単に名前をつけられない、もっと複雑な感情なのか…。
自分がとても不思議なのは、多家良の妄想に登場する友仁は、本物よりずっと「優しい」ということ。
多家良が理不尽な目に遭い苦しんでいる時に必ずあらわれ、彼の考えを決して否定せず、すべてを受け止めようとする姿は、明らかに本物の友仁とは「違う」人物です…。
ところで、『ダブル』にはメインのふたりの他、個性的な俳優・女優・彼らを支えるスタッフらが登場します。
まず、多家良を芸能の世界に導くマネージャーの「冷田さん」。
舞台を通し多家良の演技力だけではなく見た目の美しさに大きな魅力と可能性を感じ取った冷田さんは、「存在を世界に知らしめたい」と猛アタックしてきます。
そもそも彼女が多家良を知らなければ、多家良の名を世間の人々が知る機会は永遠に失われたといっても過言ではありません。
